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絶滅した職種「総会屋」・「総会屋とバブル」

「総会屋とバブル」尾島正洋著・文春新書2019年11月発行

著者は1960年生まれ、産経新聞記者を経て、現在はフリーライターである。

「総会屋」は今や死語に近い言葉である。1970年代から1980年代の高度成長、バブル期においては、会社の総務部にとって避けられない言葉だった。

総会屋の始まりは、大正時代、弁護士の花井卓蔵に総会運営の研究を勧められた久保田祐三郎が最初と言われる。

花井卓蔵は明治21年英吉利法律学校(現・中央大)を苦学して卒業、弁護士となる。彼は幸徳秋水の弁護人を務めた人権派弁護士だった。

久保田祐三郎、田島将光らが総会屋のスタートだった。田島将光には「任侠の劇場」著書があり、任侠総会屋を名乗る。

横井英樹の白木屋乗っ取り事件では、久保田は白木屋側、田島は横井側についた。

高度成長期は、児玉誉士夫系列の上森子鉄らが中心。上森子鉄は与党総会屋と呼ばれ、三菱銀行等三菱グループに影響力を持った。

彼は菊池寛の書生あがりで、「キネマ旬報」の発行者でもあり「伝説の総会屋」と言われた。

1981年、総会屋数は6,800人まで増加し、最盛期を迎える。広島グループと言われる小川薫(小川企業の代表者)、論談同友会代表の正木龍樹などが活動した。

総会屋も組織化され、武闘派、理論派、ヤクザ派など形態も多様化した。

転換期は1982年10月商法改正。改正で利益供与罪が新設された。これによって会社、総会屋双方が刑事処罰を受ける。

同時に総会屋排除の社会的流れが生まれた。結果、5,000人近くの総会屋が廃業、残ったのは老舗の総会屋である。

改正後の1984年1月ソニーの株主総会が有名である。社長・大賀典雄は「便宜供与はしない!法を順守、長時間の総会も最後まで答える」と発言した。

一方、総会屋はいまだ健在なりと、全国の総会屋がソニーに集合した。午前10時から午後11時半までの超ロング総会となった。

1986年には三菱重工1,000億円転換社債発行時に、総会屋・論談同友会幹部に社債を配分した事件が摘発される。この社債は初値から瞬く間に2倍に値上がりした。

この時、政治家ルートを捜査していたのが、後に「バブル紳士・闇社会の代理人弁護士」と呼ばれる東京地検・田中森一検事である。

捜査途中、検察上層部から捜査中止の指示があり、彼は反発して東京地検の検事を辞職した。

この流れが後の1996年、第一勧業銀行の総会屋・小池隆一の巨額融資事件に繋がる。1997年6月、同行元会長・宮崎邦次が自殺した。

更に日興証券の損失補填VIP口座の利益供与に繋がり、1998年2月19日、高輪ホテルで衆議院議員新井将敬が自殺した。

バブル崩壊の1991年、四大証券の一任勘定損失補填事件が表面化した。稲川会・石井進会長の巨額取引事件、損失補填先リストも公表された。ここには多くの総会屋、暴力団関係者も関係した。

「最期の総会屋」と言われる小池隆一は、1943年生まれ、新潟県加茂市出身。総会屋小川薫の小川企業に所属も、小川の武闘的性格に合わず、同郷の総会屋・木島力也に師事、理論派総会屋に成長した。

木島力也は児玉誉士夫直系で雑誌「現代の眼」を発行。銀行、証券の金融界に強い影響力を持っていた。

小池隆一は総会屋らしくなく、ナイーブな性格である。彼はある会社の株主総会で質問を乱発し、総会進行を止めた。その会社の相談役に三菱銀行の役員が就任していた。伝説の総会屋・上森小鉄から昼の休憩中、小池に電話があり、小池は午後の総会で質問をすべて撤回した。与党総会屋・上森小鉄の影響力を示す逸話である。

木島の跡を継いだ小池は、四大証券の株式を各社30万株を保有した。野村證券は小池との一任取引の利益供与を認め、1997年常務、小池と共に逮捕された。

この株取得の資金源が第一勧業銀行である。元会長の自殺で真相は闇の中に葬られた。

総会屋消滅への原因は、1997年12月利益供与法定刑改正である。従来の懲役6ケ月、罰金30万円以下が、懲役3年、罰金300万円以下に厳罰化された。

従来の懲役6ケ月、罰金30万以下では、罪を早く認めて、執行猶予を得た方が有利だった。会社側も執行猶予と罰金30万円なら、会社への忠誠心の証明になる。厳罰後は大きく減少した。

最後の摘発が2004年西武鉄道事件である。古参総会屋・芳賀竜臥(74歳)が起こした。事件で西武鉄道社員が自殺した。

現在はIT企業、GAFAの時代である。総会屋も「アクテェビスト・モノを言う株主」に取って代わられた。

総会屋は実質消滅したが、企業の不祥事は無くならない。東芝不正会計、日産、日野自動車データ偽装など。

総会屋との緊張関係がないためとは言わないが、企業の緊張感が薄れている。コンプラ、コーポレートガバナンスの欠如は企業内部、組織自体にその原因がある。敵は内部にありと言うべきか。

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