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コミュナリズム:解放的代案(6)

歴史の中の自由

自由の概念は、歴史の中で、十全な形で明言され完成した理念として現れてはいない。その代わり、自由は、民衆の草の根運動によって、そして支配の経験へ対抗しようとする有力な思想を通じて、時間をかけて発達し、拡大した。そのため、自由の歴史を十全に評価するには、こうした前進の中に現代の観点からすれば極めて欠けている部分があったとしても、社会的背景に照らしてその貢献を認めなければならない。*

歴史として記録されている中に初めて自由が現れたのは、「アマルギ」という言葉である。アマルギは、シュメール人農民が農民蜂起の最中に達成しようとした希望の国のことである。こうした農民にとって、自由が意味していたのは、ユートピアだった過去への回帰、ヒエラルキーの出現で共同体の連帯が壊され抑圧される以前の時代に戻りたいという強い願望だった。(原註13)

「国家」のセクションで既に述べたように、ギリシャ人は、貴族政治の獰猛な権力を防止すべく、政治を本当の意味で発明した。ギリシャの市民権は、今日の観点からすれば明らかに排斥的だったが、この考えは、外部の権威の仲介なしに、自分達の生活を自分達で運営できると立証した。ギリシャの政治生活は、単なる地域主義の観点に留まらず、逆に、諸都市の同盟--つまり、連邦--を形成し、外に向けて拡大した。そこに包括的な国家構造はなかった。中世の諸都市--当時の呼び名ではコミューン--も、国家統制を持たず、多くの場合、地元の民主主義や共和国として組織されていた。これらのコミューンは、欧州の広い地域で連邦として結合していた。(原註14)

中世の後には、米国革命が展開した。この革命は、地元地域のタウンミーティング民主主義に基づき、精巧な委員会システムによって植民地全体を調整した。タウンミーティングはニューイングランド地方で始まり、革命の進展と共に南はサウスカロライナまで広がった。こうした民主的諸機関の形は、独立したばかりの様々な植民地が分権化に向かう可能性を持っていた。(原註15)

啓蒙運動が最大の影響力を持っていたのはこの時代だった。資本主義の粗野な道具主義に転覆されてしまったものの、啓蒙運動が自由に対して成した貢献の重要性を看過してはならない。啓蒙運動と共に、理性に対するダイナミックな観点が現れた。その重点は、演繹法の直線的論理ではなく、存在や概念の潜在的可能性を明るみに出すことに置かれた。人は、信仰・迷信・服従に頼るのではなく、自分の理性的能力に頼ることができると思われた。さらに、民衆による統治を確信し、万人の物質的幸福は可能だと考えられたのである。(原註16)

18世紀の終わりに、啓蒙運動の影響はフランス社会の底辺にまで到達した。わずか4年で、パリは絶対王政から直接民主制に転換した。この直接民主制は、サンキュロットとして知られる労働者階級住民が参加する地区集会で構成されていた。もっと広範囲わたるサンキュロットは、国家を排除し、コミューン連合として組織を作るようフランス全土に呼びかけた。この主張は、自由主義反動派に転覆される前に、文字通り、実現一歩手前まで到達していた。(原註17)

政治的平等というフランス革命の理念は、経済的平等に関する思想の爆発を引き起こした。社会主義もアナキズムも、この革命後に出現した。反権威主義社会主義者は、資本主義の非人間的効果を持たない、物質が豊富にある世界を求めた。アナキストは、国家の強制なしに、個々人は理性的で倫理的な意思決定をできると強調した。ユートピア理論家は、審美的都市地域と自然界が調和する愉快な社会を求めた。最終的に、国際主義者は、世界中の労働者に、人種・民族・国籍を問わず、共に組織を作り、資本主義支配から自由になろうと呼びかけたのだった。(原註18)

1848年のフランス革命の最中、赤旗がパリに掲げられ、社会民主共和国が宣言された。この革命は史上初めての労働者蜂起だった。パリの労働者は、職人型の社会主義を希求したものの、その活動は自由主義反動派に阻止された。一世代後、1871年のパリコミューンの最中、当局はこの都市から逃げるしかなくなり、パリをパリ市民の直接管理に委ねざるを得なくなった。短命ではあったが、パリコミューンは重大だった。パリコミューンは同時に、国家統制のない民主的都市連合へとフランス全土を再構築しようとしていたからである。(原註19)

ロシア革命は、ボルシェヴィキの統制によって転覆される前、国内の都市部と農村部双方での草の根民主主義運動を特徴としていた。当初、ソヴィエトは、労働者と兵士で構成され、様々な市民的諸問題を扱う民主的な地区機関だった。農村部では、村落が村内の事柄を管理し、必要に応じて土地を再分配し始めた。多くの人が、ソヴィエトと農村コミューンをロシアの政治的構造として切望していた。レーニンが権力を握った後、ウクライナの人民主義者とクロンシュタット水兵が蜂起した。どちらも、ボルシェヴィキの統制を排除し、民主的ソヴィエトと村落コミューンを再確立しようとした。(原註20)

多くの点で、スペイン革命は史上最も深遠な革命だった。当時、スペインの産業労働者の大多数は、アナキズムに影響を受けた労働組合CNTの組合員だった。CNTはサンジカリズムだった。つまり、労働者による産業の民主的管理を求めていたのである。革命そのものは、1936年にファシスト軍の将校が主導した蜂起への反応で始まった。バルセロナでは、労働者が軍を撃退し、この都市を自分達の管理下に置いた。都市全体で労働者が仕事場を収用し、集団的に運営・管理し始めた。スペインの農村部では、農民が自分達の村落を制圧し、民主的集産体として仕事をできるよう農場を組織し始めた。多くの村落で、貨幣が完全に廃絶され、人々は必要に応じて受け取った。労働者と農民の集会は、広域委員会システムによってネットワーク化された。これが本質的に国家の権威に置き換わったのである。スペインの革命家は、公然と、可能な範囲で万人が貢献し、必要に応じて万人が受け取るという道徳的社会変革を希求したのである。(原註21)

第二次世界大戦後、国家権力と資本主義が拡大したが、それは自由への新たな貢献のきっかけとなった。対抗文化運動・公民権運動・反戦運動・フェミニズム運動・エコロジー運動・学生運動・ゲイ解放運動・住民運動が、ヒエラルキー社会そのものへ立ち向かった。黒人解放運動と女性解放運動は、はっきり示していた。人々は非経済的理由で差別され、社会的に孤立している。自由を確立する活動は、政治的・経済的平等に限定されるべきではなく、さらに推し進めてヒエラルキーの完全排除に進まねばならないのだ。近年、反グローバリゼーション運動は中央集権に反対する闘争を継続し、オキュパイ(占拠)運動は自治体レベルで組織された民衆集会を通じて不公正への不満に取り組もうとしていた。(原註22)

*このセクションは、主として、西洋社会でなされた自由への貢献を取り上げている。間違いなく、支配の形態の中には、人種差別主義や帝国主義のように、欧州諸国が世界規模で広めたものがある。こうした現実を許すわけにいかないのだから、欧州で発展した解放的理念も信頼できないとするのは、一方的であろう。他の社会でもそうだが、欧州の支配は、欧州に住む大多数の人に対して、内向きにも拡大していた。自由という理念は、支配そのものとの弁証法的緊張関係の中で発展する。社会主義・アナキズム・ユートピアといった概念は、民衆が絶対主義と階級搾取を打ち破ろうとした結果、欧州で出現した。付言すれば、西洋以外の革命は、ほとんどナショナリズム的なものに限られているが、それは、西洋の帝国主義者を追放するという歴史的必要性のためだった。逆に、西洋の革命の多くは、ナショナリズムを超え、世界全体に普遍的理念--民主主義や社会主義といった理念--を広める歴史的特権を持っていたのである。(原註23)

原註13.The Ecology of Freedom - p.244-245
・Remaking Society - p.102-103(「エコロジーと社会」、135ページ)

原註14.The Rise of Urbanization and the Decline of Citizenship

原註15.Bookchin, Murray, The Third Revolution. Vol. 1 (London and Washington: Cassell, 1996) - p.143-246

原註16.Remaking Society - p.165-167(「エコロジーと社会」、219~222ページ)

原註17.The Third Revolution. Vol. 1 - p.247-369

原註18.Cole, G.D.H. A History of Socialist Thought: The Forerunners, 1789 - 1850. Vol. 1 (London: MacMillan & Co LTD, 1953)
・Bookchin, Murray, The Third Revolution. Vol. 2 (London and Washington: Cassell, 1998) - p.2-28

原註19.The Third Revolution. Vol. 2 - p.192-251

原註20.Bookchin, Murray, The Third Revolution. Vol. 3 (London and New York: Continuum, 2004)

原註21.Bookchin, Murray, The Third Revolution. Vol. 4 (London and New York: Continuum, 2005) - p.95-260

原註22.Remaking Society - p.152-158(「エコロジーと社会」、201~210ページ)
・Bookchin, Murray, Toward an Ecological Society (Montreal: Black Rose Books, 1980) - p.11-31
・Bookchin, Murray, Post-Scarcity Anarchism (Palo Alto, CA: Ramparts Press, 1971) - p.31-54

原註23.The Third Revolution. Vol. 1 - p.16-19

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