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階級社会での警察人生、出世と苦悩の回顧録

「警視庁科学捜査官・難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル」服藤恵三著・文藝春秋2021年3月発行

著者は1957年生まれ、東京理科大卒後、警視庁科学捜査研究所職員となる。日本で初めての科学捜査官となり、警視庁刑事局調査官で定年を迎え、61歳で退官する。

学生時代、私の隣の下宿部屋に東京理科大の学生がいた。真面目によく勉強する学生だなと感心した覚えがある。銭湯もよく一緒に出掛け、ラーメンも分けて食べた。

著者も昔の友人同様、真面目な人物のようである。在職中、数多くの難事件に向き合う。この本の面白さは科学捜査官としてのフイクションの面白さではない。

階級社会、警察の世界で専門職として生きるか?ラインの上位職位を目指す出世との葛藤にある。サラーリーマンのゼネラリストか?スペシャリストか?その過程で、人間の弱さを正直に出す点で好感が持てる。著者はラインを目指し、最後、警視正まで上り詰めた。ノンキャリ警察官の出世頭である。

著者が巡り合った事件は多い。1995年3月地下鉄サリン事件の土谷正美(30歳)、1998年7月和歌山カレー事件の林眞須美(37歳)、2000年7月のルーシー・ブラックマン事件の織原城二(48歳)、2001年9月歌舞伎町ビル火災事件、2002年7月東京駅コンビニ店長刺殺事件の大森秀一(34歳)、2010年7月大坂幼児死体遺棄事件の下村早苗(23歳)、1961年3月名張毒ぶどう酒事件の第7回再審請求事件の奥西勝(2015年89歳で病死)などである。

著者は、警察庁、警視庁に設置された「犯罪捜査支援センター」の整備に貢献した。科捜研捜査、各種解析業務を担当する。オレオレ詐欺の携帯解析、顔認証システムなど犯罪捜査に大きく寄与している。

警察社会の特殊性、競争社会、階級社会でのサラリーマン人生。民間会社とは全く異なる社会であることを実感する。事実追求のテレビドラマ、正義の警察官と大きな格差がある。真面目に生きようとする人間ほどその悩みは多い。文末の言葉が印象的である。

「人にはそれぞれ行き着くレベルがある。すぐ伸びる人、ゆっくり伸びる人。しかし必ず停滞期、壁に当たる。壁をすぐに乗り越える人、なかなか乗り越えられない人、さまざまだ。どうしても乗り越えられない人はその高さで生きる人だったのかもしれない。」

人生は色々。しかしその場面で、必死に生きることに価値がある。出世の高さ、業績の有無は、その人の価値に何の関係もない。一種の人生論の書である。

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