- 運営しているクリエイター
2018年3月の記事一覧
5分小話「午後八時十分の空っぽ」
※前回のお話の、その後の「彼」側のお話です
ただいま、と無意識に口にした声と、レジ袋の揺れる音が、玄関の壁に吸い込まれて消えた。
おかえり、と応える声はもうないことを思い出して、苦い思いがじわりと広がる。彼女がこの部屋から出て行って1週間、どうしてまだ、独りの部屋に慣れられていないのだろう。今日買ったアイスの数は間違えなかったのに。
俺と彼女は、恋人同士でも何でもない。
実家が隣同士のいわゆる
5分小話「午後十時半の言い訳」
ごちゃごちゃと細かいものの詰まったレターケースから、通帳を引っ張り出す。預金残高の記録は、3ヶ月前で止まっていた。あれから仕事も忙しかったし、特に無駄遣いもしていない。ここに書かれた数字だって、贅沢をしなければ十分一人でやっていける。それを確かめた指が、かすかに震える。
言い訳を、考えていた。
この部屋を出て行くための、言い訳。
なんだってわざわざ「言い訳」なんてネガティヴな言い方をするのかと聞