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クリスマスに獣医さんへ

別にクリスマス(正確に言うとイブ)にわざわざ行かなくても、と思われそうだけれど、世間がクリスマスを楽しんでいる日はなんとなく動物病院が空いている気がして、わざわざ24日に予約を入れてさくら(猫ちゃん・♀)を病院に連れて行った。

さくちゃんは2歳半くらいなのだけれど、まだワクチンも避妊手術も受けていない。大阪で住んでいた家の真ん前には桜の木が一本だけあって、そこに捨てられていたのがまだ生後1ヶ月のさくちゃんだった。

その日は一日じゅう子猫の鳴き声が聞こえていて、そのうち母猫が迎えに来るだろうと思っていたのに、一向に母猫が訪れる様子はない。どんどん切羽詰まった鳴き声になる子猫のことが気になって仕方がなくなった。外に出て鳴き声のする方へ向かうと、小さなキジトラの子猫が体を丸くしてニャアニャアと必死で鳴いていた。

目やにと鼻水が出ていて、体調は良くなさそうだった。もう夕刻を過ぎていて、明日には台風がやってくる予報だった。散々悩んで、このままだと死んでしまうだろうと思い、一旦うちで保護することにした。母猫とすれ違いになったらどうしようという懸念はあったが、この子を死なせてしまうことは何としてでも避けたかった。

子猫は怯えている様子で、抱き上げるとさらに大きな声でミャアミャアと鳴いた。大丈夫大丈夫、と声をかけながら部屋に戻り、5月でまだヒンヤリしている室内を温めるために暖房を入れた。

経口補水液、猫用ミルク、ウェットフードなどを調達して帰宅すると、子猫はもう鳴いていなかった。タオルを敷いた段ボール箱のなかで背中を丸めて眠気と闘っているようだった。

かなり警戒している様子だったので、ウェットフードと経口補水液だけ近くに置いて、別室で静かに過ごした。すると、ガサガサ音がするのでそおっと顔を出して様子を伺ってみた。段ボールから外に出て、ここが安全な場所かどうかを調べているらしかった。目が合うと、子猫はまたそそくさ段ボールの中へ帰っていった。

何度かそれをくり返しているうち、目が合ってもあまり怖がらなくなったので、ミルクをスポイトであげてみるとガブガブ飲んでくれた。子猫用ウェットフードも気に入ったらしく、あっという間に完食してしまった。おそらく、何日も食事にありつけてなかったのだろう。

買ってきたペットシーツを部屋の隅に置いてやると、迷わずそこでオシッコをした。多分、これは人間に教えられていたのだと思う。一人では生きていけないような子猫を他人の私有地に捨てていった人間のことを考えて、怒りを覚えた。

腹が満たされた安心感からか、子猫を抱いてやると、さっきまでの警戒が嘘だったかのように喉をグルグルと鳴らして必死に私の手のひらを吸い始めた。よほど心細かったんだろうと思った。

翌日、子猫の健康状態をチェックしてもらいに動物病院へ訪れた。待合室でも臆することなく、甘え鳴きをして撫でてもらいたがった。獣医さんが「好奇心旺盛な子ですね〜、健康状態は悪くないです、猫風邪を引いてますけど、しっかり栄養を摂らせてあげれば治りますよ」と言うので、安心した。ノミを退治する薬をもらって、その日は帰宅した。風呂に入れても大丈夫とのことだったのでシャワーで洗ってやり、ストーブの前でタオルドライをしているうちに眠ってしまった。

さくちゃんを動物病院に連れて行ったのはそれが最後で、このクリスマスイブまで健康診断にも連れて行けていなかったことを気にしていたので、「もし病気になっていたらどうしよう」と不安はあったものの、どこにも異常がないようでとにかく安心した。

臆病なさくちゃんは、触診されたりお尻に体温計を入れられたりワクチンを打たれたりしている間ずっと、私のコートの袖口に顔を突っ込んで耐えていた。獣医さんのことを怖がってはいたけれど、噛み付いたり引っ掻いたり暴れたりせず、やわらかめの猫パンチを一回しかくり出さなかったのは本当に偉かった。

待合室での待ち時間と、診察中におやつをあげたところ、ビビりながらもしっかりおやつを完食していた。肝っ玉は座っているのかもしれない。

獣医さんと相談して、1月に避妊手術を受けることにした。一泊二日、さくちゃんは病院に泊まって手術を受ける。甘えん坊で怖がりなさくちゃんの気持ちを考えると、今から胸が痛くて仕様がない。病院にいる間「また捨てられたのかもしれない」と思ったりしないだろうか。

そんなことを考えているうちにクリスマスは終わり、相変わらず日常を送っている。

さくちゃんががんばった証を残しておきたくて、なんとなくnoteを書いた。避妊手術の日、私は泣いているかもしれませんがどうか励ましてやってください。

いただいたサポートはさくちゃんとバブちゃんの生活を守るために、そして今後も作品づくりを継続するための活動費として、大切に使わせていただきます! お礼のメッセージは吉川本人から個別にお送りしております。