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テーマから作る本、言葉から作る本。

編集を担当した新年最初の新刊、明後日ついに発売!毎回発売日が近づくとソワソワしてしまう。今回は新刊ができるまでについて少し書いてみたいと思うので、興味のある方はお付き合いくださいませ。

企画ができるまで

ほかの編集者の方がどのようにされているかは知らないけれど、私が書籍を作るときはだいたい2つのパターンから始まる。

ひとつは、テーマ(取り上げる内容や著者など)を立ててから想定読者や方向性を広げて企画に仕立てあげるパターン。

もうひとつは、ふと思いついた言葉から1冊の本の形になるよう企画に落とし込むパターン。

今回の新刊『じゃない、幸せ。』は、後者のパターンだ。

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昨年の春ごろ、ネットニュースで「ブロガー・作家のはあちゅうさんが妊娠」というような記事を見かけた。はあちゅうさん、前からなんとなく気になって、ちょこちょこと書いたものを読ませてもらったりしていた人だ。一昨年はAV男優のしみけんさんとの事実婚を発表され(書籍編集をする前、Webの仕事でアダルトコンテンツ制作関連の内容もあったので人気の俳優さんと認識しており、おお!と衝撃を受けた)、話題になっていたのが記憶に新しい。へぇ~お子さんができたのかぁ、おめでたいなぁとのんきに思っていた。最近は望んでもなかなか授からないことも多いから、素直に喜ばしいことだと他人事ながら幸せな気持ちになった。

が、そのあとの展開に驚いた。

妊娠を隠していたのではとか、妊活をネタにとか、妊活中の人への配慮が足りないとか、とにかくいろんな種類の批判を浴びて炎上していたのだ。「えぇ、おめでとうでいいやん!!」と心から思った。そりゃ受け止める側によってとらえ方は様々だから、発信するほうはある程度配慮すべきこともあるだろうけど、今回のようなことまで批判の対象になってしまうならあまりにも生きづらい世の中だ。そもそも有名人であっても一人の人間なのだから、すべてを包み隠さず公開する必要もない。えぇー妊娠、発表のタイミング、家庭環境、なんなんそんな他人がとやかくいうことなん……と、しばらくはモヤモヤした気持ちが残った。

「人と違う」ことを「生きづらい」ことにしたくない

職業に貴賤はないとしながらあれやこれやと見定め、みんな違ってみんないいと謳いながら人と違うことをすると叩かれる。なんでそんな苦しくて面倒なことになってしまうんだろう。あなたと私は違う人、考え方も人それぞれ、それだけの話じゃないのかしら。人によって受け止め方が違うだけのことを、どうして目くじらたてて気にする必要があるだろう。なんだかなぁ。自分が幸せならそれでいいじゃないか。幸せって、幸せって……。

そんなことを考え続けていた時期に、ふと降りてきたのが「じゃない、幸せ」というキーワードだった。

そうだ、「じゃなく」てもいい。自分が幸せなら、それでいい。

誰もが認める理想じゃなくたって、自分が認めてあげられれば、自分が良いと思えばそれでいいだけの話なのに、なんだってそんな私たちは直接自分に関係ないあれやこれやをこんなにも気にしているんだろう? こんなことさえも、人に背中を押してもらわないと自信を持っていえない時代なのかもしれない。「じゃない、幸せ」いいじゃないか! 他人がなんだ!

そんなこんなで、「じゃない、幸せ」という言葉から企画書づくりが始まった。考えはじめたら「〇〇じゃない、だけど幸せ」はいっぱい出てくる。一流企業勤めじゃない、立派な肩書じゃない、結婚していない、大きな声で恋愛の話ができない、家族仲がよくない、友だちがいない、美人じゃない、自分が好きじゃない、etc...... 自分自身も思いのほか、学生時代においてきたと思っているコンプレックスを引きずっていたりして、なんだかこんなにいろんなことにとらわれていたのか、そしてきっとそう思っていた人ってたくさんいたんじゃなかろうかと思うと少し切なくなってしまった。そんな人たちに届ける本をつくりたかった。私は、誰かの心に少しでも寄り添って、気持ちを楽にしてもらえるような本をつくりたかった。

そこから対象読者を想定し、この本を通して伝えたいこと、全体の構成を組み上げていく。あとは誰に書いてもらうかだ。カウンセラー? 教育家? 大学教授? コラムニスト? 脳科学者? 最近話題の有名人? タレント……?

色々と考えたけれども、やっぱり今回のこの本は、この言葉のきっかけをくれたはあちゅうさんがぴったりだと思った。彼女の著作も記事もたくさん読んだ。過去、何度も炎上をしたり、アンチの人に付きまとわれたりと大変な思いをしているようだけど(それこそ私たちにはあんまり身近でなく、「普通じゃない」かもしれない)、私が見る限り、人並みにコンプレックスを抱えて、それを解消しようと一生懸命努力して、傷ついても立ち直ろうともがいて、それがたくさんの人の目に留まって、反感を持たれることもあるようだけど、同じくらい魅力も持ち合わせている「一人の女性」だと思った。というか炎上女王みたいなイメージがあったけどまっとうな人やん、普通にまわりにいそうだよこういう人。なんで目くじらたててそんな噛みつくことがあるんだろう……? と思ったけどそれはそれで置いといて。

私は、彼女に「じゃない、幸せ」を書いてほしかった。それがこの企画のベストだと思った。

とはいえ妊娠中の方(しかもその時点ですでに妊娠公表してからしばらく経っていたので、どんなスケジュールであれしんどい時期に差し掛かりそうだった)に執筆依頼をするのもどうなのかしらと迷っていたが、エイと思い切って相談してみたところ、彼女からも「ちょうどそんなことを考えていて……」と前向きなお返事をいただき、話はとんとん拍子に進むことになった。これは余談だが、著者と企画のタイミングが合うとき、私は編集者としてとても嬉しい気持ちになる。この人と一緒にお仕事をしたいと思い、向こうにもそう思ってもらえるというのは編集者であれなんであれ冥利に尽きるなと思う。

執筆は9月~10月と、なんと産前産後にかけての期間だったが、彼女は出産準備と子育ての合間を縫い、こちらの心配も余所にキッチリと遅れることなく原稿をあげてくれた。ひとつひとつが、実感をともなった言葉で書き表されていて、時折彼女らしいちょっと強気な表現もあり、それがまた一人の人間らしさが出ていて心にストンと落ちてくる原稿だった。

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じゃない、だけじゃない話もある。

そこから全体をまとめあげ、パッケージとなるブックデザインは大好きなtobufuneさんに、カバーのイラストは、tobufuneさんに素敵なイラストレーターさんを紹介してもらい、少ない線で強さを持った独特のタッチが印象的な牛久保雅美さんにお願いをした(あとから知ったが、はあちゅうさんと親しい村上萌さんの書籍のイラストも担当していた。勝手に嬉しくなる)。デザイン候補は6~8案にものぼり、どれも魅力的で絞るのに苦労したけれど、私とはあちゅうさんでこれ! と思うものが一致して、結果、今回のタイトル、テーマにぴったりなすごく素敵な仕上がりになった。


当然、毎回毎回そうなるわけだけど、この『じゃない、幸せ。』も、たくさんの人の想いと手間暇をかけてつくりあげた本当に大切な一冊だ。素敵な本だと自信を持っていえるし、この本を必要とするひとりでも多くの人に読んでいただきたいと心から思う。

そして個人的なことでもあるけれど、この企画がスタートした2019年の初夏に、私自身の妊娠も発覚した。はあちゅうさんに続いて自分自身も近しいタイミングで子どもを授かり、日々身体や生活が変化していくなかで、先をゆく彼女の言葉や体験には「そうなの?」と思うことや、「確かに、そのとおり…!」と膝を打つこともあり、女性から母親へと変化していく自分を受け入れるにあたって、私自身も、自分の「●●じゃない」をどんどん受け止めて、幸せをアップデートしていこうと思った。出産前の最後の編集書籍となるこの本は、編集者としてだけでなく読者としての私にも、大切なものをもたらしてくれた。手塩に掛けて育て上げた我が子のような本が、十月十日おなかのなかで育てた子どもが生まれるよりもほんの少し先に、世の中に旅立っていく。それも何だかとても嬉しい。

あなたの「じゃない、幸せ」に響きますように。

ぜひ、手にとってみてください。


『じゃない、しあわせ。 とらわれずに生きるための幸福論

はあちゅう著 秀和システム刊 2020年1月16日発売

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