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都市開発で誘導されるパブリックスペースについて、「ACTIVITY」「DIVERSITY」「FLEXIBILITY」の切り口で提言します。

 以前、とある事業企画提案もの向けに作成した乱文骨子で、結局ボツにしたのですがせっかくなので公開します。荒削りですがご笑覧ください。

<目次>
1.都市開発で誘導されるパブリックスペース
2.「実態」と「提言(っぽいもの)」
3.行政/民間サイド両方のメリット
4.実現に向けて

1.都市開発で誘導されるパブリックスペース

 東京をはじめとする都心部の都市開発においては、広場等の「空地」や福祉施設等の「公益施設」、周辺の道路や鉄道施設等の「区域外基盤」の整備等(=街への貢献)に対し、用途地域に定める容積率等を緩和する制度(以下から「容積率等緩和制度」と称します)(※1)の活用が慣例となっています。

※1:特定街区、高度利用地区、総合設計、再開発等促進区を定める地区計画、都市再生特別地区、街区再編まちづくり制度、など。

 街への貢献は、容積率等緩和制度の運用基準に則り、主に都市計画として定められます。その後、実施設計が進められ建築確認等を経て新築工事に入り、実際に「空地」「公益施設」「区域外基盤」等が整備されます。

 「都市計画として定められる」について簡単に説明すると、容積率等緩和制度を活用する都市開発(に限らず公益性の高い道路等の基盤整備も含みますが)は周辺市街地等に対して大きな影響を与えるため、都市計画法等に則り、周辺住民への説明・意見収集や、学識経験者・議会の議員・関係行政機関等から構成される審議会の審議等を経て、都市開発の提案内容(街への貢献等)を都市の計画として定め、告示を行う必要があります。この手続を広義な意味で「都市計画決定」と称することが多いです。

 都市計画決定がされた(都市計画として定められた)「空地」「公益施設」「区域外基盤」等の街への貢献は、適正な手続に裏付けられた公共性のある計画として将来の整備が担保(約束)されます。

 なお、都市開発の提案内容は主に民間サイドが検討し、それを都市計画として決定する主体は行政サイド(案件にもよりますが主に都道府県)が担うことが一般的です。

 しかし、都市開発は大規模かつ関係者が非常に多いプロジェクトであり、また、構想から竣工までの期間が長期的であるため、都市計画決定時においては、計画検討熟度が高くない傾向にあります。つまりは、「空地」「公益施設」「区域外基盤」等の空間デザインやプログラムにおける提案の解像度は高くないこと、言い換えるとファジーであることについては否定できません。 

 この性質も踏まえ、特に「空地」いわゆる「都市開発で誘導されるパブリックスペース」の実態を整理してみると、いくつか制度上の課題が顕在化してきたので、簡単に提言(というレベルではないので「提言(っぽいもの)」とさせてください。)を考えてみました。

 そもそも「空地」の制度上の定義について触れておくと、「空地」は広場や歩行空間、屋上広場、アトリウム等の屋内空間等に大別されており、小規模(100㎡を超えない空地)や非公開の空地(日常一般に開放されない空地)、歩行者以外の空間(車路や駐車場等)、地上と一定以上のレベル差がある空間等は原則「空地」とみなされない規定となっています。

2.「実態」と「提言(っぽいもの)」

 「ACTIVITY」「DIVERSITY」「FLEXIBILITY」の3つの切り口で話を進めます。

 なお、ここで述べる実態は、あくまで全体を概観した傾向に過ぎないため、もっというと、全体を形づくる容積率等緩和制度そのものに対する指摘が主眼であるため、結果として実際に整備された個別具体的な都市開発事例と相反する部分があることはご容赦ください。

【ACTIVITY】

 近年、時代背景の変化等に伴い、パブリックスペースは人々の活動に着目されています。特に道路空間に関しては、「歩行者利便増進道路(ほこみち)」をはじめとする各種道路占用許可制度や、これら道路空間活用との併用が推奨される「まちなかウォーカブル区域」等により、アクティビティの誘導が図られ、実際に全国各地で活用事例は増加しています。

 都市開発で整備された「空地」についても、例えば東京だと「東京のしゃれた街並みづくり推進条例・まちづくり団体の登録制度」を活用することで、無料の公益的イベントに加え、街の活性化に資すると認められるものは、一定の条件の下で有料の公益的イベントの開催やオープンカフェの設置、物品販売等が可能となり、また、活用日数の制限も緩和されます。

 しかし、これらの制度はパブリックスペースを「つかう」段階、いわゆる活用のベースとなる空間デザインや環境が「つくられた」段階で効力を発揮するものになります。当たり前のことですが。

 一方、空間デザインや環境を「つくる」段階においては、都市開発に絞ると、都市計画決定に向け、容積率等緩和制度の運用基準に則って「空地」の計画が検討されますが、基準上は「つかう」ことが具体的に想定されていないのが実態です。

 「空地」の基準は、大きくは「規模」「位置」「屋内外」「用途」に応じて街への貢献として定めることになっており、4つ目の「用途」が「つかう」に関連する部分となりますが、「広場空間」「通路空間」「緑地空間」等、大まかな規定となっています(※2)。

※2:唯一あげれば「環境施設の特例」というものがあります。これは歩道に面した空地等に、その区域の環境の向上に必要な施設として彫刻やモニュメント、水飲み施設、ベンチ等を設置する部分について「やや」積極的に評価する仕組みですが、あくまで特例の1つであり、選択肢の1つに留まっています。

 最初に空間デザインや環境を「つくる」段階の都市計画決定時においても、具体的なアクティビティ等を想定・誘導することで、より人々の本質的な欲求に近づいた「空地」がつくられると考えます。「空地」を「つくる→つかう」から「つかう→つくる」への思考の転換です。

 そのためには、「空地」の規模や位置等によるハードな空間としての評価に加え、具体的なアクティビティ誘発に向けた取組み(庇、什器、電源・Wi-Fi等を含む)を積極的な評価対象とする考えや仕組みをつくる必要があります。

 評価対象とするためには、透明性かつ公平性が求められるために、取組み内容をある程度定量化する必要がありますが、アクテビティの計測に関するノウハウは増えているため不可能ではないと思います。

 なお、容積率等緩和制度では、街区内の「空地」に加え、隣接する道路や公園等の整備も区域外の貢献として認められていることから、都市開発は官民のパブリックスペースを総合的に捉え具体的なアクティビティ等を誘導するポテンシャルは高いと考えています。

【DIVERSITY】

 日本の気候は、他国に比べて気温の年比較差が大きく(夏は高温、冬は低温)、また、雨に降られることも多いことが特徴としてあげられます。

 容積率等緩和制度上は、屋外かつ天井がない青空の下の「空地」が積極的に評価されていますが、気候的に快適に活用できる時間は限られている側面もあります。

 また、昨今の社会情勢として、「ダイバーシティ」「インクルージョン」をはじめ、多様性ある場所の多さ(選択肢の高さ)が社会全体としては重要であることが様々な場で言われていますが、もちろんパブリックスペースにおいても無関係ではありません。(ダイバーシティなるものを飛び道具として安直に使うことは避けないとですが。)

 例えば、容積率等緩和制度上は、周辺の道路に対し段差がなく一団の形態を成す「空地」いわゆる「不特定多数」の人々の利用を想定した空間が積極的に評価されていますが、個々人のきめ細かなニーズに対応できているかは悩ましい部分であります。

 これら日本の気候や多様なニーズ等を踏まえると、「不特定多数」の人々に向けた「空地」のみならず、「特定大多数(※3)」の人々の活動に向き合った多様な場所を、都市計画決定の段階から誘導できることが望ましいと考えます。

※3:「特定大多数」とは、限りない多数の特定を目標としたここだけの造語です。実際にはかなり困難(もはやあり得ないこと)ですが、努力目標としてのワード設定です。

 そのためには、現在はグランドレベル・屋外・一団の形態を成す空間等が積極的な評価対象(※4)となっていますが、建物中層階や内部等の階層や屋内外に囚われない空間、また、奥まった小さな空間、変化に富んだ空間等の規模や視認性、分かりやすさに囚われない空間も積極的な評価対象とする考えや仕組みをつくる必要があります。

※4:容積率等緩和制度のルーツである特定街区が創設された1960年代は、外部からのアクセス性が高く天井のないザ・広場空間が主な評価対象となっていました。その後の90年代以降は屋内(アトリウム)、屋上広場へと評価の適用範囲が広がっていますが、評価の重みという観点においては、ザ・広場空間が積極的に評価され誘導されているのが実態になります。

 なお、「空地」の規定に「100㎡超え」「日常一般に開放」「地上と一定以上の段差なし」等がありました。これらを踏襲すると、建物中層階や内部等の「空地」も同様の考え方を準用する必要があり、具体的には、街区外部から建物中層階・内部等の「空地」の見え方(視認性・発信性)及び、その「空地」に至る動線(接続性)についてもパブリックな要素を付加する必要があることを意味します。

 多数の個々人の活動に向き合った多様な場所を都市計画として評価するためには、上記の規定の考え方を問い直すところから始めなければなりません。「都市計画としての公共性とは?」という大変込み入った話を扱うことになります。しかし、大多数を特定していく作業を行い「小さな公共性」を積み上げていくことで、多数な場所を評価することは難しいことではないと考えています。

【FLEXIBILITY】

 そもそもになりますが、都市開発の性質(大規模、関係者の多さ、長期的)が影響し、都市計画決定時において具体的な計画を検討し、都市計画として未来永劫街への貢献内容を約束することは困難である課題が根本にあります。

 そのため(前述した2つと少し矛盾しますが)、不確実性の時代と言われている暗中模索な現代から10年や20年先のプロジェクト竣工時に、その時代のニーズにあった計画を都市計画決定段階で1つに限定することについては議論の余地があると考えています。

 シナリオプランニングとして複数の行動変容を予測し、様々な空間や使われ方をいくつか具体的に想定し、それらを柔軟に評価できる(=都市計画決定時には便宜的に1つの計画内容に絞るが、将来的な計画変更を積極的に認める)可変性を備えた考え方や仕組みも選択肢の1つとしてあっていいのではないでしょうか。

 都市計画というものは、本来なら1つの将来像を描きそこに誘導するミッションがあるため、都市計画の決定内容に可変性を求めることは表裏の関係にありますが、その思想が認められれば、例えば、複数の将来像(計画)について関係者全員で共通認識を図り段階的な都市計画決定を行う等、やり方はあると思います。

3.行政/民間サイド両方のメリット

 以上3つの提言っぽいものは、ユーザー(住民、来街者、ワーカー他)に限らず、行政サイド及び民間サイド両方にもメリットがあるものと考えています。

 行政サイドにとっては、人々の活動や多様なニーズへ着目し、不確実性へも対応した都市や建築の誘導を図ることで、昨今の政策の潮流に沿った戦略的な政策誘導型の都市づくりが進められるとともに、現在飽和状態にある容積率等緩和制度の貢献内容の刷新へ繋がります。

 民間サイドにとっては、ビル事業と直接リンクしない非/半収益施設としての街への貢献をより一体的に捉えた事業ブランディングの構築へ繋がると考えます。

 すぐ思い浮かぶのは、積極的なアクテビティの誘発や多様な場所の提供等による街のにぎわい創出に伴う経済効果や企業評価の向上(CSR:Corporate Social Responsibility)等ですが、もう少し直接的なメリットもあると思いす。

 例えば、テナントリーシングの観点で考えると、専有部以外のビル価値向上に向けた共用部づくりがあげられます。昨今、ビル事業の競争激化の中でテナント誘致のために共用部をサードプレイスのような場所として整備するオフィスビルの事例もいくつか聞くようになりました。

 (そもそも競争激化という状況そのものを問い直す必要がありますが、)サードプレイスのような共用部を「空地」とみなし積極的に評価する仕組みがあることで、ビル事業者も「空地」貢献に対しより能動的な意思決定が可能になると考えます。パブリックスペースからビジネスを変え、また、ビジネスからパブリックスペースを変えていく、そんな循環が期待できます。

 もちろん「貢献」という文字通り、私的な空間・活用に留まらないよう様々な立場の関係者全員で議論を重ね、「公か私か」の2項対立ではない中間領域的な空間・活用の可能性を広げていくことが重要になります。

4.実現に向けて

 ここまで野放図に書き連ねてみましたが、「誰が・どう実現するのか?」も無視できないため、頭の体操がてら考えてみました。と言いつつも、かなり生煮え状態なので頭出しくらいにしておきます。

 まず考えられるのが、容積率等緩和制度の制定及び運営かつ、都市計画決定を行う行政サイド(学識経験者も含む)や、実質の都市計画の内容の検討・提案を行う土地所有者等の都市開発事業者サイド両方へ、第三者である都市開発・都市計画等を専門としたコンサル等のプレイヤー(建築設計事務所やゼネコン等)が中立的な立場かつ技術的な検討主体として参画することがあげられます。

 そして、アクティビティや多様な空間、柔軟な計画を街への貢献として評価する思考のアップデート及び都市計画法制度やガイドラインの改定、それらの上位概念である(法制度等改定の根拠となる)政策の見直し及び、実現性という観点における事業検証等々といった総合的な企画・検討・調整や、モデルケースとして既存の「空地」を活用した社会実験、周辺住民との意見交換等を進めた後、実際の都市開発で実装するというのがセオリーかと思います。

 ただし、「特定大多数」の人々の活動への着目や不確実性への対応が求められる中、上記のいわゆる実質トップダウン型の進め方では限界があることは容易に想像できます。行政、学識経験者、民間事業者、コンサル、周辺住民等だけでは意見と評価の母数が不足しているため、理想としては、限りなく多くのユーザー(周辺住民に限らない来街者、ワーカー他)や、そもそもユーザーに限らない街の外の人たちの意見と評価を集約し、透明性かつ公平性を帯びたジャッジを行う必要があります。

 そのためには、(言うは易く行うは難しですが)意見・評価等の意思決定に必要な情報を分散・自律して管理でき、また、「特定大多数」の人全員で共有することで安全性・真正性を担保する、ブロックチェーンのような技術を活用した分散型自律組織の導入によって、従来型の実質トップダウン型とは異なる新たな都市ガバナンスを確立することが求められると思います。

 詰まるところ、実現に向けては、意思決定の方法そのものにも課題があるということですが、このようなシステムが開発・波及されると、都市開発とパブリックスペースの関係は徐々に変わってくると考えています。

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 以上、荒削りな乱長文となりましたが、ここまでご笑覧いただきありがとうございました。とある事業企画提案なるもの向けに作成し結局ボツにしてしまいましたが、別の機会に向けて確度を上げていくことも考えているので、もし何かご意見やご質問などありましたら忌憚なくコメントいただけると嬉しい限りです。


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