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イロハのイ バイクのバ


「おっ、いらっしゃい」

「こんちは」
「あ〜喉乾いたぁ」

「冷たいのでいいですか?」

「うん。よろしく」

「今日はちょっとスタッフが一人少なくて大変で」

「休みなの?」

「えぇ、教習所行ってるんですよ。
これからしばらくはこんな日が増えるかもですね」

「車?」

「いえ、バイクです」

「バイクかぁ。いいじゃない」

「今、また結構流行ってるんですかね〜」

「Youtubeなんかでもモトブログやってる人、男女問わず多いよね」

「毎日、教習所帰ってきてはムズイ、ムズイってウルサイんですよ〜 笑」

「僕らの頃はさ、バイクって言ったらまずは16歳になって原付を取ったわけ」
「教習所行くお金なんて、バイトもまだしてない頃だからなくてね。
仕方なく50CCにいったんだ」

「原付は必ず取ってましたよね」

「その50CCでさ、街乗りからちょっとしたツーリングまで、
まぁ、よく走ったもんだよ」
「その頃はね、今と違って今の若い人が信じられないような、車体も大きくて、
そこそこ力もあるONモデルやOFFモデルもあったから選択肢ってあったんだ」

「そうそう、ありましたよね!」

「今じゃ、骨董品みたいにプレミア価格がついて、とても買える値段じゃない
けど、スクーターやカブなんかと、こういうスポーツモデルっていう具合に
50CCでも実に色んな車種があって楽しかったなぁ」

「最近は見かけないですね、すっかり」

「免許制度や、廃ガス規制なんかで50CCそのものがなくなる
とも言われてるしね」
「でもそんな風に50CCをガッツリ乗ることで、二輪ってものを
覚えていったんだ。
街中から山道、晴れの日も雨の日もさ。アクセルワークやクラッチワーク、
ブレーキング、車体の取り回しまでね」
「でも今はさ、いきなり250CCや400CC乗るために普通二輪から入ったり
するわけでしょ。それがいいとか悪いとか言うつもりはないけど、苦労するのは
当たり前かなとも思うんだ。50CCと違って重量もあるわけだからね」

「そうですね〜。軽い車体でイロハのイを覚えられるのは大きいですよね」

「そうなんだ。それも免許取ったら新車買うわけでしょ。
どうしたって転ばしたくないし、傷つけたくないし。そのピッカピカの車体で
イロハを覚えなきゃならないのは実に難しい話だよ」
「理想を言うとね、乗りたいバイクの一段下の排気量の中古車を買って、
1年くらいは乗り潰すつもりで乗るといいんだ。
特にオススメなのは、オフロード車から入ること」

「オフ車ですか?」

「僕はオフ車から入ったんだ。その時の趣味だったって言うのもあるけど、
オフロードっていうのは二輪を覚える上で様々な技術が詰まってるんだよ」

「って言いますと?」

「世界最高峰のMotoGPのライダーだって、オフシーズンにはこのオフ車で
トレーニングしたりするくらいだよ。凸凹して滑る悪路を走ることで鍛えられる、バランス感覚、微妙なブレーキング技術なんかもオンロードではなかなか経験することが出来ないからね」
「それにね、転ぶってことを覚えられるんだよ」

「転ぶを覚える?」

「そう。オンロードで転ぶなんて、さっきも言ったけどありえないわけでしょ。
ところがオフロードでは転ぶことは当たり前で普通なことなんだ。
その転ぶってことを覚えることは、なぜ転んだのかを覚えることでもあってね。
こういうことをすると転ぶんだっていうことがわかる。
ここまでタイヤが滑ると立ち直せないとか、そんなことをが身体に染み付くように刻みこまれるんだよ」
「そういう経験を経て公道なんかを走るとさ、雨でちょっとタイヤが
滑ったくらいで転ばなくなるし、車体のコントロール、目の使い方なんかも
うまくなってるから、より安全でスムーズな走りが出来るってわけなんだ」


「なんでもやっぱり基本って大事なのかもしれないですね」

「楽器なんかもそうだけど、基本は絶対なんだ。
基本がない応用は不可能なんだよ」
「最近は芸能人も乗ってる人が多くて、こう流行ってくると事故も必然的に増えるから、そうするとまた法的な締め付けも出てきたりするし、老婆心ながら
これから乗る人にはバイクも好きってことだけじゃなくて、練習がいるってこと
だけは覚えておいて欲しいものだね」
「それがバイクを取り巻くいい環境づくりにもつながるんだからさ」

「スタッフにもよく言っておきます 笑」
         「コーヒー入りましたよ」

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