会話したひと全員短歌にする

2022年11月に大学構内にて会話したひとを、全員勝手に短歌にしました。




白椿 鉄の扉に塗りこんだ色水からの鉄の匂いだ


木製の柱時計にかける酸 眠り上手なあなたのための


(兎からはじめましょうか。)きみが言い、祭壇の解体を受け入れる


手すりには手すりの規律あることを凛と説かれて足がすくんだ


泣き顔がエミューに似てて好きだから波線ひとつ書く供述書


自由律で歩いている、夏だから木陰をなくすとかどうですか?


招待状捨てて寝転ぶ 隣人が鳴らし続ける鐘の響きが


身を反らす騎馬の上にて蘇る、日に焼けて果たせない約束


旋律で捕らえた噂、食べたけど、あなたの声に似てないね。これ


来春は幽霊になり踊ろうよ 目を閉じるたび満開の梅


結末が全てであろうがなかろうが今撃たなきゃいけない首かざり


太陽がくまなく差していたけれど思い出すとき心地よい夏


少年よ薄氷を蹴れ あきらめが覆るのを呆然と見る


ここが今いちばん澄んだ場所だよ 花吹雪の末にきみの手をとる


栞を外す 幸福の在処を歌う鳥から捕らえて愛す


回廊に鈴の音ひとつ こんなにもたやすく溶ける雪だったんだ


本の背をゆびさきで踏む 境界を揺るがす度に近づく四月


走ること 影の所在を忘ること あの感情の罠だったこと


頭から銀の装飾外すとき雪崩のように愛がまさった


オレンジの爆弾ひとつ 破裂して、あたり一面しあわせになる


価値として褪せないことが載っている頁の風化、凪がないで、波


(天体に影がかかった)祈りなら済ませてるから見て、ひかるから


「贈るなら向日葵だよね、燃やすなら向日葵だよね、夏終わるし、ね」


花をラブレターで包む きみからの置き手紙だけ雪に隠した


きみの目の奥で輝く太陽に気づく間もなく去ってった春


胸の奥まだ揺れているドレープに叶わなくたって祈る ごめんね。


葉が擦れる音を聞いて最後には会話の名残りだけが残った


憧れに触れる 遠いふるさとで花の蕾のかたちが変わる


優しくて真っ直ぐだからその川は星を透かすし人を呑めるよ


そよ風に揺らされる髪「週末さ、花火へ行こう」にじゅう、ごかいめ


垂れ篭める雲ごと散らす 限られた時間の中でこわす灯篭


おだやかな朝 バター用のナイフからは甘やかな事件が香る


出来合いのルールであると知っていて、楽しいからとそれを守った


約束はわざと少しだけやぶった 霧の濃い日に届く小包


手を取って程よく綺麗な輪になった聖歌隊のなかで目を伏す


スカートの裾を夜空に縫いつける 見て、趣味としてこわした月を


さようなら(あなたが眠る花電車)ケーキは火で完成されるから


新月のよる抱きしめる日記帳 さやけき明日に花を翳して


あこがれが風吹く丘に届いたら長い髪ごときみに託すよ


木犀の香りを吸ってやわらかいハンカチだからだいじょうぶだよ


観測はあちらの面で 月の裏、地球のメロンパンはまるいな


「リボンごとほどいていいよ、早くして」……。異国の香り果てる窓際


流星を閉じ込めながら乱雑にあなたは「また明日」と 言った


おもちゃ箱のなかで燻るあの日々をいまだ誰にも話していない


手を取ってくれたあの日の日記だけ書き出しが「私は」じゃなかった


過去だけを写すカメラの50キロくらいあるレンズ を割る


今からじゃたぶん間に合わないけれど一応肖像画は書くね おねがいね


「お手を触れませんように」とだけあって従うしかないくらい綺麗な


十字架を翳すその手のマニキュアが鬼可愛かった。身体が焼ける


ここで今秘密を全部ばらすから私のことも忘れないでね




以上です。たぶん、人並み以上にひとのことが好きで、わたしが変化すること、ひとが変化すること、わたしたちを囲いこんでいる世界が変化すること、その全てが寂しく、ぞっとするほど恐ろしく、どうしようもないです。
こういった恐怖から逃げるためには、たぶん書くか死ぬかしかないっぽいんですが、勝手に書くほうを選びとって 不必要に眩い毎日に焼かれながら生きつづけています、毎日が重たく大切で、ほんとうに幸せなことだと思います。
50人誰にも許可をとっていないので、だれかに怒られたら消します。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?