おわかれ博覧会
第66回短歌研究新人賞 落選作です。
スリのひとにもお花を見て欲しくて薔薇いっぱいのランドセル負う
常夜灯 アラームがいま母の手でスッと消されるだけの喪失
望郷 あめんぼの飴は舐めると脚だけが溶け残るって 忘れた?
あ、ごめん ごめんと思うより先にごめんって言う娘に育ち
町にいるひと全員が友だちでロータリーから出られなくなる
教室でその後落ちた飛行機の映像みたくあなたと話す
後夜祭 671人は誰もが自分を1と思って
形あるものならすべてあの角を曲がった後で花火になるよ
燃やすため書いた短冊 燃やすため書いた願いのこんな虹色
まばたきを我慢するのをやめてみる 人を突き放し飽きた正午
花の完成形は黒いぐにゃぐにゃ どこにも死角の無い毎日に
偽物の桜桃だけが真っ白なアイスに痛い色を移せる
大好きが大好きだったに変わるとき出るエネルギーでお米を炊く
太陽がふくらむ夢を見てそれから学校には二度と行かなかった
拳銃でぶっ殺される直前の映像みたくあなたは笑う
「花束も元は花だったんだから水が好きだろ」って、言ったの?
その星の言葉で「好き」という意味を表わすらしいビンタをもらう
初雪に傘を開くと閉じ込められていたらしい花に降られた
恋人が書いた手紙のぐにゃぐにゃな「日」の縦画がうれしくて泣く
3時には紅茶を零しみんなから手紙の絶えたことを笑った
恋人の会話の中にあらわれるテセウスの船はマストがでかい
行かないで 雪はあなたを傷つけて変質させるこわい罠だよ
しゅうまつは町の外れに行きましょうサナトリウムが雪でぎちぎち
毒入りのケーキをひとつ食べ終える きみはわたしでよかったのかな
看板に【オトメツバキ】と文字がありこんな焼け野であなたを思う
ひとりでもツツジに水をやれてるしもうひとりでも死んでゆけます
革命の前夜わたしは駅にいて濁る決意に朱を差していた
たぶんこれ傷になるなと思いつつ告げる「すき」ほどひらがなである
薔薇の枯れたとき始まった恋に薔薇の咲くようにやぶれていく
「さよなら」と通話が切られいま恋の棺に変わる電話ボックス
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