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なぜ寺院でお祈りするのか?「お寺の行動経済学」

「お寺の行動経済学」中島隆信著・東洋経済新報社2023年4月発行
著者は1960年生まれ、慶応大学商学部教授、専門は応用経済学。「お寺の経済学」の著書がある。

本書は、日本人は信仰心もないのに、なぜ初詣に行き、おみくじを買い、厄除け、合格祈願の御祈祷をするのか?この不合理な行動の理由を行動経済学を使って、解明する。

お祈りの理由は「現世利益」を求める人間の心理、死に対する恐怖、煩悩の苦しみの解放を求める心理の歪み、「確証バイアス」「生存者バイアス」にその原因がある。

信仰とは、覚悟を持って、もう後には引けない心理状態をつくる。これが宗教へのコミットメントである。

「確証バイアス」とは、宗教上の仮説を支持する証拠のみを受け入れ、たとえ疑問があっても、仮説に反する証拠は受け入れない心理状態を言う。

このニーズをうまく利用した神社、寺院が宗教独特の営業戦略を生んだ。現在、宗教組織のガバナンス不全が現実化している。宗教法人は密閉的、内輪的組織で透明性、公開性がない。故にカバナンスが元々効かない組織である。

少子化、都市集中、地方過疎化で葬式仏教が縮小、墓じまいで、人は宗教から離れていく。同時に今までの祈り、祈祷も減少し、その価値も低下している。

寺の財政難、後継者不足で寺院経営が成り立たず、不活動宗教法人が増加する。僧侶資格のない一般人が役員となり、ビル型墓地、機械式納骨ビジネスが流行する。

一方で、人間の信仰を利用、人間の弱さをビジネスとする統一教会のような新興宗教が拡大する。前記の宗教の持つ確証バイアスと信教の自由を壁にして、閉じた組織が強化される。お布施、寄付行為が市場原理に利用される。

仏教本来の教えは「老・病・死の苦しみから脱却のため、こだわりを捨てよ!」にある。死とは大切なものを諦め、手放すこと。それによって、より良い生を送ることである。葬式は元々不急不要である。

浄土真宗は、祈祷せず、おみくじ、お守りも販売しない。修行もせず、神秘性も拒否する。現世利益を否定し、来世の阿弥陀浄土に期待する。仏像崇拝もしない。

絶対他力のみである。念仏、祈りを通じて衆生を救うのが仏教の本質である。その意味で真宗は仏教の原理主義者かもしれない。


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