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「アンダー・ザ・メルヘン」20

その33 ジ エンド オブ イノセンス
     BY 中島麻里子

 昨日と今日の一連の出来事は、一言では言えないくらいの凄い経験だった。有り得ない出来事と有り得ない人達の連続だったから。
 もしかしたら自分の方がおかしいのかと思ってしまう事もあった。この世の常識って何なんだろう。こんな話、人にしても信じてもらえないと思う。自分でも、今でも信じられない。母が聞いたらひっくり返るかもしれない。
 全てにおいて常識が通用しない世界。
 子供の頃、家の庭に転がっていた大きな石を持ち上げて裏返した時に、虫が一杯いたのを好奇心満々で見たのを少し思い出した。それを母は汚いから触るなといつも私を叱ったっけ。
母と言えば・・・
 正直、母の思ったとおりだったのかもしれない。知らない方がよかったかも。
多分私は、心のどこかで本当にどうにかなると思っていたんだと思う。見なくてもいい事なんてないと思ってた。ただ気合いひとつ、勇気を出して行ってみればって。
というよりも、見たいものが見れると思ってたのかも。そこだけは見ない振りをしてた気もする。
結果が全て。目の前にあるのは私の馬鹿な姿。いつも心の片隅にいた暗い子。

 兄貴は多分ちゃんと知ってた。私が変なのを。このままじゃ生きていけないのを。それでも生きなきゃいけないのを。いつも言ってた事を考えるとそんな感じだった。でもその頃は私には理解できなかった。変な事を真面目な顔して言うなって。

母さんはこんなになるのが嫌だったんだろうな。だからか。
目を背けたいのも分かる。閉じこもりたいのも。明りがなきゃ、どっちに歩いたらいいかも分からないから。
私はいいんだ。子供でもいいんだ。馬鹿でも。目は開けてないと。痛くても、やっぱり割り切れないよ。
大人になるっていっても大事な物を捨てるなんて、私には出来ない。
・・・悔しい。でも泣いちゃ駄目だ。自分でやった事だから。強くなろう。賢くもなろう。乗り越えよう。
だから受けなくちゃ。受け流せるまで。

その後は・・・。何をしよう。それも考えよう。生きてれば、いい事だってきっとある。   

 


その34 デウス エクス マキナ
       BY トラグス

 最低な映画の終わり方とは何だ。そりゃあ夢オチだ。全ては夢でしたってな。
 まあ、作る方からすると楽な終わり方なんだろう。ある種のデウス・エクス・マキナだ。これで合ってたっけ?意味に関してはうろ覚えだからやめとく。
 今の俺はそんな気分だ。これが全て夢だったら、いや、俺の人生全てが夢ならと、今迄数え切れない程思ってきた。・・・ごめん、本当は七回くらいだ。今回を合わせて。いや、もう少し少ないかも。
 期待した奴には申し訳ないが、全部本当だ。何がって、今までの話が、だ。間違っても俺の夢じゃない。
 俺達の嘘情報を流して7をけしかけたのも、7の死体と一緒にNO・1の形見を表に晒したのもロゴスだった。まあ、もう終わった事だからいいんだけど。
 何か忘れてるような気が・・・。ああ、迫田だ。俺もどうでもいいんだけど。何か生きてるらしい。贅肉のおかげなのかな。でも血が一杯出て痩せてたら笑うな。
 ああでもNO・1の形見は惜しかったな。・・・いや惜しくないか。貰う訳にはいかないからなあ。意外と安物っぽくてびっくりしたけど。

 それよりも、今俺が何をしているかというと、何と、電車の中だ。それが一体どうしたって?いや、俺にとっては凄い事だ。電車は電車でも、会社帰りのやつだ。
 それはつまり・・・
 そう、俺は表に帰って来た。俺は今、ある仕事をしている。具体的な事は言えないが、今迄の自分の人生を考えると、口にしただけで笑ってしまいそうになる位のかわいらしいヤワな仕事だ。
 事実、俺は初出勤の日、笑いが止まらなかった。
 同僚には「何笑ってんの」と聞かれたんだけど、こういう顔だからと言っておいた。

 部屋に帰って来ると、俺はいつもテレビをつける。以前はあまり見なかったんだが、表に馴染み始めた証拠だろうか。テレビが面白くてしょうがない。面白い奴が多く出てくる。まあ、当り前か。
 驚いた事に、最近は何故かあいつが出てくる。中島麻里子が。
 俺はあの時、ああ、あの廃倉庫での一件ね、その場からずらかったが、あいつらは事件に巻き込まれたという事で取材を受けていた。まあ、裏の事は何一つ言わなかったみたいだが。
 その時のコメントが面白くてテレビ(勿論下世話ないつもの報道バラエティー)に出るようになったらしい。世も末だな。
 そういやこの前こいつ、「私は文化人だ」なんて言ってしょうもない言い合いをしていた。こいつ文化の意味知ってるのかな。
 でも正直、表に帰って来れたのはこいつのお陰だ。あの時、あいつに救われなかったら・・・。いやあんまり変わってないのかな。
 というか俺、助けてもらったのかな。ほとんど強制送還みたいな気がしないでもないが・・・。

 しかしこいつの姿は何度見ても見慣れないな。テレビで見ても遠近感が狂いそうだ。カルチャーセンターで絵習うところから始めようかな。
 というかこれ、人形劇?
あの、嘘ついたら鼻が伸びるやつ。ピノ何とかだ。ああ、確かピノッキオだったな。小っちゃいツってつけるんだっけ。違ったかな。
 あ、今こいつ鼻伸びなかった?


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