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『メタバース進化論』/バーチャル美少女ねむ 読後感想

 昨日(2023年3月31日)書店で見つけ、表紙買いをした『メタバース進化論―仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「想像」の新世界』を読みました。


 私自身、2017年冬のバーチャルYoutuberブームから今までVtuberの世界を追っている身です。(表紙買いしたのも、ずっと昔にねむさんが「お前は誰だ……」と言っているのをお見かけしたことが記憶にあったからです。)
 しかし、ソーシャルVRをはじめとしたいわゆる「メタバース」の界隈とはどこかで心理的隔絶があるような気がしていました。
 バーチャルなアイドル(偶像)であるVtuberを応援する「見る存在」と、積極的に自らをバーチャルの世界へ持っていこうとする「なる存在」という違いによるものです。私個人としては、いまいち後者には食指が動かず、能動的に情報を入れようともしていませんでした。
 まさに本書に書かれているところの、「メタバース」という概念を「繰り返し消費されるIT業界のバズワード」にすぎないと思っている人間の1人だったと思います。

 しかし、本書を読み、実際にメタバースで生活している人々の実態や、その生活を支える技術。また、メタバースを本当の意味で「もうひとつの現実」とするために何が必要かという考察に触れたことで、今まで自分が持っていた誤解や偏見が解け、メタバースの世界に興味を持つことができました。
 以下では、私が抱いた感想の中でもいくつか特筆したい点について述べたいと思います。

・p82 メタバースの七要件に基づく四大ソーシャルVRの評価
 まず「VRChat」の存在は私の友人にもヘビーユーザーがおり、知っていました。しかし、その他のソーシャルVRは名前も知らないものが多かったです。本書を通して勉強になることばかりでしたが、私の中ではそもそも「VRChat」以外にソーシャルVRが存在するという情報の衝撃が大きかったです。自分のアンテナの低さを恥じます。
 余談ですが「VRChat」は1度だけ自分でもプレイしてみたことがありましたが、没入しきることはできませんでした。今にして思えば、七要件のうちの自己同一性(汎用モデルで入りました)、没入性(VR機器を所持しておらず、デスクトップモードで入りました)が欠けていたこともその原因だったのかと思います。

・p146 メタバースを支える技術、VRMについて
 VRを満喫するうえで必要となるハードウェアについてもうっすらと認識している程度でしたので、その歴史から細かく説明してくれたこともあり、かなり鮮明に理解できました。
 MMDは私も利用したことがあるので、VRMについてのコラムでその話が出てきたときはシナプスが繋がったような感じがしました。たしかに人型3Dモデルの権利という点ではMMDモデルもアバターも近しい/通じるものがあり、盲点でした。

・p171 「美少女は『枯山水』」について
 これに関しては、新たに学んだというよりは、共感できる!と思った点です。というのも、上記の通り、私がバーチャルYoutuberというコンテンツを楽しんでいる立場だからだと思います。
 本来存在しないはずのものをお互いの共通理解のもと成り立たせる技術。お互い「分かったうえで」やっている、良い意味でハイコンテクストな文化。
 今日のVtuber界隈では、キャラ崩壊がもてはやされることの是非や、どこまで「リアル」を出すことを容認するかなど、「存在」についての問題を細かく挙げれば枚挙にいとまがありません。
ですが、根本にある理念は同じだと思いたいです。

・p186 物理女性も加工音声を使っているということ
 物理女性の方も「kawaiiボイス」を出すために加工音声を使っているという調査結果は、ねむさん御自身と同じく、私も驚きました。
 少し話が変わりますが、私は一時期の「バ美肉」という言葉の使われ方に疑問を持ったことがありました。同時期に「バ美肉おじさん」という言葉が並列で流行ったこともあるのでしょうが、「バ美肉」=バーチャルは美少女で中身は男性 とされていたように感じます。
 しかし、「バ美肉」はそもそも「バーチャル美少女受肉」の略語です。よしんば「中の人」が女性であったとて、バーチャルで美少女の姿を受肉していれば、それも「バ美肉」となるのが本当ではないかと感じていました。
 それと同じ考えでいくのであれば、物理女性が「kawaiiボイス」を得るために加工音声を使うこともあるというのは至極当然のことなのだと腑に落ちました。
 「名前」「アバター」「声」というメタバースのアイデンティティについて理解が深まったように思います。


 最後になりますが、本書全体を通して(特に「第6章 経済のコスプレ」で)近い未来メタバースの世界で現実と同じ、あるいは「魔法」がつかえるという点で現実以上の生活を営むために、本気で考えている・行動している人たちがいるということを初めて知りました。
 メタバースの世界で生まれる(必要になる)仕事の存在や、通貨取引についてはいまだ課題は山積みだということ。
 まさに私が本書を読んで体感したような「価値観のアップデート」が社会レベルで必要だということ。
 何も知らない身でしたが、「ホモ・メタバース」の時代が来ることに期待を抱くことができるようになり、本書を読んでよかったと感じます。

 これからのメタバースの進化が、積み上げてきた先人たちに幸福をもたらさんことを願います。

P.S.
 本書を読んでいる最中、休憩にツイッターを眺めていたらこのようなツイートを見かけました。

 こういう手軽なところから新しくVRの世界に興味をもつ人も増えるのかなと思いました。新たな観点を持てるようになったのも本書の影響です。

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