ある日のにわとこカフェvol.3

カラリと晴れた広い空、どこかで布団をたたく音・・・ひんやりした風が落ち葉を運んできます。
「秋の空気はどうしてこんなに香ばしいんだろう!」ブンさんは楽しい気分になりながらにわとこカフェのドアを開けました。

ブン「こんにちは!」
タケ「お先に!ブンさん。今日はさわやかだね。」
ブン「こんな日はしみじみと力がわいてくるような気がする!」
タケ「しみじみっていうところがブンさんらしいよね。」
ブン「モンブランが食べたいと思って来たの。」
「ちゃんととってあります!」店長がお皿にモカ色の丸いモンブランを置きました。ブンさんは手をたたきました。
タケ「ブンさんの顔。まさに『笑み栗』だね。」

笑み栗

ブン「『エミグリ』ってなに?」
タケ「いが栗がはじけて、いがの中の実がのぞいているようすを『笑み栗』とか『栗笑む』というんだよ。」
ブン「すてきな表現!栗が笑って食べごろ・・・。じゃあ開いていない栗は『怒った栗』かな。」
タケ「そう。
怒る栗 笑ふ栗みな 落ちにけり 
たしか正岡子規の句があるよ。」
ブン「栗がごろごろ転がってたのしい感じ!・・・ところでモンブランっていつから茶色になったの?」

タケ「日本のモンブランには黄色が多かったよね。栗きんとんのように色づけするんじゃないかな。茶色いのは栗の渋皮煮から作るんだと思う。」

里の秋

ブン「おつきさまの黄色、落ち葉も茶色、どっちも秋らしい・・・。栗を煮る、といえば『里の秋』という歌を思い出さない?『栗の実煮てます いろりばた』最近あまり聞かない?」
タケ「いいね。静かで心にしみる歌だね」
ブン「『あぁ母さんと ただ二人・・・』どうして2人なんだろう。お父さんは出稼ぎかな・・・。」
タケ「うん。あの歌にはね、兵隊に行ったお父さんを思い、自分も国のために尽くす!という決意の詩が続いていたらしいよ。なぜかその詩はしばらく置かれているうちに戦争が終わった。海沼実さんが復員兵を励ます番組の曲を作るとき、ようやくこの詩に光が当てられた。でも3番と4番の詩がそぐわないために変更することになったんだ。タイトルもはじめは『星月夜』だったらしい。」

星月夜

ブン「ほしづきよ・・・。星は散ってしまった多くの魂を思わせる・・・。詩人はきっと思い入れがあったんだね。深く静かな星夜に・・・。」
タケ「すぐれた詩と言うのは世の中が変わっても輝きを失わないものだね。秋の里の夜にも、あかるい星空にも人は希望を見出す力を得るんだろうね。」
ブン「『星月夜』・・・明るい夜空に黄色い光がいくつも書かれているゴッホの絵がある。あの絵に月は出ていた?
タケ「どうだったかな。歳時記の『星月夜』は星が明るく照らす夜だから月はあっても構わないけれど星を邪魔しない程度に・・・そう、どこかで聞いたよ。」

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こころをすませば

月のあかるい晩、屋根の上でとらさんとシロがくつろいでいました。
「鼻がつめたくなってきた・・・。もう冬が近いのかしら。」シロがいいました。
「そうだな。お寺の裏庭に栗がごろごろしてる。」とらさんがいいました。
「あぁ栗のイガ!ちくちくしていや!ねこよけに置いてる家もあるから気をつけないと・・・。」シロは右まえ足のにくきゅうを確かめながらいいました。

「カエルたちもそろそろ冬眠だな。遊び仲間のヤモリのゲッコさんも動きがニブくなってきたよ。」
「ご主人さまがこたつを出してくれるのが楽しみ。新しいカレンダーを買わなきゃ、っていってた。カレンダーって何かしら?」

「人間さまはときを刻んでジカンにしてみんなで分けて暮らしてる。そいつを目に見えるようにしたのがカレンダーさ。すごいよな。家もポケットもないオレにはマネできねぇ。」
「でもわたしたちジカンがなくても会えてるわ。」
「オレたちにはさ、ダイロッカンってやつがある。」
「ダイロッカン?」
「ふと、いやな予感がする時ってあるだろう?ひげがぴくぴくして変な気持ちになる。なんとなく軒下にいたらとつぜん大雨が降ってきたとか・・・。気持ちの良い晩に散歩してみたらシロさんに会えたとかさ。」
「まぁ・・・。」シロの頬がほんのりピンク色になりました。

「こころをすませば大切なことはちゃんとわかるんだ。だれにでも・・・。たぶん人間さまにもね。」
からからから・・・落ち葉がころがる音がしました。

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