宝箱を置く人タイトル

1:世界は混沌としている

『おい早くしてくれ!また化け物が来ちまう』
大男は声を少し荒げながら言った。タケやんはボロボロの頭陀袋をしゃがみながら漁っている、するとガラス製のキャニスターを取り出して動きが止まった。中には鮮やかな青色をした薬草が入っており、タケやんはしばらく考え込んだ後、蓋の留め具を外してそれを中から出した

頭陀袋の側には大分古びた木製の宝箱が置いてあり、それを開けて薬草を中に入れた。しかしまた薬草を手に取り動きが再び止まった
『おいどうした!?なんで固まってるんだよ!』
大男は斧を構えながら、顔だけこちらに向けて困惑した表情を浮かべている『………』
タケやんは無言で薬草をキャニスターの中に戻し、キャニスターごと宝箱の中に置いて蓋を閉めた。5秒間考え込み、慌てたように宝箱を開け、再びキャニスターから薬草を取り出している

『だから、さっきから何してるんだよッ!?それで良いだろもう!ちんたらしてたらまた化け物来ちまうぞ!!』
ジメッとした薄暗い洞窟の中に大男の低い声が木霊した
『……その、薬草…裸だと、酸化…するので』
タケやんが吃って言うと、言下に道破して大男は怒鳴った
『じゃあ容器ごと入れちまえば良いだろッ!何をそんな迷う事あるんだよッ!?少しは今の状況を考えてくれッ!』
『……でも、キャニスター……高いんで…』
呆気に取られた大男は沈黙した
『…いくら金貰って用心棒しているとはいえ、あんたのその容器のせいで命を落とすのは勘弁だからな……
!ほれみろ、そうこうしている内に怪物どもが来ちまったじゃねーかッ!』

洞窟の外は夕暮れ色に染まっていた。遠くに見える街並に明かりが灯り始めている。虫の鳴声と初夏の風が涼しく、時折木々が立てる音が心地よく聞こえる。街へと続く道に大男とタケやんの影が伸びていく。大男は少し気遣った様に、目だけタケやんの方へ向けて尋ねた

『どうして態態あんな洞窟の奥底に宝箱なんて置きに行ったんだ?誰かに頼まれたのか?』
タケやんは俯いたまま何も言わなかった。気不味い空気が流れる中、大男はその空気を壊すように質問を続けた
『いや俺は別にな、あんたの立ち入られたくない領域にズケズケと土足で入ろうなんて思っちゃいねーんだよ。ただな、その、なんか抱えている悩みとかよ、問題があるんなら相談しても良いんじゃねーかっていう話でな...』
沈黙に変化は見られなかった。その状態のまま二人は街へと帰ってきた

『そいじゃ俺はここまでな、また用心棒が必要になったらあの店に来てくれ、力になるからよ。あんたは隣町だろ?もう日も暮れそうだし帰るんなら早くしねーと、それとも今日はこの街で泊まっていくのか?』大男が少し疲れた表情で言うと、ようやくタケやんの口が開いた
『...明日から仕事なので、帰ります...』
一瞬驚いた顔をして、ここぞとばかりに大男は質問した
『仕事って、宝箱を置きに行く仕事か?』
『...宝箱を置くのは...仕事では、ありません...仕事は仕事で、他に...あります...』
幾つか疑問が浮かんだが大男はそれ以上質問をしなかった。立ち去ろうとするタケやんを呼び止め、しばらくすると駆け足で大男が戻ってきた

『ハァハァ...これ持ってけ!今にも穴開きそうだからよ!』


タケやんは革のリュックを手に入れた。

つづく

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