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成長企業キーエンスの秘密・「キーエンス解剖」

「キーエンス解剖・最強企業のメカニズム」西岡杏著・日経BP2022年12月発行

著者は1991年生まれ、日経ビジネス記者。本書は日経ビジネス2022年2月特集号の単行本化である。

キーエンスは1945年生まれの創業者・滝崎武光氏が工業高校卒業、外資系プラント制御会社に就職、1974年27歳のとき起業した会社。現在は親族継承せず、代表を降り、名誉会長。日本有数の優良企業である。

当社は工場オートメーション用センサー機器の開発、製造販売会社。2022年3月期売上高は7,551億円、営業利益は4,180億円、営業利益率55%。その理由は、他社にない高付加価値、提案型商品力にある。

会社概要は、時価総額14兆円、トヨタ、ソニーに次ぐ第3位、従業員の平均年収2,183万円、自己資本率93%、単体従業員数2,600人、グループ全体9,000人。原則、生産工場を持たないファブレス、生産は協力工場に依存する。

本書は、低成長の日本企業のなか、日本のGAFAと言われるキーエンスの実像を解剖する。そこで見えたのは、従来企業と大きく異なる人材育成、営業・開発部門のあり方、企業風土の違いである。

キーエンス成長の原因は、一つに創業当時から実施された提案型営業と付加価値商品の開発である。当社の商品開発は、「顧客が欲しいものは作らない」「顧客の困り事のその裏にある潜在ニーズ」を発掘して、開発につなげる。さらに開発完成までの「チーム力の凄さ」にある。

もう一つは、顧客の潜在ニーズに先回り対応する営業部隊の存在である。キーエンスは、代理店方式やカタログ販売せず、営業マンの直接販売と実物機械を持ち込んだデモ式商談、販売にその特徴がある。

そのため、日頃から徹底した商談シュミレーション、ロールプレイングを実施する。上司、同僚二人一組で個別の顧客対応を練習する。そこで求めるものは、顧客ニーズ発掘だけでなく、なぜそれが必要か?なぜ欲しいのか?業界全体、工程全体の知識を取り込む。ここから最強の営業部隊が生まれる。

キーエンスの特徴の一つに「即日出荷・即納」がある。商品は1万種類以上、単価も数万円から1,500万円まである。そのため在庫負担が生じる。利益より当日出荷を重視する。

2022年3月期キーエンスの売上債権回転期間169日、仕入債務回転期間43日と資金負担が生じる。ここにあるのは「協力工場はお客様」の考え方である。

人事報酬制度は営業利益の一定割合を賞与として従業員に還元する。30歳過ぎで年収1,000万円の給与が生まれる。人事評価は成果主義でなく、プロセス評価を重視。ここから最強のチーム力が生発生する。

キーエンス経営は決して特異なものではない。「とにかく手を抜かない。当たり前のことを当たり前にする」これを徹底する所にある。そしてその仕組みを会社全体に行き渡らせる経営手法だろう。

顧客に寄り添うのでなく、顧客を引っ張り上げる営業、企業維持でなく、企業成長を先取りする経営戦略、守りから攻めへの経営など、日本企業に不足しているのは何か?キーエンスは明らかにしてくれる。

岸田内閣は新しい資本主義・骨太方針を発表した。高度成長期の遺物、残骸の塊、言葉の遊びに見える。必要なのは過去の思い出を捨て、意識変革。当たり前のことを当たり前にする実践行動である。

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