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暴力団はマフイア化する?「県警VS暴力団」

「県警VS暴力団・刑事が見たヤクザの真実」藪正孝著・文春新書2020年5月発行

著者は1956年生まれ、高卒後福岡県警察官となり、2016年定年退職まで工藤会専門の暴力団対策を長年担当する。

本書は一人の刑事が綴った福岡県警と工藤会との戦いの歴史である。きれいごとで飾ったヤクザでなく、真の暴力団の姿を描く。

2021年8月、殺人罪に問われた工藤会トップ野村悟総裁に死刑判決、ナンバー2の田上不美夫会長に無期懲役の高裁判決が出た。暴力団トップの死刑判決は初めてである。

「暴力団の街」北九州市の小倉市民を恐怖に陥れた工藤会のトップ。殺人、殺人未遂の対象は一般市民であり、トップの直接指示の証拠なく、推認による判決と話題となった。

工藤会は特殊な暴力団である。漁協元組合長射殺事件、看護婦殺人未遂事件、退職後の元警部襲撃事件、スナック手榴弾爆破など市民襲撃事件を多発させた。
建設工事、みかじめ料の利権に関する争いである。大手ゼネコン工事の下請け企業に参入、工事代金の1~数%相当のみかじめ料を取る。収入は莫大である。

トップ野村総裁逮捕時に15億円、田上会長逮捕時は10億円の保釈金を即金で支払う資金力を保有する。初めて暴力団シノギを所得税法違反の脱税犯罪として成立させた。

「警察は命まで取らないが、工藤会は命を取る」と恐れられた。市民に恐怖心を与え、服従させる。警察が暴力団壊滅と言っても市民は協力しない。

著者は暴力団協力周辺部分を集中的に暴力団から分離させ、市民に警察への信頼を確保した。

平成4年暴対法施行後も暴力団対策は進まなかった。平成22年暴力団排除条例施行で事務所新設が困難となった。工藤会が特定危険指定暴力団に指定されたことも大きい。

退職警察官襲撃事件を起こす工藤会は山口組とは一線を画する凶暴性がある。「警察官には定年がある。ヤクザには定年はない」定年後は気を付けろ!脅しは強烈だ。

著者は言う。「警察官に定年はある。しかし警察官の生き様、誇りに定年はない」と・・

平成30年1年間の暴力団員の検挙総数は3,400人、暴力団員総数15,600人の22%に当たる。山口組三組織の構成員は平成23年15,200人、令和元年5,900人と10年間で1/3近くに減少した。

ドキュメンタリー「ヤクザと憲法」でヤクザの人権が話題となった。著者は手榴弾を投げ込まれケガをした女性店員に謝罪もない。被害者の人権はもっと大切と言う。

テレビ出演した若い団員は暴力団を離脱後、名古屋で強盗事件を起こし、自首した。暴力団対策は「力なき正義は無力、正義なき力は暴力」と言われる。

著者は、暴力団が「任侠集団」と呼ばれ、暴力団が落ちこぼれのセーフテイネット論の欺瞞を主張する。「ましなヤクザは居るが、良いヤクザは居ない」と言う。

しかし、表社会の倫理観は裏社会以上か?責任逃れは当たり前。何かあれば現場、秘書の責任。反省は表面的。起訴されなければ、何をやっても良い。故に不祥事が絶えない。

表社会の倫理観、道徳観も裏社会ヤクザと大して変わらない。表立って人を殺さないだけかもしれない。

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