スクリーンショット_2015-04-01_9.13.52

3:渓谷に漆黒あり

ここは粉吹き谷

辺り一面粉だらけ、風が吹くと粉が舞うので視界が悪くなる程だ。私は粉吹き谷が嫌いだ、粉吹き谷に行く奴にロクな人間はいないと思っている。粉吹き谷に行くぐらいならカッピカピの森に入って、キノコの化け物に襲われた方がマシだ。何故ならここへ行くと、くしゃみが止まらなくなるし、帰宅後には必ず体調不良になる。おまけに服の隙間に粉がびっしりと入ってくるのも腹立たしい、とにかく行ってもロクな事がないのだ

この粉吹き谷の粉は一体何なのか未だ解明されていない。一部の説では、双子のジジイがこの谷で暮らしていて、長年かけて粉を撒き散らしていたのではないかと言われている

その谷にタケやんと用心棒がやってきた...

用心棒の格好は、何故かアメリカンポリス風で手にはショットガンを持っており、ボンサックを背負って腰には手榴弾が二つ、七部丈の白いパンツを履いている。一見するとただの変態だが腕にはかなりの自信がある様だ。その用心棒は自らを「ポリコー」と名乗った

『兄ちゃん名前はなんていうのよ?』

かなり馴れ馴れしいポリコーにタケやんは戸惑いながらも答える

『……タケ、タケ…タケヤーン、ルドルフ…』

『あ?何だって?』

『…タ、タケ…タケ・ヤーン・ルドルフ…』

『タケやんでいいな?タケやんはこの谷初めてなのか?』

タケやんは初めてここにやって来た事と、谷の奥底にある「18禁の滝」に宝箱を置きたいと告げた。ポリコーは説教臭く語り始めた

『ここに初めて来た奴があの滝を目指すのは無謀だぞ?命がいくつあっても足らんぞ?はっきり言って今のお前の実力じゃあ辿り着けないな、でも安心しろ。俺が、このポリコーがいる限り、その野望は実現可能となる。良かったな、お前は本当に強運の持ち主だぞ?このポリコーに案内されるんだから』

語りは更に続く。この谷の18禁の滝へのルートには二つあり、一つは鳥の化け物に襲われるので、もう一つの方のルートで行った方が良いという事と、砂塵が凄い時は目を瞑った方が良いという事、そしてこの谷には世界で恐れられているdark knightが出入りしているという事を話した

語りは更に更に続く。世界を二分している魔女勢力と魔導士勢力と同じ様に、戦士にも世界を二分している勢力があるらしく、片方は白人の戦士群、もう片方は黒人の戦士群で分かれている様だ。世界各国の王室に属しているのが白人の戦士達だからか、世界的には白人の戦士達を「勇者」と呼ぶ風潮がある。一方黒人の戦士達は、市民に何も危害を加えていないのに「勇者」と敵対する勢力だからか、悪者の集団という印象が強い。特にdark knightと呼ばれる人物はその中でも実力があり、忌み嫌われているみたいだ。近年注目されているのが、王室側は世界を二分している魔女群と魔導士群のどちらを支持するのかという事で、動向次第で世界情勢がガラリと変わる。その為、王室側に属する白人の「勇者」といざこざを起こした方が不利になるというおかしな現象が起きている

タケやんは両手で宝箱を持ち、歩きながら黙ってその話を聞いていた。途中腕が疲れるので地面に宝箱を置いて一休みするが、ポリコーが歩調を一切変えず歩き続けるので、息を切らしながら追いかけるというのがしばらく続いた

砂塵だ

ポリコーがタケやんに目を瞑る様促す。強風と共に体中を砂と小石が叩きつける、耳に当たる小石が特に痛い。目を閉じている最中、闇の中にアインシュタインの顔が浮かんだ。辛い時ほど時間は遅く流れていく、まだ砂塵は続くのかと心の中で何度繰り返しただろう、兎に角その砂塵は永遠ではなかった。タケやんはホッと胸を撫で下ろした

顔の砂を払い、狭い砂利道を再び歩き出す二人。遠くに滝が見えてきた、獣の様な低い叫び声も遠くの上空から聞こえてきた

『おかしいなぁおい、何でこのルートで阿多福鳥の鳴き声が聞こえるのよ?やめてくれよ頼むぞおい。念のため威嚇しておくか...』

ポリコーはそう言うとショットガンを空に構え発砲し始めた。サイレンサーが付いているからか銃声が響かないのが気になったが、鳥の鳴き声はしなくなったようだ

阿多福鳥とは、おたふくの顔をした人面鳥の化け物で、上空から急降下して鋭い嘴で襲ってくる、今までも何十人と犠牲者が出ているらしい。タケやんは、何処かに隠れなくて大丈夫か何度もポリコーに確認したが、ポリコーは笑って答えた

『心配性だなおい、ハハハッ!だーいじょぶだぁ、もうどっか行っちまったし襲ってきても俺の狙撃には敵わねぇ!ったく心配性だもんなぁーハハハッ!』

言って間もなく阿多福鳥がポリコーの顔を掠めた

ポリコー達は慌てて近くにあった阿多福鳥避けのほら穴に避難した。急だったのでタケやんは宝箱を持たずに来てしまった様で、阿多福鳥達がその宝箱を突いている。ポリコーはほら穴の中からショットガンを撃ち始めたが、阿多福鳥は微動だにしない。発砲しながらポリコーは徐々に近付いていき、ほら穴から出て行ってしまった。物凄い至近距離から撃っているのに阿多福鳥達は微動だにしないので、遂にはショットガン本体を振り回してようやく追い払った。砂塵も再び来たので、しばらくほら穴の中で休憩する事に

『おかしいなぁおい、こっちのルートは安全なはずなんだけどな。あれじゃないか?異常気象とかのせいなんじゃないか?な?たぶんそうだわ』

そう言いながらポリコーは徐に腰に付いていた手榴弾を手に取り、上部の蓋を開け、中から何かを取り出し食べ始めた。カリカリいっている

『これか?これはあれだよお前、あれだ、梅しばだ。梅しば。酸っぺぇぞ、食べるか?これはあれなんだよ、食べ終わった種あるだろ?その種が銃弾代わりにもなんのよ。良いか?見ててみ、こうしてだな...』

ポリコーはショットガンを詰まらせてしまった

『おい!なんかどっかに細長い枝みたいのねぇか?種が奥に入って取れねぇのよ!おい!枝みたいのちょっと持ってきてくれ!』

枝など落ちているはずもなく、タケやんが困り果てているとポリコーがイライラしながら言った

『じゃあちょっとお前外の様子見てこいよ!いつまでもここで待機してる訳にもいかねぇだろ!あと枝かなんか落ちてたら持ってこいよ?』

お金を払って雇っている用心棒に怒られるタケやん。お前呼ばわりの上にパシリまでやらされる始末である。阿多福鳥がいない事を確認してタケやんが戻ってくると、無事に種は取り出せた様だった。二人は再び禁断の滝に向かって歩き始めた

辿り着くとそこにはdark knightが岩に腰掛けて座っていた。その存在感の凄さに黙り込む二人、黒い鎧が光の反射によって虹色に鈍く輝いている。睨みを利かせた白い眼がタケやんとポリコーを捉えた。タケやん達は宝箱をここに置きに来た事を告げると、dark knightはゆっくりと立ち上がり桃色に染まった剣を二人に向けた

『…死にたくなければ黙って立ち去れ』

ポリコーは無言でタケやんの肩を叩き、帰ろうと首を振った。しかしタケやんは動かない。両手で宝箱を抱えたまま口を開いた

『……こ、ここに…宝箱を、置きに…来ました…それ、それだけ…です』

ポリコーが慌ててタケやんの腕を引っ張って立ち去ろうとするが、タケやんは頑なに動こうとしない。dark knightが剣先を二人に向けて黙って歩み寄ってくる。ポリコーは覚悟したように銃口をdark knightに向けた、dark knightは止まらない、3mぐらいまで近付いた所でポリコーが発砲。しかしまたしても微動だにしない、構わず近付いてくる。乱射するが何も変わらなかった。先程と同じようにショットガンを振り回して応戦するも、一振りでポリコーは吹き飛ばされてしまった。岩に激突したが、ボンサックがクッション代わりとなってポリコーは奇跡的に無傷だった。次にタケやんが一振りで吹き飛ばされた、衝撃音が響いたが不思議な事にタケやんは何事も無かった様にむくりと起き上がる。ポケットから、ちさとに貰った石が割れて地面に落ちる。少し驚いた表情を見せるdark knight。今度は両手で剣をしっかり構えてタケやんに近付いて行く、大きく剣を振り上げた所で辺り一面白く閃光した

耳鳴りで音が聞こえない。気が付くとdark knightは遠くへ吹き飛ばされており、目の前に見覚えのある巨大な人影が立っていた。ちさとである

ちさとは続け様にごっつい杖を天に振りかざし呪文を唱える。急に空が曇り始め、雷鳴が響きだした。dark knightは諦めた様に立ち去っていく。ちさとはそっと杖を下ろし、振り向いてタケやんを見つけると物凄い剣幕で怒鳴った

『だから言ってんでしょうが!あんたのその甘い考え方だと、命がいくつあっても足りないよってさッ!何度言ったら分かんのよッ!!』

タケやんは俯いたまま黙りを決め込んでいる

『無意味なのよ、無意味!全くもって時間の無駄ッ!ただ周りに迷惑を与えているだけ!誰も救えないし、自分すらも救えていないじゃないッ!なんなのあんた、死にたがりなの?そんなに死にたいなら一人でさっさと死ねば良いじゃない!これ以上周りを巻き込むなってッ!あんたは単なる偽善者なのよ偽善者!ただ自分が可愛いだけッ!どうせ自分が良く思われたいだけなんでしょ!?早く死ねよッ!死ねッ!とっとと死んじまえよッ!』

乾ききった悲しい風の音だけが鳴っている。耐えられない空気だ。沈黙の後、タケやんがとうとう口を開いた

『……ッ!っるせぇなぁぁぁッ!ブスがよぉぉぉッ!!』

ポリコーとちさとは唖然としている。タケやんではないみたいに、感情むき出して地面に向かって叫んでいるからだ。ちさとはムキになって言い返した

『あ?何だって?もう一度言ってみろッあんたぶっ飛ばしてやるわよッ!?』

タケやんはもう観念した様に続けた

『黙れよぉぉぉッ!お前に何が分かんだよぉぉぉッ!ブスのくせに偉そうによぉぉぉッ!もう放っといてくれよぉぉぉ!!』

ちさとは両手でタケやんの胸ぐらを掴んで持ち上げた

『誰に向かって言ってんのよッ!えッ!?もう一度言ってみろッ!えッ!?』

ポリコーが慌てて止めに入るも、ちさとにはもう何も聞こえていない様だった。暴言を吐きまくるタケやん、ちさとはタケやんを地面に下ろし、足で転けさせては起き上がらせ、転けさせては起き上がらせを5、6回繰り返した。タケやんは何も言わなくなって泣き崩れた

ちさとは立ち去って行った

引き攣った顔でポリコーがタケやんを慰めている。無情にも砂塵は二人を襲う。砂塵の去った後、二人は宝箱を滝の側へ置いた。その時にdark knightが置いて行ったと思われる銀色の盾を見つけたので、ポリコーは思い出にとタケやんの革のリュックにそれを入れてあげた。帰り道は不思議と阿多福鳥は襲ってこなかった。沈黙のまま二人は麓へ戻ってきた

すっかりタケやんは正気を取り戻しており、ポリコーは笑いながら帰っていく。ポリコーが去っていきながらショットガンにガスの様な物を注入しているのを見て、タケやんは気付いた

ポリコーが本物の銃ではなく、おもちゃのガスガンで応戦してたのかと思うと、タケやんは途端に冷や汗が出てきた


タケやんは銀の盾を手に入れた。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?