書評:機械脳の時代 - データサイエンスは戦略・組織・仕事をどう変えるのか?(加藤エルテス聡志著)

「機械脳」という新しい言葉と、21世紀最もセクシーな職業と言われる「データサイエンティスト」が操るデータサイエンスという言葉の組み合わせに惹かれて、本書を手に取ってみました。

人工知能はウサギ?カメ?

冒頭では、タイトルにもあるように、「人工知能」や「深層学習」という言
葉ではなく、それらの技術を包含する言葉として「機械脳」を定義している。考えることそのものを機械が代替する時代、そしてそれは「ウサギとカメ」のウサギのスピードとカメの持続力を持って進化していく、として、その驚異を表現している。

機械脳で出来ることは3つ

第1章では、機械脳に出来ることを「可視化」「分類」「予測」の3つに整理し、第2章以降で、それぞれ身近な複数の事例を呈示することで、まず機械脳に出来ることの理解を深めている。

ホンダの可視化

第2章では、「可視化」について具体的な事例を示している。その中の一つとして、本田技研工業があげられている。インターナビを用いて、車をセンサーにすることで、急ブレーキ多発箇所を地図上に可視化。その情報と実地調査を組み合わせて対策を講じることで、人身事故の発生を減らした事例をあげている。この中では、人間が理解しやすく可視化する工夫以上に、そもそもどのデータに着目するべきか、が大切だと述べている。

保険を分類する

第3章では、「分類」の具体的な事例として、保険会社による診断アルゴリ
ズムを取り上げている。保険会社が支払う払戻金を少なくする為に、払戻金を支払わなければならない事象の予防に投資し、医師にガンの適切な診断と治療を実現させることを狙っていた。この中でも、導入初期は的中率が 50%に満たなかったが、データ量が増えるほど、正確性が急速に増したと紹介している。

映画の売上を予測する

第4章では、「予測」について取り上げている。事例としてエパゴギクスと
いう、専門家の映画台本への評価をニューラルネットワークで解析する映画の興行予測を取り上げている。その中でも、過去 10 年近くの事業で蓄積した映画脚本の評価データと、その興行収入の結果は、この事業への参入障壁になると述べている。

それらを考えるためのフレームワーク

第5章では、こういった機械脳を作る ABCDE フレームワークを紹介してい
る。「Aim(目的)」「Brain(機械脳の種類)」「Coding/Construction(プログラ
ミング作業・実装)」「Data(データ選定と整備)」「Execution(実行)」の 5 つ
のプロセスを直線的にではなく、行ったり戻ったり有機的なプロセスを踏みながら進めていくべきだと述べている。まず、明確な Aim を設定することが重要で、その為に手段・対象・数値基準・期日・制約条件を網羅し、SMART というフレームワークが重要であるとしている。

SMART とは「Specific(具体的)」「Measurable(計測可能)」「Achievable(達成可能)」「Relevant(意味のある)」「Time Bound(期限付き)」の頭文字をとっている。
続いて、Brain を選択基準として「Accuracy(精度)」「Interpretation(解釈
容易性)」「Coding/Construction(プログラミング作業・実装)」「Speed(速
度)」を上げており、Accuracy と残りの3つはトレードオフの関係にある為、
プロジェクトの目的に合わせて選択することが必要だと述べている
Coding/Construction については、間違いが起こる領域として1.プログラミ
ング言語、2.クラウドサーバー・サービス、3.チームマネジメントに大別にして注意点を述べている

Data については、まず既存のデータを使うことを目的にするのではなく、
り出したいデータを明確にした後に、どのようなデータが必要かを考えなければならない
として、データ選びの基準を4つ示している。それは「Relevancy(関連性)」「Volume(データ量)」「Granularity(粒度)」「Cost/Effectiveness(費用対効果)」である。

最後に Execution は最も軽視されがちな項目としてあげている。良いものを
実装していく為にも、それまでの4ステップを言語化し、そこに関与する組
織・人のニーズやリスクシナリオを明確にしておくことを推奨している。

実装する組織

第6章では、それを実践する組織作りとして、採用と育成について述べている。

エンジニアではなく、ビジネスマン向け

通常、人工知能に関する書籍の多くは、本書の定義内の「Brain」「Coding/Construction」が中心の実用書か、事例が中心のビジネス書、または未来の社会予測に関するものが多い中、「データサイエンスをビジネスの世界において実装する」という明確な目的に向け、フレームワークや概念の整理で文系人材にも分かりやすく説明されているところが特徴的だと感じた。

更に、ABCDE フレームワークでも「Brain」や「Coding/Construction」ではなく、最も重要なのは明確な「Aim」を決めること。また、最も時間をかけるのは最適な「Data」を入手し、クリーニングすることである、という点も「実装」を見据える人間に取って、とても有用な話で、自分が実装することをイメージしやすいと感じた。

全体としては、データサイエンスに取り組もうとする人や、データサイエンスを学び始めた人が、将来ある実装に向けて、全体を俯瞰して見れる点において、とても有用な書籍であると思った。

最後に勝手ながら、著者の「加藤エルテスさん」を紹介します。


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