三羽のひよこの悲しい物語
「いらっしゃ... どうしたんですか?泥だらけで」
「ちょっと手だけ洗わせてくれる?」
「どうぞどうぞ」
「今そこで猫ちゃんが事故でさ、車にひかれちゃったみたいで...」
「さすがに無理だったから、せめてと思ってね」
「そうでしたか~、それはかわいそうでしたね」
「うん。ホントに。。事故だからさ、仕方ないんだけどね、
でも、やりきれないよ」
「生き物が亡くなるって、特に小さな生き物は、なんていうか。。」
「飼ってたペット亡くしたことでもあるんですか?」
「あぁ、未だにね、トラウマっていうか、忘れられないんだ」
「どんなペットだったんですか?」
「昔ね、本当に昔。まだ小学生の頃なんだけど、当時は品川に住んでてね」
「今の季節の頃から、夏祭りがあっちこっちで始まるんだけど、
ほら、出店でさ、ひよこ売るじゃない?」
「あ~、あの色がついてたりするやつですか?」
「そうそう。まだ3年生くらいだったかな?どうしても欲しくてたまらなく てね」
「僕は男ばっかり3兄弟の真ん中なんだけど、親に頼み込んで3羽買っ てもらったんだ」
「それはそれはかわいくてね。事前に近所の人に鳥かごみたいなものとか、エサや水を入れる器を用意したり、準備に駆けずり回ってさ」
「買ってもらったその日はうれしくて一日中眺めてた。
これからお世話がんばってって、先のことを考えるとワクワクが止まらなかったよ」
「初めて飼った生き物だったんですか?」
「近くの池でとれたザリガニだとか、亀とかは飼って、大きくなった
タイミングでまた池に戻したりとかはしたことあったんだけどね」
「小さい頃はみんなやりますよね」
「うんうん。ところが買ってもらったその夜のことなんだ。
ずっと見てたかったんだけど寝ないといけなくて、寒さに弱いって聞いてたから、かごに毛布まいたり色々やって床に就いたんだ」
「朝起きてね、おはよ!って巻いていた毛布とったら3羽とも死んでたんだよ」
「頭が真っ白になってその場から動けなかった。何が起きたのかわからなかったんだ」
「何かまずかったんですか?」
「寝る前準備してた時ね、夜、お腹すくかもしれないってエサの米ぬかを
足したり、水もね、飲むかもって思って容器ほぼ満タンにしておいたんだ。それを暴れたときに踏んでひっくり返してしまったみたいで、3羽とも水をかぶったんだね。きっと寒さで死んだんだと思う」
「なんとも皮肉な話ですね~」
「あまりのショックで涙すら出なかった。その時はね」
「次の日、今夜のように近くの空き地にお墓作って埋めてあげたんだけど、土に3羽並べてあげてる時さ、偶然お腹に触ったら、肺の中の空気が動いたのかなぁ、ピーって小さな声が聞こえたんだ」
「それを聞いたとき、涙がとめどとなく溢れてね、僕はなんてことをしてしまったんだろうって。。。」
「泣いたなぁ~、一生分泣いたかもしれない」
「小さい子供の頃だったから、そのショックは計り知れないものだったんでしょうね」
「そうだね。何日か学校も休んだ」
「それ以来、もう二度と生き物を飼おうなんて考えないって誓ったんだ」
「人間がさ、勝手に可愛いとか寂しいからとかでさ、生き物の命を左右するなんて間違ってると思うんだ。生き物が嫌だんなんて言えないわけだからね」
「そうかもしれませんね」
「子供の頃の話で悪気はなかったんだからって言ってくれた人もいるけど、悪気がなかったら人殺ししてもいいのかってことになるでしょ?
悪気がなければ、命を奪っても罪はないのかってさ」
「ずっと今まで引きずってきたんですか?」
「あの時のことは決して忘れない。今でも街にいる猫ちゃんや
散歩してるワンちゃん、河原にいるサギやカモちゃんたちなんかを見ると、自然と涙が出るんだよ」
「あの時、欲しいなんて思わなかったら、僕なんかじゃなくて
ちゃんと知識もあって飼うことの出来る人に飼われていたなら、
きっと大きくなって、美味しいものもたくさん食べれて、友達もたくさん
出来たろうって考えると今の今でもやりきれなくて、自分を責めてしまうんだ」
「この瞬間にさ、あの3羽が目の前に現れて、あの時はつらかった、
罰として今ここでお前の命も差し出してもらうって言われたらさ、
二つ返事で承諾するよ 涙。。」
「お客さん。。。」
「ゴメンね。今夜は胸糞悪い話聞かせちゃったね」
「いやいや、いいんですよ。でももう何十年もそれを抱えてるって、
つらすぎますよ」
「自分でもわかってるんだ。わかってるんだけど、
うん、わかってるんだ。。。」
「今夜は美味しいコーヒー淹れますから、猫ちゃんと、
3羽のひよこちゃん達のご冥福を改めて祈りましょうよ」
「ありがとう。。」
「コーヒー入りました」
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