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「アンダー・ザ・メルヘン」21
閑話 インター・ブレイン・パーティー
BY トラグス
どこにでも行ける。そんなことを恥ずかしげもなく言う奴がいるけど、世の中の事を少しばかりでもかじった奴なら分かるはずだ。実際にはどこにも行けない。そんなもんだ。距離で誤魔化されても駄目だ。俺が言っているのはそんな意味じゃない。
だから誤解されちゃあ困るが俺たちがいる場所は異次元の世界じゃない。でもそこはこの世の不思議ってやつでね。
触れそうで触れないんだよな。意味が分かるんならお前はもうマトモじゃない。
そう、まさにこれは世界の話だ。「こっち」と「あっち」ってさ。それには恐らくは、人間の精神が関わってきてると思われる。本当の未解決事件なんてのもその辺にあるもんだ。あ、ほら、今通り過ぎた奴って具合に。
馬鹿な事をって思ってもそうなんだからこの世ってやつは始末が悪い。細いけど通じてるからな。でもその時は決して手繰り寄せちゃあ駄目だ。
そう、そんな時は走る事だ。
何かを追いかけて走っていて、急に自分がどこにいるか分からなくなる時ってないか?
走るんだ。ただひたすらに。
いつもそうだ。でも時々何故走っているのかも分からなくなる。息が切れて、足が燃えるように熱くなって、それでも意味も分からず走り続けてる。傍から見たら俺って馬鹿に見えるのかな。まあある意味、いやかなりの意味で馬鹿なのは間違いないんだろうが。
だって自分の前にそんな奴がいたら思わず言っちゃうよな。「疲れませんか?」いやこれは違うな。「あらお久しぶり。これからどちらへ?」もういいや。
そんな毎日だ。寄る辺のない、どこへも行けない。
あの日、っていうか昨日、いやあの瞬間、俺は確かに何かを感じたんだ。あの女の走る姿に。それであの顔と体に遠近感が狂いそうになったんだが、実を言うともうひとつあった。奴のその先に、まあ俺に向かって走ってきた訳だから語弊はあるんだが、何かが見えたんだ。
何だって、思わず走ってしまう何かとしか言えない。
おっと、そろそろお時間だ。じゃあな、さようなら。
その35 エピローグ
BY トラグス
ああ、最後にもう一つ。俺が表に帰って来た決定的な理由。
匂いが消えた。
何も感じなくなった。そんな状態では俺は裏では生きられない。
言いたくはないが、最後にして、最大の不覚がある。本当にこれで何度目だ。
俺は中島を信用した。あの場面、帰って来ると思ってしまった。匂いが消えた理由は恐らくそれだろう。
俺は手を伸ばした。自分の意志で。ビックリした。そんなに恥じゃないのも。
人を信用出来ないと色んな所が敏感になる。俺はガキの頃からそうだったんだろう。それが急に中島を信用してしまって俺の嗅覚はびっくりしたのかもしれない。
そりゃないぜ、お前さんって。ごめんなあ。そりゃあ、さぞかし驚いた事だろう。
前に表の情報網の話をしたけど、そこは何によって成り立っているかというと、いわゆる信頼関係だ。裏にはないから鼻を常に利かしてなくちゃいけない。
そんなこんなで、もしかしたらこれは一時的な事かも。いつかひょっこり顔を出すかもしれない。しばらく~なんつってよ。まあ、でもそうなったらそうなったでまた何か考えよう。
そんなに重要な事を簡単に、しかもついでに言った事を詫びる。
表で暮らす内に、そんな常識もついてしまったようだ。これはいい傾向なのかな。まあいいか。
せっかく表にいるんだからと思って、俺は色んな所に色んな意味で色んなやり方で踏み込んでみた。
「本音こそが人間。役割を演じるなんてただの操り人形だ。」
俺はずっとそう思っていた。
本音と建前、どっちを取るかでそいつの価値は決まる。建前を取るのは弱い奴、と。
俺は知らなかった。本音と建前。というよりも個人と社会だ。ただ消化する事なんだな。まあ美味くはないけど。所謂葛藤ってやつだな。
その訳の分からない感じを見なきゃいけないんだな。やっぱり面倒くさいな。
でも間違いなく俺が感じてきた違和感はそれだった。
「俺は何でも出来る。」
もうほとんどないんだけど、時々これがまだ浮かぶ。それに関しても何となくだけど分かる気がする。「やっちゃいけない。」それを理解するのもまた人間なのかな。
んん、意外と面白い。もう少し踏み込んでみるかな。さらに社会というものが見えてくるかもしれない。
その先には・・・。
普通の人生が待っているという安心感と、何故か少しの寂しさもある。環境が変わる時の戸惑いみたいなもんかな。
そうか俺、新入社員だったもんな。
ああ、生きてみよう。・・・何か今、変な曲かかってたら嫌だな。まあいいや。
この際だ。引退って事にしようじゃないか。もう体力が。技術が。みたいな。泣きますよ。「次」ってこれだったのか。・・にしては普通過ぎないか?
最後の跳躍だ。
何故こんな簡単に表に帰って来れたのか。そう思う人もいるかもしれない。
俺は裏の奴らに全てを話した。ありのままを。ますます思うだろう。どうやって帰ってこれたのか。
答えは簡単だ。俺の話が全て本当だったからだ。そう考えると、俺は実に真面目な裏の住人だったって訳だ。まさに名は体を表すだ。
「へえ、本当に表の住人になっちまったんだな。」
・・・・
俺が振り返ると18がいた。
つい今しがたはああ言ったが、やっぱりという気持ちもあった。あっさり俺を表に帰したからだ。
もうこれで終わり・・・
「誤解しなくてもいい。別に殺りに来た訳じゃねえから。」
え?そうなの?
「今の、いい顔だ。」
何だこいつ。もう帰れよ。
「本当に表の住人になったのか、確かめに来ただけだから。じゃあ。」
そう言うと奴は帰って行った。
というか・・・、君、それ、土足なんですけど・・・。
ああ、全部夢ならいいんだけどなあ。明日何時起きだっけ?起きれるかなあ。
あ、そうだ。俺、マラソンやろうかな。
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