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インドネシアの抗議行動の波に乗るアナキスト達(前編)

原文:https://ja.crimethinc.com/2024/09/23/anarchists-on-the-wave-of-protest-in-indonesia
原文掲載日:2024年9月23日

(訳註:原文が長いため、前編と後編に分けました。後編はこちら。)

2024年8月、抗議行動の波がインドネシアを揺るがした。表面上はジョコ゠ウィドド大統領(通称ジョコウィ)の後継者指名を狙った政治的陰謀に対抗したものとされている。英語圏ではこれらの抗議行動に関する<情報はほとんど出回っていない。より深い問題に迫るべく、私達はこの行動に参加したインドネシア各地のアナキストに接触した。

私達は、バンドンの独立した研究者であり写真家のフランス゠アリ゠プラセティヨと、ジョグジャカルタにあるアナキスト゠コレクティヴの参加者Mにインタビューした。写真もフランス゠アリ゠プラセティヨによるものである。


「政府を絶対信用するな」バンドンの抗議行動、2024年8月22日

米国に届くニュースによれば、現在進行中の抗議行動は選挙法改正、そしてもっと一般的には腐敗した政治家一族に対する反応だと報じられています。この話には続きがあるのでしょうか?

フランス゠アリ゠プラセティヨ:最近の叛乱は、ジョコウィの2期に渡る大統領在任に対する民衆の不満、特に若いインドネシア人の間での不満が頂点に達したことを浮き彫りにしています。この抗議行動はジョコウィ大統領を退陣に追い込まないでしょう。彼は2024年10月に退任するからです。しかし、この抗議行動は、インドネシア、特にバンドンの社会運動が、1998年の改革で権威主義時代が終焉して以来、よりダイナミックで多様なものになっていると示しています。これらの抗議行動は、ジョコウィが1998年の改革で確立された地方行政長官選挙に関する法律を変えようとしたことに対する反応として出現しました。

憲法裁判所は、地方行政官の年齢制限について2つの判決を下しました。まず、候補者は登録時に30歳以上でなければならないという判決です。この決定によって、ジョコウィ大統領の末っ子で、まだ29歳の息子は地方行政官に立候補できなくなります。2つ目の判決は、政党が地方首長候補を推薦するのに必要な定数25%を無効にしました。裁判所は、各地域の有効投票数の6.5%~10%に引き下げたのです。この変更によって、小規模・中規模の政党が独自の候補者を推薦できるようになり、有権者は指導者の選択肢をより多く持てるようになったのです。これまでは、25%という基準値のために、大規模政党しか候補者を推薦できませんでした。ただ同時に、この判決は、野党から人気があり、当選可能性の高い前ジャカルタ州知事など野党が支持する候補者に門戸を開いています。

ジョコウィの行為は民主主義の諸原則を損なっていると見なせるかもしれません。その背景には、2024年10月の大統領任期終了後も強い政治的影響を保持しつつ、権力を維持し、保身を図りたいという思惑が働いていると思われます。民主主義の包摂性・説明責任・生活の質をインドネシアでも世界でも進展させるにはまだまだ多くの作業が必要です。しかし、進歩は進展するどころかむしろ減速しているように思えます。多くのインドネシア人は、代議制政府崩壊の可能性を恐れています。さらに、特に軍事法と警察法のように、重大な影響を及ぼしかねない他の法律が検討されているのです。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

M:インドネシアの抗議行動は、選挙法改正・蔓延する汚職・経済的怨言・政治指導者と警察の蛮行への不満といった様々な要因が絡み合って引き起こされました。現在の騒乱の中心には選挙法の改正と腐敗した政治家一族の影響がありますが、それはもっと広い文脈の一部です。

抗議行動を引き起こした中心的諸問題

  1. 選挙法改正:抗議行動を著しく煽ったのは、最近行われたインドネシアの選挙法改正だった。多くのインドネシア人はこの改正を民主主義の原則を損ない、確立された政治エリートの影響力を増大させるものだと見ている。一部の人々はこの改正を選挙結果の操作を助長し、民主的プロセスの公平性と透明性に関する懸念をもたらしていると考えている。

  2. 政治的腐敗:汚職はインドネシアの政治で長年の課題となってきた。強力な政治家一族のメンバーも含め、政治エリートの間に汚職が蔓延しているという認識は、民衆の不満の一部となっている。多くの抗議者は、犯罪者に対する公正な裁判と処罰、そして、「汚職撲滅委員会(KPK)」など関連諸機関の説明責任と透明性の向上を求めている。

その他の要因

  1. 歴史的怨言:インドネシアには政治的混乱の歴史があり、最近の抗議行動は歴史的怨言の影響を受けている。例えば、権威主義的支配と汚職に対する過去の様々な運動がそうだ。スハルト時代と1998年の「レフォルマシ(改革)」運動の遺産は今日まで人々の感情と活動主義に影響を与え続けている。

  2. 経済的不満:経済問題も重要な役割を果たしている。格差の拡大・失業・経済政策への不平が不満に拍車をかけている。多くのインドネシア人は、経済成長の恩恵が均等に分配されておらず、社会的・経済的緊張を悪化させていると感じている。

  3. ソーシャルメディアと活動主義:異議を組織し、増幅させる上で、ソーシャルメディアの役割は見逃せない。ソーシャルメディア゠プラットフォームは、活動家による迅速な動員・情報拡散を可能にし、抗議行動の規模と強度に寄与している。その結果、彼等の実績や彼等が犯したあらゆる犯罪に対する民衆の監視が強化されている。ハッシュタグ運動も拡大し、進行中の問題に対して「ノー゠ヴァイラル、ノー゠ジャスティス(口コミなくして、正義なし)」という言葉も生まれている。

  4. 現在の指導者:ジョコウィ大統領は、汚職と政治改革に対処できておらず、評判の悪い法案を提出していると批判されている。権力の座に就いてから10年間、ジョコウィ政権は、民衆の幻滅の一因となっている制度的諸問題に充分取り組んでこなかったと非難されてきた。ジョコウィは大統領在任中、社会と環境に有害な開発の推進に注力してきた。そのため、彼の政策に直接影響される地域社会の中で、草の根レベルで大きな批判と対立が起きている。

  5. 警察の蛮行:人々は怒っている。抗議者に対する警察の暴力に、恣意的な逮捕に、被拘禁者の虐待に、権力の乱用に、汚職に、軍備のための国家予算増額に、デモにおける催涙ガスの使用に、職務上の不祥事に、警察が違法オンライン賭博・人身売買・薬物売買の「保護」に関与していることに、地元地域と対立する鉱業地域とパーム油プランテーション地域の「警備」に。これは、警察内部の組織的諸問題を反映していると批判されている。例えば、説明責任の欠如・監督不行き届き・権威主義慣行の傾向である。人権団体や活動家などの人々は、警察活動の改善・透明性の確保・市民的自由の保護に向けた改革を頻繁に求めている。アナキストは、警察制度の廃止を呼び掛け、警察と闘うよう呼び掛けている。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

現在の活動の波に先行するインドネシアにおける過去の強力な社会運動について概略していただき、現在の騒乱に至る重要な出来事の年表を示してください。

フランス゠アリ゠プラセティヨ:この抗議行動が起こる前、別なデモがありました。KPK(コミシ゠プンブランタサン゠コルプシ、汚職撲滅委員会)の議長に、問題ある警察署長を任命することに反対するデモでした。多くの人が、この任命でKPKの中立性が損なわれ、汚職と効果的に戦えなくなると恐れたのです。2019年、人々は、1998年の改革以来最大の抗議行動を行いました。これは、#reformasidikorupsiとして知られています。これらのデモ、そしてデモに対する国家の対応が、ジョコウィ政府に対する民衆の信頼を劇的に低下させました。

#reformasidikorupsi抗議行動はほぼ2週間続き、複数の都市で行われました。悲惨なことに、警察は複数のデモ参加者を殺害しました。多くの人々は、この抵抗が新秩序(スハルト)政権を転覆した第一次改革と同じように第二次改革に繋がると期待していました。しかし、ジョコウィは、野党に働き掛けて与党内での役割を提供し、事態を何とか鎮静化してしまったのです。特筆すべきは、ジョコウィが軍と警察の協力を促すことに成功した点にあります。そのために、抗議行動の最中、彼等は広範囲にわたって協力し合ったのです。

2019年5月1日、複数の自律的グループが街頭に繰り出しました。その大部分がブラックブロックに参加しました。これは初めてのブラックブロック抗議行動ではなかったのですが、現在まで最大規模で、多くの人が驚いていました。現在進行中のデモの文脈を考えれば、多分、それほど驚くべきではなかったのでしょうが。

2022年、物議を醸した刑法(KUDP)の可決後、大規模な抗議行動が勃発しました。多くの人は、この法律を植民地時代の法律になぞらえていました。刑法の承認とその後の抗議行動の前、2020年10月に、下院(DPR)とインドネシア政府は新自由主義的な「オムニバス法」を可決しました。この法律は、パンデミックの間に雇用を促進し、経済成長・開発・投資を阻害すると見なされる法律の改正を加速させるためのものでした。

憲法による制限で自分が3期目を狙えないため、ジョコウィは自分の義理の弟を憲法裁判所の裁判長に指名しました。また、副大統領候補の年齢制限の緩和も検討し、自分の長男が2024年の大統領選挙でプラボウォと共に出馬できるようにしました。プラボウォは新秩序時代の軍司令官で、1998年の改革中の活動家誘拐やパプアでの軍事作戦など人権侵害の前歴があり、改革後はヨルダンに亡命していました。アブドゥルラフマン゠ワヒド(グスドゥル)政権中にインドネシアに帰国して政治活動に従事した結果、グリンドラ党(ゲラカン゠インドネシア゠ラヤ)を創設し、その議長に就任しました。

プラボウォとジブラン(ジョコウィの息子)は2024年の選挙で勝利し、新秩序時代へ後退する一歩を踏み出したのです。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

M:ここで、簡単な年表をお示ししましょう。

年表

2017年:ジャカルタ州知事選挙で、現職のアホク知事に対して大きな騒乱と大規模な抗議行動が起こる。これは主として、強い人種差別傾向のある宗教的冒涜(彼は中華系民族である)の疑惑に煽動されていた。アホクの敗北で政治的・社会的二極化が高まった。

2018年~2019年:インドネシアでは、高級官僚と大臣が関与する複数の有名な汚職スキャンダルが起きた。これらが政治エリートに対する民衆の不満を悪化させた。

2019年:ジョコ゠ウィドド(ジョコウィ)大統領が再選。野党グループは不正選挙だったと主張し、ジョコウィの政策を批判して抗議した。この時期、ジョコウィの政治家一族と縁故主義の影響に対する民衆の監視も厳しくなった。

2020年~2021年:新型コロナウィルスのパンデミックによって、経済的不安定を含む既存の諸問題が悪化した。パンデミックへの対応と救済活動における汚職を巡り、民衆の不満は大きくなった。

2022年:新しい「仕事創造法(オムニバス法)」に対してデモが行われた。この法律は資本家の利益を労働者の権利よりも優先していると見なされたのである。これらの抗議行動は、労働者の権利と経済的不平等に関する継続的懸念を浮き彫りにした。2022年には、国家警察の幹部でプロパム部門の責任者を務めていたフェルディ゠サンボが関与する異常な事件も発生した。(「カディヴ゠プロパム」は職能・治安部門の責任者を意味し、全国警察組織の内部環境において職務水準と治安の向上に関連するプロパム部門の職務を遂行する権限を持つ)。彼はジョシュア゠フタバラット准将の計画的殺害に連座していた。サンボは当初死刑を宣告されたが、最終評決は無期懲役だった。この事件は国内外で大きな注目を集めた。インドネシアで国家警察の長官が無期懲役を宣告されたのはこれが初めてだった。

2023年~2024年:最近の騒乱は、選挙法・汚職の申し立て・高い失業率に対する不満と、強固な政治家一族に対して増大する失望が相まって引き起こされている。進行中の抗議行動は、最近のインドネシア史を特徴づけている政治的変革を求めた闘争の継続を映し出している。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

あらゆる運動には様々な党派と潮流が関わっていて、それぞれの世界観と目標も異なっています。この対立の両陣営にいる様々なグループについて話してもらえますか?

フランス゠アリ゠プラセティヨ:インドネシアでは、政治文化が比較的弱く、労働運動は衰退し、左翼はバラバラです。こうした中で、個々人がアナキストを名乗ったり、アナキズム諸原則に同調したりすることは珍しくありません。この柔軟で包括的なアナキズムの解釈が、アナキズム思想の最も広く浸透している形態だと思います。社会運動の傾向としてアナキズムはインドネシアの多くの若者に強くアピールしています。特に、バンドンには2014年以来アナキズムの長い歴史があります。バンドンでは、アウトノミア系の運動が『モビリザシ゠クムアカン(嫌悪の動員)』というコンピレーション゠アルバムをリリースしました。パンク・メタル・ヒップホップといった様々な音楽サブジャンルの12バンドが参加しています。このアルバムの歌詞は選挙を拒否しています。代議制民主主義を批判し、それを街頭での民衆動員や「直接民主主義」と対比させたスペシャル゠ブックレットも付いています。

(『モビリザシ゠クムアカン(嫌悪の動員)』コンピレーション、代議制民主主義への攻撃。)

逆に、インドネシアで著名なマルクス主義知識人グループはジョコウィを支持していました。2014年の大統領選の前に派手な新聞キャンペーンを行って、左翼活動家・若者グループ・新しい有権者を動員したのです。彼等は、ジョコウィが、人権侵害の前歴を持つ新秩序時代の軍司令官プラボウォに反対していると強調して、この支持を正当化していました。皮肉なことに、ジョコウィは2024年にはプラボウォの大統領就任を擁護する中心人物になり、ジョコウィの長男がプラボウォの副大統領になりました。

現在の抗議運動は3つの主要グループに分かれているようです。大学生;ナショナリストや宗教グループも含む労働団体と大衆組織;女性団体・アーティスト・ジャーナリスト・ジェンダー不適合者・宗教的マイノリティといった特定のアイデンティティに基づく問題に焦点を当てた非公式グループです。こうしたグループの中には、社会・警察・国家から「ブラック‐オン‐ブラック」グループとか「アナルコ」グループというレッテルを貼られているものもあります。

こうした「アナキスト」グループは様々な手段で自分達を表現しています。例えば、叫んだり、歌ったり、落書きしたり、街頭で発煙筒を灯しながら旗やポスターや横断幕を掲げたりしています。これらは意識高揚を目的としています。残念ながら、現在の民主主義体制は、国家や警察と軍に対して街頭闘争を展開する効果的な手段を提供していません。このアナキストの活動は、一般市民を・民主的プロセスを・警察さえも幾分不安にさせています。公共の場でのあらゆる戦い、特にアナキストに対する戦いに勝とうとする警察の決断が、市民社会の一員としてのアナキストに対する民衆の理解と支持を低下させることにつながったのは残念です。

学生グループは抗議行動を起こす上で重要な役割を頻繁に果たしていて、変革の担い手として主流メディアの報道でも目立つ形で取り上げられ続けています。彼等は、政府の政策に対する知的・批判的声だと広く認められています。教育を受けた市民として、彼等は政府の決定に影響を与える可能性を持っています。

インドネシア全土のストライキに学生が参加したことで、新しい社会運動に拍車をかけ、政治意識の向上につながりました。学生達は抗議行動で強力な力になっていて、その多くが、破壊的な若者のエネルギーと情熱を導くアナキズム運動に共鳴しています。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

M:一般的に言って、現在の抵抗運動は2つのグループに分かれています。政府と政党の中にいるエリート、そして政府の外にいるコミュニティです。政府の中にいて、自らを「野党」と位置付けている人々は、独自の政治的・政党的思惑を持っています。また、彼等は自分達の利益を確保しようとしているのですが、私達は全く気にしちゃいません。他方、最近の議会外運動には多様なグループが参加しています。例えば、1998年の抗議行動のベテラン・人権団体と活動家・女性団体・環境保護活動家・ジャーナリスト・先住民コミュニティ・農民・漁民・非正規労働者・学者・宗教学生団体・パプアの学生達・大学教授・オンライン配送ドライバー・政治家や有名人・アーティスト・コメディアン・母親・高校生・パンクスです。もちろん、アナキストもいて、騒乱の煽動者とか「挑発者」として頻繁にスケープゴートにされています。

ジョコウィ一族の行為が、特にその大統領任期が終わりに近づくに連れて、増々無謀になっていることに対して、こうした議会外グループは憤慨する局面に達しています。市民社会は、2024年10月に就任予定の次期大統領と次期副大統領についても懸念を表明しています。どちらも非常に悪い前歴を持っています。次期大統領プラボウォ゠スビアントはスハルト前大統領の義理の息子で、スハルト政権下で上級将官を務め、現在は国防大臣です。彼は、1998年の学生活動家の誘拐と失踪に、そしてスハルト時代に行われた一連の軍事作戦に関与していました。また、大金持ちの実業家でもあります。今年初めに憲法裁判所が言及したように、次期副大統領でジョコウィの長男のジブラン゠ラカブミン゠ラカは縁故主義と大統領年齢制限指針違反のために大きな批判にさらされています。

バンドンの抗議行動、2024年8月22日

騒乱の最中、収奪された警察の盾と警察車両に「ACAB(ポリ公みんなロクデナシ)」と殴り書きされていました。反権威主義者とアナキストはこうした抗議行動でどのような役割を果たしていたのでしょうか?今日のインドネシアの運動には大雑把に言って反権威主義的感情はどの程度広がっているのでしょうか?

フランス゠アリ゠プラセティヨ:1990年代にグローバル゠ジャスティス運動が台頭して以来、アナキズム思想は復活を遂げ、より多くの支持者を惹き付け続けています。警察の弾圧と主流メディアからの継続的批判があるものの、この運動は勢いを増しています。バンドンは、歴史的には1990年代のインドネシアにおけるアナキズム活動の中心地で、今もなお活気あるアナキスト゠コレクティヴの本拠地です。この運動は2000年代中頃に大きく成長しました。労働者のストライキ・サッカーのフーリガン行為・立ち退き反対運動・相互扶助活動・本とパンフレットの配布など様々な取組が行われた結果です。制度全体に起因する経済的不平等・ジェントリフィケーション・住宅と土地の利用問題・労働の再編・政府の弾圧が、広範な怒りと警察との対立に拍車をかけているのです。

アナキスト達は自分達の信念に沿った空間を創造し、代替抵抗形態を模索し、自由の・局所的抗議行動の・国境を越えた社会運動の境界を定義することに専心してきたのです。

権威主義と軍国主義は新秩序時代以来のインドネシアの経験に深く根付いていて、この軍事化はジョコウィの下で拡大しました。ジョコウィ政府に対するアナキストの抵抗は強力です。行政府が警察と軍の予算に及ぼす権力を整備しているのは、抗議運動を統制するためです。警察はジョコウィ支持のあからさまなキャンペーンを行いませんでしたが、警察の支持が様々な地域で彼の当選に寄与していました。新秩序時代の警察の役割を思い起こさせます。

バンドンで700人以上が逮捕された2019年のメーデー゠ブラックブロック以後、警察は、明らかに、公共の場での衝突に、特にアナキストが関わっている衝突に断固として勝利しようとしています。その結果、アナキストは一部のコミュニティから孤立する恐れがあります。バンドンの一部の住宅街では、住民達が「アナルコ反対」「アナルコ゠ディララン!(アナルコ禁止!)」「ダエラ゠イニ゠ベバス゠アナルコ(この地域にアナルコはいません)」といった断幕を掲げていました。当時、誰も破壊的な抵抗運動と関わりたがらなかったのです。

2020年、オムニバス法に対する抗議行動の最中、こうした断幕は消え始めました。しかし、警察は抗議行動を掃討し続け、黒い服を着ているというだけで市民を逮捕し、暴力を振るったのです。抗議行動で黒服着用者を狙った行為は、アナキズム運動の孤立化を意図していたのですが、逆の効果を生み、多くの怒れる若者達をアナキズムに駆り立てています。

2022年、サッカースタジアムで死傷者を出した事件をきっかけにして、激しいデモが行われ、警察との衝突が勃発しました。その結果、「ACAB」などの斬新な反警察スローガンと落書きが増々好まれるようになったのです。

バンドンの抗議行動、2024年8月28日

M:インドネシアのアナキズム運動は拡大しています。議論・出版・翻訳・ソーシャルメディア・アート・音楽を通して反権威主義思想を紹介するだけでなく、積極的に草の根運動に参加しています。特に、立ち退きや環境破壊に反対する運動、警察と国家に反対する運動ですね。私達は、直接行動を使った分権型運動を提唱し、列島各地に相互扶助ネットワークを構築し、国家と企業に対立して土地を占拠し、自分達自身も含めてコミュニティ全体が直面する日常的諸問題に対処しています。私達はアナキズム諸原則に基づいて組織を作り、社会の中に批判的意識を育成することでこうしたことを実現しています。

私達は、国家と企業が社会に対していかに操作的で搾取的なのか暴露しながら意識啓発しようとしています。彼等の悪行について情報を提供しています。情報をより多く得るに連れ、人々はより批判的になり、国家機構や国家戦略への信頼を、そして警察への信頼も失っていきます。

この取り組みを行っているのは私達だけではありません。私達は学生グループ・パンクス・アーティスト・ミュージシャン・学者・クィア゠コミュニティ・失業者・弁護士・非正規労働者などの人々と関係を築き始めています。有機的なアナキズム運動が、様々な地域の反権威主義運動の成長を増幅させながら、その役割を果たしているところなのです。

しかし、課題がないわけではありません。学生グループと私達アナキストとの間で摩擦が生じています。インドネシアの学生は、大抵、デモの際にキャンパス゠ジャケットを着て、ロープを使って障壁を作っています。これは警察のスパイや挑発者の侵入を防いでいるのだと彼等は主張しています。また、彼等はあたかも抗議行動の指導者であるかのように振る舞いがちです。一種の前衛主義ですね。皮肉なことに、彼等のスローガンは「人民が団結すれば敗北しない」「挑発に気を付けろ、我々を分断させるな」というもので、人民を代表していると主張して自らを分離している現実と矛盾しています。緊張が高まると、大抵アナキストが前に出て、他のデモ参加者の熱狂に火を付け、衝突に発展します。

例えば、バンドンでは、催涙ガスと石が飛び交う混乱した情況になった時、デモ参加者達は大急ぎでキャンパスに逃げ込もうとしたのですが、学生達は私達を妨害し「彼等を中に入れるな!私達の仲間じゃない!」と叫んだのです。さらに悲惨な事件がスカブミで起きました。一部のデモ参加者が「ブラックブロック」だと特定されて、多くの学生に殴打されたのです。

大抵の場合、学生達は理解できていないのですが、デモ参加者の多様性は避けられない現実であり、これは、運動に多様な社会層が含まれていることを示しています。同じ敵と戦う上で多様なグループがより多く参加することは、戦術的に重要です。学生達は、匿名性がデモ参加者の安全にとって重要だということも忘れています。警察が頻繁に「ブラックブロック」グループを標的にしているからです。

バンドンの抗議行動、2024年8月28日

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