見出し画像

「アンダー・ザ・メルヘン」7

その12 エア・ロゴス限定品
      BY ロゴス

かつて、世界を股にかけた大物詐欺師は言った。
「結局はいい人の空気を出せるかどうかさ。」

 人を表すものの一つとして、特に社会を生きる現代人にとって、非常に重要な役割を果たすもの。
 それが空気だ。
 この、人の放つ空気というものに左右される人も多いのではないだろうか。
 表の人は空気を大切にする。空気を読まない人という存在を表の人は特に嫌う。

 表では、いや裏でも言える事だが、この人間社会において、人の本当の人間性はあまり重視されていない事が多い。
 人というものが、いかに表面的なものしか見ていないかという事だ。その視線の及ぶ範囲はまさにそこに漂う空気のみ。

 僕は今、人を相手にする仕事をしている。しかも、表の人を相手に。
 空気の重要性を今更ながらに思い知らされる日々を送っている。でも実にやりがいのある仕事だと思う。
 今までの僕は決して間違ってはいなかった。その確信が持てたから。さらにここで学んだ事によって僕はさらに自信がついた。

 人は自分の本当の姿を知らない事が多い。世の中の下劣に見える人たちは大抵そういう傾向が見える。所謂客観性というものだ。
しかし、それはよく考えると何かが違うような気がする。正しく言い表そうとすると無垢という言葉が浮かぶ。しかも、というよりもまたここでも、その事に誰も気付いていない。
 表と関わるようになってから意外な事実を知るようになった。それは、表には無垢な人が多いという事。

 無垢。つまり何も刻まれてないという事。これは時代によるものなんだろうか。社会がどんどん変わっていっているという事も聞く。
僕にとっては、文字どおりただの人ごとに過ぎないが。しかしよくこれで表が成り立っているものだとも思う。子供が会社をやっているように見える場合もある。

表ではルール、年齢、常識、これらのものをあらゆることに物差しとしてあてているように思われる。今いくつだから・・・、これはこうしなければならないから・・・。
 客観性のなさ。無垢。意味のないルール。表は今形骸化しつつあるのかもしれない。いつか全てが壊れる恐れすらあると感じる。
「でも結局は何とかなる。」皆そう思っている。そう思う前から全てを忘れていく。
そういう表特有の空気に長時間当たっているせいだろうか。あまり意味もない事だが、最近よく考える事がある。

僕が裏へ帰って来てから何年経っただろうか。僕は今いくつだったか。18を過ぎたくらいまではよく覚えているんだが。
それでも自分の中をよく探っているうちに、所々の記憶がない事に気付く。おかしな事にそれは突然なくなっているようだ。

これら全てが分かったところで、あまり僕の人生には意味のある事ではないと思う。
しかし自分のルーツを知りたい。そして自分が何者であるのか。
自分の人生が、心が不確かな人がそう思うのは普通の事なんじゃないだろうか。

同年代らしい人達を見ては、自分と比べた時期もあった。
何故僕は、と。
 でもそれは当然だった。何故というと、彼らは見るからに僕とは違う、見ていて何の根拠もなく安心できる空気を身にまとった人達だから。
 でもその辺に関しては、自分の中でもう折り合いはついている。
それに・・・、今はそんな事とは比べ物にならないくらいに楽しい事がある。つまり、生きている実感を感じる。
僕は生き甲斐を見つけたから。
今は出来るだけこの空気を楽しもうと思っている。この経験がいつか役に立つ日が来るだろうから。

 


 その13 異邦人達の街
       BY ミスターヤマダ

 最近特に理想と現実という事を考える。この世、特に話が仕事となれば、何事も競争だ。綺麗事なんか言ってられない。結果がすべて。
 テレビなんかそれがもっと露骨に表れる。表向きは呆れるくらいに綺麗事やってるのに裏じゃあもう視聴率視聴率って。元々の理念がどうだろうとスポンサーと合わなきゃそんなの関係なしだし。だから俺に対してやってる事もそういった意味なんだろう。
つまりは感情的に好きか嫌いか。それだけで世の中が動くと思ってるんだから呆れるね。
 意味が分からない。ただの形式主義。裏でどんなに悪い事やってても表向きのイメージが良ければ何でも認めるっていうのはどうなんだろう。
 人の事つかまえて卑しいだの金の亡者だの。よくあんなに人の生き方をとやかく偉そうに言えるよな。ただの苛めじゃないか。何だったら自分の人生見てみろって。
それに、自分の所に入ってくるお金の出所を細部に渡って調べてみるといい。そんな事言えなくなるから。
 大体が、卑しいって。俺、そんなに卑しいのかな。
人であれば誰だってお金が好き。
 でもそれって、大っぴらには言っちゃいけない事になっているらしい。何故だろう。誰の中にも、そこにも、あそこにも、どこにでもある。それどころかそれが露骨に見える事もある。見えないとでも思っているんだろうか。
人は変わる。人生観が変わったのはむしろ俺の方だった。その人の目の前に金を積んだ瞬間。
傍から見ているとまるで麻薬中毒者みたいだった。瞳孔の開き方がよく似ていた。

 教育が問題だとかってしたり顔で言ってる人いるけど、生徒を見殺しにする教育制度なんだよな。何故だか知らないけど、日本人って教育って言う言葉が出ると急に性善説になるんだから変だ。
それに俺は日本で入るのが一番難しい大学出てるのに。そうなるとあそこの大学は地に落ちたとか何とか。何でも言えばいいと思って。だって物知り以上の事教わってないし。つまりはここでも形式主義。
 教育って言うんなら、ルールを守るっていう事を徹底した方がいいんじゃないのか。だってあいつらの暗に言ってる事っっていったらもう呆れるから。
「金はもらう。でも君達、会社の周りには来ないでくれ。」
 この人達違うって言っても顔にそう書いてあるし。もう本当やめてくれないかな。だってあからさまに嫌な顔するんだよな。
こっちの方が問題なんじゃないのか。で、メディアに見られてると分かると途端に被害者面。また形式主義。
この手の人に限って、おこぼれ貰おうとして甘えてくるんだよな。

要は、表向きの顔と裏の顔じゃないかな。
こっちに金がない時は話も聞かなかったくせに、金を積まれた時のあの変わり様はないよな。
何だかんだしつこい位に理由はつけてるけど、ただの嫉妬だろ。まあそれが表向きだとすると、裏側にあるのはひとつだけ。
 つまり、日本の社会にあるのは人の思いでも、夢でも、まして正義でもない。ただ綺麗事で覆ってある都合があるだけ。これがトドメの形式主義。
そんな世の中面白くもなんともないよ。官僚がこの国を支配しているのがよく分かる。国が壊れていくだけだろうね。

俺は変わらない。昔からも、これからも。そこに意地がある訳じゃない。あくまでも普通に。分かるだろうか。俺は、俺こそがまともな人間だ。


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?