MIXIによるFC東京子会社化の背景 | 分析・考察
どうも、Balaです。
一本目の記事ですが、やはりFC東京サポーターにとってはこの話題が一番ここ数年で大きなトピックではないかと思い、取り上げました。
アプローチとしては、下記の流れで行きたいと思います。手取り早く結論を見たい方は「まとめと考察」だけ読んでいただいても良いかと思います。
今後もこんなような内容を定期的に投稿するので、気に入っていただければフォロー・いいねしてもらえると喜びます。
1.当時のMIXIの経営状況・方針の理解
財務状況から見るスポーツ事業への投資背景
2019年3月期にEBITDA421億、純利益265億もでている。当時エンタメ事業(ゲーム事業)、ライフスタイル事業の二軸の事業構成となっているが、売上の約96%をエンタメ事業が占めており、ほぼゲーム会社化していたことがわかる。もっと言うと、ほぼモンスト一本足の経営状況になっていたことがわかる。
コンテンツ事業の上下動はなかなか予測しづらい意味で、これは経営的な観点でいうと非常にリスクが高い状況にある。
この前年度からFC東京との連携が始まっているのは、偶然ではないだろう。
当時のBS・CFを見ると、PL上利益が出ている一方で積極的な投資活動を行っていることが見て取れる。
現金残高を減らしてまで投資活動(財務活動)を行っている。
エンタメ事業一本足に対する経営リスクをヘッジする意味合いが見て取れる。
そして2020年に向けて打ち出した内容は上記の通り。
スポーツ領域の事業成長とは当時すでに資本業務提携を行っていた千葉ジェッツと、子会社化した「チャリ・ロト」を指しているが、当然このタイミングですでに連携していたFC東京の経営も視野には入っていただろう。
2021年に発表された「中期経営方針」
なぜIT企業であるMIXIがスポーツ事業を行うのかが、FC東京子会社化におけるサポーターが理解すべきポイントだと考える。
彼らは、SNSサービス「mixi」を素地とし、その後「モンスターストライク」を中心としたゲーム事業へと変遷していった。
その根底にあったのが「コミュニケーション」だ。彼らの言葉を借りるなら「ソーシャライズ」。これを理解すると、サポーター(消費者顧客)に対し、どのようなアプローチでFC東京という一つの事業を推進していきたいかが垣間見える。
主にベッティングサービス「TIPSTAR」とライブビューイングメディアの「Fansta」を指しているが、要は複数人数以上でコミュニケーションをとる場面をITサービス化していきたい考え方と読み解く。
「誰かと何かをする」という行動原理こそがMIXI社における戦略の根底にある。そして、そこに「スポーツ」という体験は最適だ。
もちろん一人で観戦をすることもあるだろうが、基本的には大勢でコミュニケーションをとりながら楽しむ機会が多いだろう。観戦後も、試合結果や移籍情報などを見ながら「コミュニケーション」を取る機会が爆発的に生まれる。
経営方針から見えるコト(私見)
逆に、コミュニケーション量を阻害していく要因は何だろうか?
それは「排他的な文化形成」だと考える。これを最もMIXI社はスポーツ事業を推進するうえでリスクと考えるのではないだろうか。
そしてそれはクラシックなヨーロッパ的サッカー文化を志向する人とは相容れないだろうと思う。
ヨーロッパにおけるクラシックなフットボール文化は日本において形成されてきたサッカー文化とは生い立ちが全くもって違う。
Jリーグは初めから大衆化され、テレビ的コンテンツとしてスタートしている。
ヨーロッパにおけるフットボールは、元は労働者階級のものであり(今でこそ変わってきているがそれでも)、シビックプライドを賭けた闘争的なコンテンツとして受け入れられてきた。
だから、高い公式グッズよりもオリジナルのTシャツやタオルが身に着けられ、オリジナルのシールが町中いたるところに貼られている。
そして、何よりもゴール裏には戦う人間を迎え入れ、戦えないと判断された層(女性や家族層など)はそもそも文化の違いにより自然排他された。
現代的な倫理観はさておき、そういう風にできてきた文脈があって、今もそういった文化が色濃く残っている。
治安や環境などサポーターを取り巻く文化形成の背景がそもそも違うのだ。
憧れこそすれど、Jリーグサポーター(特にFC東京サポーター)がおかれている環境とは違うため、当然ながらこの20年くらいの現代に突然そういった文化を持ち込むのは眉をひそめられることになる。
(ちなみに私はそういったクラシックな文化が本当はかっこいいと思ってしまうタイプです)
そして、そのような先鋭的で排他的な文化はMIXIは受け容れないだろう。そもそも日本の近代化されたスポーツコンテンツ市場で受け容れることができる層は、相当限られているだろうと思う。
万人が純粋にスポーツについてコミュニケーションできるコンテンツこそが、MIXIの目指したい姿ではないかと思う。
2.FC東京 子会社化のスキーム
第三者割当増資という、新株を発行する形での子会社化スキームをとっている。つまり既存株主の株式保有数は変わらない(持ち株比率は低下する)。議決権所有割合を51.3%とするぎりぎりのラインでの子会社化は、東京ガスをはじめとする既存株主との連携を残したい意思の表れだろう。
本当に好き勝手したいのであれば、特別決議可能な2/3以上の議決権を確保すると考える。
ここからは私見だが、エンブレムの変更をはじめ、「"東京ガス色"をMIXIはなくそうとしている」という意見を見るが、これは上記から見てもあまり感じない。取締役構成を見ても会長に大金氏がいて、取締役にも東京ガスの竹内氏がいる以上、施策の目的にそれを入れるのはほぼ不可能と考えてよいかと思う。
仮に「排他性の強いクラシックなフットボール文化」的な要素をイコール東京ガス色と考えている人がいればそれはそれで悲しい気がする。
3.まとめと考察
①MIXI社にとってはゲーム事業一本足から脱するための中長期的な投資先としてFC東京に投資している。
②MIXI社の戦略はコミュニケーションの増加を源泉とした事業展開を想定しており、FC東京における万人のポジティブなコミュニケーション増加(サポーター増 × 一人当たりコミュニケーション量)を作り出したい。
③上記を阻害するであろう「排他的な文化形成」は避けたいと考えており、一方でクラシカルなコアサポも排他しない形を模索している。
④子会社化にあたっては東京ガスをはじめとする既存株主の意向もくみ取る必要のあるスキームとなっている。
以上がまとめとなる。
こうやって見てみると、ポジティブ・ネガティブ両面が見えてくる。
◎ポジティブ
東京ガスが公共性の強い事業体であったことから、FC東京事業の位置づけがCSR(企業の社会的責任)要素が強かったのに対し、MIXIは戦略本丸として投資及び施策を打つ必要がある。
そのためコミュニケーション増加の肝である「サポーター増」に向けた施策打ち出しはかなり期待できる。かつ成果も出ているように見える。
またこれまで排他的要素のあったサポーター文化が、良い意味でフラットになることで、企業にとっての広告的価値も上がり、クラブとしての拡張性が見えてくる。
ヨーロッパの強豪は歴史そのものがクラブ価値となっているが、まだ20年そこそこのJリーグクラブはそれ自体は価値としては弱く、クラシックさを売りにする(既存文化を軸に拡大する)にはサポーター基盤が弱すぎる。
その意味でも、クラブ拡大(強豪化)において本気で取り組める素地ができたのではないかと感じる。
?ネガティブ
事業戦略上の優先度として「サポーター増」がまず優先される状況に見える。これは優勝やそれに向けた選手獲得がKPI(目的を達成する一要素)に落ちてしまい、短期的な成果である必要が必ずしもないともいえる。
もちろん目指しはするだろうが、できなかったからと言って事業としての失敗には直結しない(直結しない事実は支えるファン・サポーターをもっと称えるべきだと思う)。
その意味でも、フットボールサイドに関するファン・サポーターとのコミットメント(約束)がとにかく弱いように感じる。
リソースをすべてに投下すると全体の戦略推進が弱くなるので「できないことはできない」でいいと思う。ただそれがフットボールサイドのことなのであれば「何ができて」「何はできないのか」をもっと明確にすべきだ。
サポーターはおそらく短期的に減少傾向にはならないだろう。
そうするとサポーター(特にコアサポ)はフットボールサイドの不満を直接企業に示す方法がない。どうすれば不満を伝えられるのか。それがMIXI批判としてサポーター間の軋轢にもなっているようにも思う。
IT企業によくあるKPIマネジメントにとらわれすぎて、本質を見失わないでほしいと思う。
フットボールクラブは勝つために存在し、サポーターは勝つ姿を見たいのだ。フットボールとは関係のないイベントだけを見に行ってるわけではない。
いい加減、Jリーグ獲りたいんや!(伝わって)