宝箱を置く人12

最終話:幻燈

『何に怯えている、何度も観てしまった夢の事か?』『…いや、違う。別に、怯えてなんかない』『案ずるな、お前の望みは叶う。結末には必ず死が迎えてくれる、お前は楽になれるのだ。それとも今更延命したいとでも云うのか?仲間達との惜別を受け入れられないと?』『…別に何も思っていない』『気が遠くなる程長かったものな、死を受け取る為に、自分自身が受け入れる為にお前は宝箱を置き続けて来た。自分の生活に何の価値も見出せないお前は、存在理由を探すように各地で置き続けて来た、色々と思い出す事もあるだろう。ご苦労さん、大変だったな、もう少しで終わるぞ』


 大陸全体に火山灰が降り積もる。世がモノクロームと化していく。装飾された物が外され、有りの侭の姿を見破られた様に、まるでメッキが剥がれたかの如く映っている。それを見下ろす形で死刑囚は処刑台という名の証言台に向かった。混沌としている世を目の当たりにし、彼は何を思うのか。死刑囚には死と、言い残した事を告げる僅かな時間だけが投与された。一段一段踏締めて、死を待つ人は登壇する。彼は言葉で何かを成仏する気なのかも知れぬ、それが神話を題材にした作品なのか、或いはそれらを執筆した文豪なのかは分からぬ。彼は言葉で何かを成仏する気なのかも知れぬ

『…まだ気付かないのか?見捨てられたんだよてめェは。何かに属したところで、良い様に使い捨てられるだけなんだよ。嘲笑しちまう、信じた結果がそのザマだ。利き腕を吹き飛ばされて終わりと来た』

そう言うとバスタは倒れ込んだザッセンの右手から盾を奪い取った。『…もう必要ないだろ、片腕で何が出来る』近くには剣を握りしめたままのザッセンの左腕が転がり落ちている

『ねぇ梅子婆ちゃん、パッズゥッレィーノを封印するってさっき言ってたけど、どうやってやるの?』ちさとは杖を構えながら聞いた『塔の瓦礫の中に封じ込めておいた宝箱がある筈だよ、それをあの化け物の側へ置いてやればアイツは宝箱に吸い込まれる。肝心なのはその後、誰かが蓋を閉めないといけない。でもまぁこの暗さじゃ、宝箱を見つけるのは困難だろうね』準備体操を終えた梅子はタケやん達にその宝箱を探すように告げた『さ、探せったって塔の瓦礫ってどこにあんだよ?お、おいポリコー覚えてるか?』とシケモク太郎は恐怖で足をガクガクさせながら云った。ポリコーはちさと達の居る瓦礫の山を指差し『今暗くて見えないけど、多分あそこだと思うぞ?あそこから瓦礫を掻き分けて来た記憶があるからな』『え?む、無理じゃね?』『ほんとそれw禿同だわwwあんな瓦礫の山から探せって、丸一日掛かっても無理ゲーwwしかもこの暗闇の中www』ポリコーが弟子に埋もれた宝箱を探す様に指示を出すと背広男は嬉しそうに駆け出したが、早々に溝へ転がり落ちてしまった

漆黒は次元を歪めている。悲愴と共に埋没する気だ、自然も、街も、人も、日々も、全てを捲き込み何重もの層に構築していく。奥底に実体が蠢いてはいるが、その姿を見る事は出来ぬ。如何なる光も届かぬのだ、期待や望み、陽射し、温もり、情すらも意味を持たない。触れようとすれば乖離する、為す術が無い。ケーブの外では鴉の群れがけたたましく飛び回っている、老婆は上空で呪文を唱え始めた。マグマは城下町へと向かっていた、森林を溶かしながら迫り来る。遠く離れた空に浮かぶ大型の浮遊船内では白髪の老人が苛立ちを募らせていた、予定の時間になっても王室側の人を乗せた浮遊船が離陸しない。計画が失敗に終わる事に戦々恐々とした白髪の老人の罵声が轟く

『痛っ〜おいおい何だここは?急に地面が歪みだしたぞ、そもそも地面も見えない程の暗さなのによォ、人の姿だけは見えるっつーのも訳が分かんねぇぞおい。何なのよここ〜!』タケやん達が溝へと転倒している、ポリコーはボンサックが丁度良い感じにクッション代わりとなって無傷の様だ。シケモク太郎は腰を押さえ、腐魔女は頭を押さえている『ガチでビビったわ…このヤロー、F5攻撃すんぞ…杖さえあればなぁ…あの化け物フルボッコにしてやんよ。とりあえずおまいら餅つけ(´・ω・)つ旦』ふと見ると背広男が手探りで瓦礫の山から宝箱を探している、タケやん達も駆け寄った

『…なァ婆さん、あんたあの化けもん初めてじゃねェのか?何でパッズゥッレィーノの姿が見えなくなったんだ?この空間も訳が分からねェ』バスタが梅子の方を見上げながら聞くと『闇の中に蠢くものがパッズゥッレィーノじゃ、奴は一瞬で移動するから見つけても無駄だがね。細かい事は誰にも分からんよ、この物の怪には常識が通用しないんだ』梅子は下へ降り立った、バスタは嬉しそうに微笑みを浮かべて『…そいつを成敗出来る絶好の機会が訪れたって訳か、伝説として語り継がれるぞ俺は』ちさとは目を瞑り呪文を唱えている、重量のある無骨な杖を振り下ろすとその先に炎が噴き出した。しかし闇の化身は姿を晦ましたまま動かない、黙ってその時が訪れるのを伺っている

『どうでも良いけどよぉタケやん、その鎧目立ちすぎじゃねぇか?スッゲェ光ってんじゃん、眩しいぜ。せめてその光で瓦礫を照らせれば良いんだけどなぁ〜この闇の中じゃ人しか映らないみたいだし、ホントどうなってんだ?』顔を土だらけにしたシケモク太郎が手探りで瓦礫を掻き分けながら云う『隊長さん、あ、ありましたからね、宝箱。か、硬いですから色々と、重いですし、宝!』皆が背広男の方へ集まる。背広男はシャンデリアを持っていた『バカこの、全然違うじゃねぇかお前ッ宝箱を探せって言ってんだろ、紛らわしいなおい。一々呼ばなくて良いから、それっぽいの見つけたらこの箱の中にどんどん入れていって!』ポリコーはそう云うと、空の宝箱の中にそのシャンデリアを放り投げた。一同が二度見する『……え、それは違うのwww』『あ?何がだよ、良いからどんどん入れていけよッ時間ねぇぞ!』険しい顔で怒鳴るポリコーに腐魔女は笑いながら『いやだからwwその箱が探してる宝箱じゃねぇのwww』ポリコーは結構前から宝箱を見つけていた。パッズゥッレィーノの悲鳴がケーブに木霊する

黒い霧の様な物体が宝箱の中へ吸い込まれていく、途端に地面が更に歪みだした。宝箱がケーブの奥の方へ引き摺りこまれていく中、タケやん達は衝撃で吹き飛ばされてしまった。割れた眼鏡のまま背広男は直ぐに起き上がり矢を放ったが、黒い霧に刺さる事は無かった、矢は虚しく闇へと消えていく『大変だ、早く蓋を閉じないと逃げられてしまうよ!』梅子が慌てて宝箱を捕まえようと飛びつく、黒い霧は一層激しく暴れ周り、梅子も弾き飛ばした。暑さで汗だくになったちさとが再び呪文を唱えている、杖を振り下ろすと今度は竜巻が宝箱へ向かっていった。宝箱が黒い霧と共に回転しながら舞い上がる。するとバスタの剣先から放たれた雷が、宝箱と黒い霧諸共地面へ叩きつけてしまった『ちょっとアンタ何してんのよッ!』『…うるせェ黙れ腐れ尼が、誰が封印しろって言ったんだよオイ。俺はこの化けもんを成敗する為に態々ここに来た、絶好の機会を無下にするな』再び勢いを取り戻した黒い霧がちさとを壁へ押し付ける、ちさとは身動きが取れなくなってしまった。二重顎が、四重顎ぐらいになっている。肉々しさがより一層増す、そして脂っこい。こってりしている、カロリーが多そうだ

宝箱から離れた黒い霧は、ちさとの杖と共に再び闇の中へ紛れてしまった。ちさとは倒れたままぐったりしている。片腕の勇者も倒れたまま脂汗を流し苦痛に顔を歪めている。バスタは今一度大剣と因縁の銀の盾を構え直した。外ではちさとの母親である魔女の老婆が必死で流れ出る溶岩を食い止めようとしていた、凍結させようと呪文を唱えて石製の杖を何度も振り下ろすが一人の力では到底抑えきれなかった。溶岩は徐々に、確実に、城下町にいる人の群れへと近付いていく。世紀末の象徴の様、鴉の群れはけたたましく飛び回る

『だからだなぁッ今考えてみればこの争いも全て白人戦士達が仕組んだモノだったんだと言っとろうがッあいつらは初めからワシら魔導士と組む気なんて無かった、いてて、離さんかいッ!』人混みの中、住職達の言い合いは続いていた。騒々しさを掻き消したのは死刑囚の登壇であった、新香がゆっくりと口を開く、拡声器で城下町中に新香の声が響いた

『いやはや世も末ですなァ、最後に言い残した事を言えるらしいんでちょっとばかしお時間を下さいな』白黒の大衆から怒号が飛び交う、下では兵士達との鬩ぎ合いが起きていた。新香は処刑台の上で胡座をかいて冷静に話を続ける

『皆さんの言い分は分かりますよ、こんな公開処刑をしてる暇があったら住民を避難させろってねェ。白人戦士達には何らかの意図があるんでしょう、でもまァそんな計画は恐らく失敗に終わる。えェ、失敗に終わるんです。あいつらに足りないのは、人の心を読み解くっつう事ですわな、えェ。人の心情なんてのは実に難解で複雑なもんです、その証拠に私も腹癒せに人を生き返らせた結果ここにこうして処刑台の上に居るんですから、まァほんと予想がつかない。そんな話は置いといて、何故私がここまで冷静沈着なのかと言いますと、それは恐らくこの後死ぬからでしょうな。遅かれ早かれおっ死んじまうんだから、俯瞰して皆さんを見れるんでしょう、えェ。どう足掻いたって、ご覧の通りあそこに浮かんでる魔女が溶岩を止められなかったら、まァ私も皆さんも一巻の終わりでさァね。万事休すですわ、えェ。漫談だか講談だか分からないけども、どうか人生最後の寄席にでも来てるつもりで耳を貸してやってくれませんか』

 頭を抱えていた。黒い霧の様に姿を晦ませた何者かとの会話が続いていた。汗だくのタケやんは目を瞑る

『もう少し経てばあの黒い戦士がパッズゥッレィーノに襲われる、お前はその目の前に転がった空の宝箱を持ち、一目散にそこへ向かうのだ』『その後どうするの?』『お前は幾度も吹き飛ばされる、しかし恐れる事は無い、お前にはその神々しい鎧がある。意識がある内は何も考えず、起き上がり宝箱を置きにいけ、それだけで良い』『それで自分は死ぬ?』『その後お前は死ぬ』『でも、それじゃあ殺される事と変わらないじゃないか』『話を聞け、お前はその後に死ぬのだ』『その後?ここでは死なないの?』『殺されたくなければ宝箱を置きに行け』『この前もそうだったじゃないか、結局死なんて訪れなかった、また騙すつもりだな』『私はお前の望みを叶えたいのだ、私の忠告を無視すればお前は殺されて終わりだ。現にお前は一度殺されている、それは何故だ?兎に角今は私の言う事を聞け、死にたければな』『自分が死んだ後、世界はどうなるの?』『未練があるのか?』『いや、別に、そんなんじゃない』『どうなって欲しいのだ』『…分からない。全てが終わってしまえば良いとも思うし、続いて欲しいとも思う』『続いた方が良いだろう、そうすればお前はずっと思い出して貰える。英雄として』『そうだね、それが良いかも』『さぁ、後少しだ。頑張れ』

ポリコーの作戦はこうだ、パッズゥッレィーノが現れた瞬間にポリコーが合図を送る。それと同時に背広男の弓矢でバスタ諸共、倒してしまうという幼稚染みたものであった。シケモク太郎が云う『どうでも良いけどよォ、ポリコーお前さっきから体出過ぎなんだよッ半分以上溝から出ちゃってんじゃん、それは目立ちすぎだろッもっと下から合図を送れよ!』『wwwポリコー無双だわww』溝の中では背広男が弓を構えて待機しており、土だらけのシケモク太郎に陽気な腐魔女、頭を抱えているタケやんが居た。ポリコーが急に叫ぶ『今やぁ、いけぇ〜ッ!』

矢が放たれる音と共にタケやんが宝箱を抱えて走りだす、バスタが黒い霧目掛けて剣先から雷を放つ。矢も雷も黒い霧を過ぎていく、タケやんが近くに宝箱を置くと再び黒い霧が叫び声を上げながら吸い込まれ始めた、後は蓋を閉じるだけだ。バスタがタケやんを雷で弾き飛ばした『…クソ餓鬼が、余計な事をするなと言ってるだろうがァ!』宝箱を蹴り飛ばそうとするバスタに梅子が飛びついた。梅子と共にバスタが倒れ込む。タケやんがむくりと起き上がり、蓋を閉じようと駆け出していく。黒い霧が暴れ、再びタケやんは吹き飛ばされてしまった、タケやんは壁に叩きつけられた

 新香は激怒した。暴動が収まらない事に対して、世を覆う暗雲に対して、神話を書いた文豪に対して、激怒した『やいてめェ等、ちったァ人の話を聞きやがれッ!』

上空では東西南北からそれぞれ異なった種の、鳥の群れが集まって来ていた。それぞれの群れには杖を咥えている鳥がおり、煙と共に魔女の姿をした者達が現れて、一斉に呪文を唱え始めた

新香は地平線の向こう側に何かを見つけた様であった。灼きついた様に目を見開いて暫く動きが固まった。軈てゆっくりと目を瞑り、呼吸を整え、再び目を開き、顔を上げ、話の続きを始めた

『少し取り乱しちまった様だ、自分とした事が情けねェ。俺ァ実に未熟ですわ、実に未熟。人間なんてそんなもんだァね、達観出来ても知悉なんて無理でさァ、えェ。ちょっと宗教の話をさせて下さいな、坊主が宗教を語るっつーんだからどうせ仏教だろうと、御思いでしょうが、んなこたァありません。仮にこの後生き延び様がどうせ破門だ、俺ァね。だからどれか一つを語る気は無いですよ、えェ。どの宗教もあっても良いんですよ、ね。それで救われる人が居るのであれば、あっても良い。ただね、強要は良く無い。この宗派が正しくて、この宗派が間違っているっつーのは争いを生むだけだね。それは良く無い、そもそも全部嘘なんだから、ってあぁ、こんな事言っちゃダメですな。別に無宗派が正しいとか言う気も無いんですよ、俺が言いたいのはその人が救われる選択肢をしろって事でね。だからと言って暴動はいけませんよ、破壊するのが救われるんだってそれは無し。飽く迄平和的な選択肢でね、えェ。でね、もう一つ話したいのが救われるって何だって事で。自分が救われればそれで良いのかって思いやせんか。救えるならまだしも、全然自分すら救えてないじゃないってのが結構ありますなァ、えェ。良く聞くのが、自分が死んでも悲しむ人なんて誰も居ないから良いのよ、とかね。そもそも命ってのは、言い方は悪いけども、何かを蹴落として来てる訳ですよ。数千、数億の精子がね、一つの命になる訳ですから。まァ双子とか色々とそれはありますが、兎に角凄い確率。生まれたとしても成人出来るとも限らないでしょ、不幸や病気で生きたくても生きられない人だって居る訳でさァね、えェ。だから無意味な暴動はやめてね、各々が救われる選択肢をしましょうよ、祈ったり、大切な人と抱きあったり、泣いたり、寝転んだり、餅食ったり。ね、それだけ伝えれれば後はもう悔いはありません。いや、嘘つきました、悔いはありますよ。誰が好き好んで処刑されるんだっつー話でさァ…』

何度も打ちのめされようとも、何度も何度も立ち上がる。何度も奈落へ落とされようとも、何度も何度も這い上がる。粘り強く、その度に強度を増し、執念で近付いていく。灯火は消えぬ、焔は絶えぬ。如何なる闇をも照らしてやる。この世の喜びも怒りも悲観も楽観も全て書き綴ってやる。そういった気迫でタケやんは駆け出していく。黒い霧は争う事を止めない、タケやんは壁へ何度も叩きつけられた。汗でぐっしょりのちさとはぐったりと倒れている、割れた眼鏡の背広男は黒い霧に向けて一心不乱に矢を放っている、土で汚れたシケモク太郎は溝からそれを見守り、陽気な腐魔女は笑っている、片腕のザッセンは苦痛に顔を歪めて倒れたまま、暴君バスタを梅子が必死に押さえている、外では魔女達が溶岩を氷結させようと呪文を唱え、新香はミライを待つ。そういった中、タケやんの動きが遂に止まってしまった、起き上がらない。宝箱を引き摺ったままパッズゥッレィーノは闇の奥底へ逃げていく、すぐ側の溝からポリコーが顔を出した。手にはショットガン。素気なくそれを使って蓋を閉じてしまった


 数週間が経過した。木々は枯れ、先日初雪が降った。パッズゥッレィーノは封印されたのだ、総本山の噴火は収まっていた。ミライ達の内部告発により白人戦士達は王室側から追放された。民衆からは魔女達が英雄扱いとなっていた。新香の処刑は執行されず、無罪放免となった。ちさと達の家族の絆は再び一つとなった。楽大は鍛冶屋へ戻り、住職は鉄火達との生活へと戻った。バスタとザッセンの行方は不明であった。梅子はパッズゥッレィーノを封印した宝箱と共に隠居し、シケモク太郎はと云うと、ポリコーと背広男、そして腐魔女と共に近々用心棒屋を開業する様だ。それぞれに王室側から式典の招待状が届いた

王宮近くの洞窟の中にある宝箱を持ち帰るという、変わった内容であった。その洞窟がこれまた特殊で、宝箱を洞窟内で落としてしまうと中の財宝が全て泥になってしまうらしい。見事洞窟の外へ持ち出す事が出来れば、その財宝の八割は与えられるという条件であった

当日、ちさと達は集結した。外では王室側の人々、そして大勢の民衆が歓声をあげている

『ちょっと何なのアイツ、一人で先に行っちゃったわよ』ちさとが憤慨しながら云う

『おーいポリコ〜ッいい加減にしないとちさとにぶん殴られるぞ〜!』シケモク太郎が気怠く歩きながら叫ぶ

『た、隊長さん、待たないと噴火されますからね、轟々ですよ、た、多種多様に』

『wwいたいたwほら、あそこw何か鳥人間みたいのに追われてるぞwww』

『やっと外か、長かったなァ、えェ?おいおい大丈夫か、間違ってもその宝箱落とすなよ。なァ、本当に大丈夫か、タケやん』新香が不安気に云う

『…う…うん、だ…大丈夫…』明らかにタケやんの顔色が悪い、どうやら急激に腹痛が襲って来たらしく、前屈みになりながら宝箱を抱えて歩いている。タケやんの心中で再び何者かの存在が現れだした

『いやいや本当にここまで長かったな、疲れただろう』『疲れたよ』『漸く約束を果たせる時が来た』『死ねるの?』『あぁ、今度は間違いない』『どうすれば?』『そのまま洞窟の外へ出れば良い』『それだけ?』『あぁ、そうだ。簡単だろう?』『本当?』『本当だ、案外辿り着いてみれば拍子抜けする程、容易かったり実感が無かったりするものだ。外は凄い歓声だぞ、お前は英雄だ。財宝と共にお前には永遠の名声が手に入るのだ。誰にも忘れられる事も無く、お前の名は人々の心に刻まれる。最高の死に方だろう、これこそがお前が望んでいた結末だ』『…良かった…やっとだ。本当に、長かったんだ…ここまで辿り着くの』『だから後少し、頑張れ、皆応援しているぞ』『本当に…本当に大変だったんだ…ここまで、辿り着くの…本当に』『分かった分かった、泣くなよ。誰よりもお前を見てきたんだ、気持ちは理解出来る。さぁ、後少しで洞窟の外だ、頑張れ、最後まで諦めるな』

あと数歩で洞窟から外だ

出口から光が射しており

見下ろせば民と王室の人々が歓声をあげている

タケやんは少し視線を上げて景色を眺めた

何層にも重なった山脈の向こうに海が見える

更にその向こうには地平線が

目を細めて何を考えているのだろう

タケやんは地平線の向こう側に何かを見つけた様であった。灼きついた様に目を見開いて暫く動きが固まった。軈てゆっくりと目を瞑り、呼吸を整え、再び目を開き、顔を上げ、

歩き出した

『頑張れ、後少しだタケやん。その宝箱を手放さずこの洞窟から抜け出せば、お前の願いは叶う。殺害される事も無く、お前には死が与えられるのだ。頑張れ、頑張れ、もう少しだ大衆の歓声を浴びながら絶命するのだ、これ程素晴らしい終わり方があるか?拍手喝采の中、伝説としてお前の名は刻まれる。誰もお前の事を忘れる者などいないだろう、ずっと覚えていて貰えるんだ、だから頑張れもう少しの辛抱だ。辛かっただろう、ここまで長かっただろう、孤独だっただろう、寂しかっただろう、良くぞ耐えた。よし、そうだ、もう少し、頑張れ、頑張れ。これでお前はもう苦悩する必要が無くなるのだ、どうした、重いのか、頑張れよ、もう少しじゃないか。ここまで来て手放すのか?今までの苦労が水の泡になってしまうぞ、頑張れ、後もう少しの我慢だ』

タケやんの腹が鳴り響く

あと数歩で洞窟の外という所




タケやんは宝箱を置いた。

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