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農家の現実・企業の現実「七転八倒百姓記・なぜ倒産」

「七転八倒百姓記・地域を創るタスキ渡し」菅野芳秀著・現代書館2021年10月発行

コロナ危機のなか、元気が出る本を読んだ。菅野芳秀著「七転八倒百姓記」である。著者は、1949年生まれ、山形県の農家出身、1968年明治大学農学部入学、当時の三里塚闘争に参加、沖縄労働団体専従勤務後、故郷に帰り、家業の農業を継いだ。

農業開始時に減反反対、無農薬農業を目指すも挫折、山形県置賜百姓交流からアジア農民交流センターを設立する。循環する地域農業を目指し、台所の生ゴミから土作りの堆肥へ「レインボープラン」を計画した。

堆肥センターの完成、レインボー推進協議会設立。計画から30年、循環型農業システムは地域のみならず、中央でも高く評価される。

日本の農業の一戸当たり平均耕作地は2.3ヘクタール(約6,600坪・2町2反)である。耕作者の平均年齢は67歳、佐賀県の百姓作家・山下惣一氏は、「コメを作っていたんでは、オマンマが食えない!」と農家の現実を嘆いた。

2018年、コメの生産原価は1俵(60キロ)15,325円、農家のJAへの売り渡し価格は16,000円前後、コンバイン等の農業機械は一台当たり400万円を超す。コメを作る農家が食えない現実がここにある。

政府は農業の大規模経営化を進める。即ち、一戸当たり耕作地20~40ヘクタールへの大規模化である。しかし米国の平均耕作地は200ヘクタール、オーストラリアは3,000ヘクタール、勝負にならない。

農業大規模化を進めたタイ、フィリピンの農業は、アグリビジネス(農業巨大企業)に支配され、米国多国籍企業・カーギルに穀物を、デュポンに種子市場を独占され、小規模農業は消滅の危機にある。

TPPスタートで農業の効率化、低コスト化、大規模化を促進する。新自由主義とグローバリズムの巨大な波である。日本農業の生き残る道の難しさがここにある。

中国、ロシアの地政学的リスクの中、食料の自給度確保は緊急課題である。むしろ防衛武器強化より優先課題かもしれない。

「土は命の源」「農民的土地利用・所有から市民的土地利用・所有へ」と土地所有の発想の転換が必要と著者は言う。即ち、エネルギーから食料まで地域での自給圏を目指す方向である。

著者の言う。「理念中心の視点から利益の視点を持つ思考の変更が必要」と。地域運動は「理」だけでなく、「利」も必要、理と利の結合である。同時に農民運動の次世代への「タスキ渡し」が大切と言う。若い頃、流行った言葉「政治の幅は生活の幅より狭い」を思い出す。

都市のための原発活用でなく、地方で自給できる再生エネルギーと農業自立が国家存続の前提、将来像かもしれない。

「なぜ倒産・破綻18社に学ぶ失敗の法則・令和粉飾編」・日経トップリーダー著・日経PB2022年6月発行。

「日経トップリーダー」は企業経営向け月刊誌である。本書はこの雑誌の連載記事の書籍化である。

破綻事例からいくつかの企業破綻、失敗の法則を示す。失敗のほとんどは予想外の出来事ではなく、事前に表面化した病状の現実化である。

その1、怒涛の企業成長、攻めが破綻の始まり。守りを考えない、イケイケドンドンが最終的に破綻を招く。

その2、積極設備投資、積極経営が負の遺産を生み、拡大戦略を捨てられないまま、それが挽回の足かせとなる。

その3、幸運なヒット商品で経営者の目が曇り、バラ色の将来像ばかり描く、ビジネスモデルは常に変化し、環境変化に対応できるビジネス創出が必要となる。

「起業家はなぜビジネスを始めるのか?」それは資本の論理、利益の自己増殖と企業成長である。企業を拡大したい欲望は誰でも持つ。そして拡大戦略が自己目的化する。

結果的に「身の丈経営」を忘れる。大企業が持つ「新自由主義とグローバリズム」志向は企業の大小を問わず、同じである。

まったく分野の異なる二つの書籍であるが、どこか共通点、繋がりを感じる。それは「大きいことは良いことか?」「大切なのは次の世代へのタスキ渡し!」かもしれない。

産業の大規模化は大国主義につながり、際限のない膨張へ進む。「大きいことは良いこと」の理屈の後付けが進む。無限の財政膨張の結果が「恐慌」であるように、国家も企業も同じだろう。次の世代に破綻を与えないことを祈るだけである。

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