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「アンダー・ザ・メルヘン」19

その31 バック トゥ ザ プロローグ
       BY トラグス

「麻里子、君の兄は最後に言ったんだ。家族に会いたい、と。」
 こいつ、完全にイカレちゃってるな。というかあのブタの言った事は本当か?こいつがサラエル?
 少し整理してみよう。つまりだ、あのおとぎ話は本当。こいつはNO・1の息子。
 いや今はどうだっていいんじゃないのかな。考えようって思ったけど、こういう事じゃないような気がする。今それを整理してどうするんだ。でも俺、意外と冷静だな。
 さてと、どう逃げるか。迷ってる暇なんかないな。それに・・・、助かるには・・・。
 というより、優先順位だな、まずは。共倒れだけはまっぴらだからな。それに一人の方がやりやすいし。
というより今走馬灯からの突込みがあったぞ。いつ死んでもいいんじゃないのかって。
・・でもこういうの違わないかあ?これじゃないじゃん。死に様選べねえんだよってか?ちょっとは良いだろうよ。
人生でちょっとすかしたくなる時ってあるじゃん。
 ・・・まあ、もういいか。人生いい事なかったし。おとぎ話の登場人物にも会えたし。この経験はでかいな。いやマジで。

あ、ちょ、おい。
「動くな。」
 俺の銃を。おぉう。馬鹿かこいつ。危ねえ。奴と目が合っちゃったな。お前が動くな。怖いもの知らずなんてちっとも羨ましくないぞ。ていうかお前、殺すんじゃないのかよ。動くなって何だよ。
「おい、銃返せよ。」
「迫田さん、ちょっと、迫田さん。大丈夫ですか?」
 ああ、最悪の登場だ。遅れてくるのが格好いいとでも思ってんのかな。昨日は何の映画だったんだ?
 銃声と共にうめき声だ。あの感じだと・・・、まだ大丈夫だな。痛いだろうけど。
 改めて・・・、さっさと言っちまおう。・・・というかさっさと行ってくれた方がいいな。多分その方が楽になれる。
「おい、いいか?あの警官の所まで一気に走れ。いいな。一瞬の迷いが命取りになるぞ。」
 こいつ、目がいっちゃってねえか。大丈夫か?まあ、仇がいるからなあ。
「分かった。」
 お?
「おう。振り向くなよ。今のあいつに立ち向かっても勝ち目なんかないからな。」
「あんたはどうなのよ。」
「俺の事は考えるな。いいな。真っ直ぐ走れよ。」
「あんたまさか死ぬ気?」
「俺は美女の為にしか命はかけない事にしてるんだよ。」
 痛え。腕を掴むな。
「私は必ず帰って来る。それで・・・、いいか、死ぬなよ。」
「知るかよ。んな事考えてる暇ないぞ。」
「あんた、表の素晴らしさ知らないでしょ。一度くらい見てみたら?」
 こいつ、マジで言ってんのか。
「いいか。いくぞ。せえの、ほら、行け。」
 俺はロゴスに向けて銃を撃った。
 ・・・まさかな。よけやがった。でも女は逃げた。
 ああ、俺は死ぬ時はナタリー・ポートマンみたいな女を守って死ぬ事に決めてたんだけどな。まさかあれだとは。
 しかしこいつ、一瞬で俺の背後にきた。馬鹿でかくてゆらゆらしていた殺気が焦点を定めたように俺に向けられた気がした。
「ねえ、この世で本当にすごい人というのはどんな人だと思う?強い人、頭のいい人。違う。目的地へ辿り着く人だ。」
知らねえよ、そんなのは。
「君だけ気が違う。」
 匂いの事か?
「嗅ぎ取れるのか。」
 ご名答。
「君は危険だ。でもいい。7を殺しても味気なかったんだ。」
 やっぱりか。嘘だって言ってくれ。
「楽しかっただろ?昨日と今日は。」
 何がですか?
「君ならもっと楽しませてくれる。」
 俺はゆっくりと振り返った。でも奴は何か驚いた顔をした。
「君のその顔は何だ。」
 お前もかよ。
「気に入らないな。怖くないのか。」
「知らねえよ。ただ何か今のあんたは少し怖いけど。」
「怖い物ならほかにもあるだろ。何故今の仕事をしてる?本能が目覚めるのが怖いのか。越えてみろ。一気に景色が変わる。更に殺し甲斐も出てくる。」
 こいつは本当に面倒くさい。
「撃てよ。俺はあんたとは違う。俺は化け物じゃない。そんなものの言い成りにはならない。」
「何だと?」
 奴の顔色が変わった。
「鏡見てみろよ。あんた、頭から角生えてるよ。」
 奴はムカついて、俺を見下して、悔しがって、悲しそうで、そして引き金を引いた。

 


その32 ラストマンスタンディング
      BY トラグス
 
 俺に向かって銃が放たれた。放たれたでいいのかな。まあいいや。弾が真っ直ぐ俺に向かって飛んで来る。スローモーションだ。
 ああ、前にこんな映画観たなあ。え?ああ、いや違う。本家のやつじゃない。パクリのやつだ。そう、映画ファンなら誰もが軽蔑する、いわゆるクソ映画だ。そういうの、一度や二度は観た事あるだろ?
 でも、俺にはこっちの方が合っている気がする。何故って、色んな意味で駄目人間の俺に似ているからなのかもしれない。

 ああ、終わったな。いい事なかったな。
 あれ?この顔。あの時と同じだ。パンパンの顔が俺に向かって走って来た。
 ちょっと待て。こいつ手に銃を持ってやがる。ん?ああ、それ警官用か。それは迫田のやつか、いや・・・、あいつのか、ええと、・・・誰だっけ?まあ、誰でもいいや。そんな事よりも・・・。
 え?こっちに向けて構えてないか?
 狙ってんのはどっちだ。俺か?ロゴスか?聞くまでもないよな。そうだろ?なあ。・・・じゃあ何で俺を見てるんだこいつ。
 おい、ちょっと待てって。
 撃っちゃったよ。

 更に遅くなった。
 音が消えた。
あいつ本当に俺を助けに来たのかな。
そんな時間はない。勿論分かる。いやだって、目の前に弾があるからね。
 それでも、最も重要な問題を考えてみる事にしよう。

 俺は本当に帰りたいのか。大丈夫か?
「しょうがないじゃないか」
って言うんだよな。ああ、皆が言うからそう思ってただけで。本当はどうしたかったんだろう。走るの好きじゃないんだよな。だって止まると死ぬんだぞ。いや俺が勝手にそう思ってるだけなのかな。
あ、ヤバい戻りだした。え、おい、もうちょっと考えさせてくれないかな。

 俺もしかしたら死にたかったのかな。
 いいのかな。おい大丈夫か?日蔭者がいきなり前向きになって日の光浴びると目が潰れるらしいけど。
 死ぬ前に一回位頑張ってみるのもいいかもな。それで命が燃え尽きたりして・・・。だったら笑うな。
 「次」か。もしかしたら来生の事なのかな。今のうちにお祈りしとこうかな。
本当参るよな。俺ってこういう切羽詰まったら意外と無茶するんだよな。どうも困るね。
ああでもその前に、何よりもとにかく、理屈よりも目の前のものをどうにかして切り抜けないと。
 そうとなりゃあ、勝負だ。

 目を開けろ。
他も全部開けろ。見ろ。奴を。銃弾を。こんな馬鹿の思い通りになんかさせるな。うさぎは強いんだぞこの野郎。後ろ足で蹴ってやる。出っ歯で噛みつけ。
 奴の頭の中が俺の中に入って来る。

 意識の相互作用って知ってるか。
深いコミュニケーションをとっていると、相手の思考が流れ込んでくる事がある。
 殺し合いこそ、最も濃密なコミュニケーションなんだろうな。

 お前も色々あったんだろ?だからお前に言ってやる。
 うるせえ馬鹿野郎。俺には関係ねえ。俺に鼻くそつけてくんじゃねえ。
 あ、ヤバい。何か気持ち良くなってきた。危ねえな。手綱は放すな。絶対だぞ。変な気起こすなよ。放したらアウトだぞ。
 いいぞ、切れるな、切れるな。
後はもう四の五の考えるな。

気づいたらロゴスの死体があった。俺の両手には銃が。そうか、中島が助けてくれたんだな。
まさか帰って来るとは思わなかった。

離れた所で見てた奴がいれば聞いてみたいな。どうなったのか。多分早すぎてよく分からなかったっていうのがオチなんだろうけど。俺の頭には全部がゴッチャになっててよく分からない。こういうの、タイムラグって言うんだっけ?
取り敢えず俺の脳みその80パーセントに聞いてくれ。見たもの全てが一緒に見えてるのかも。そんなの全部一度に話せないだろ?
それはそうと中島は?あ、いた。・・・こいつ寝てんのか?
それよりも何で泣いてるんだろう。それ涙か?よだれが伝ったのか?
・・・こういう時って、そっとしておいた方がいいのかな。まあどっちにしろ、少しくらい放っておいても死にはしないだろ。
というよりも、こいつ、自分が俺の元に戻ってきたからって、どうにか出来るって思ったんだろうか。まあ、結果論だろうけど。

しかし何よりも、こいつよくこんな所で寝れるな。頭の中何があるんだろう。これ確かデジャブだけどいいか。多分何にもないだろうな。例えて言えば出来立てのババロアみたいな感じかな。ふるっふるのやつ。
あ、あの警官は?

見に行くと止血してあって大丈夫だった。
ああそうか。あいつ探偵だったな。その辺も都合よく出来たのかな。
それにしても、こいつの名前、何だったっけ。・・・まあいいや。
・・・何か、さっきから変じゃないか?何だ、あれ?


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