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『公園』

 気がつくと公園にいた。
 腕を組んでいるこの老人はそういうわけで立ち去った。老人の座っていた場所にちょうど疲れていたので座りたくなり、片足を引きずりながら、また、あたりを注意深く観察しながら、腰掛けようとすると、黒く塗られたベンチの下からかじられたリンゴが転がってきて履いてきた靴に当たった。リンゴはどろどろと溶け始め、靴を汚した。この様子をじっと見ているさっきの老人、見覚えがある。老人はこちらを見て何かを言いながらまた座り込む。私は腹が立ち、履いていた靴を老人に投げつけると、老人は黙って頷く。立ち去った理由を尋ねると、老人は羽を広げて羽ばたいていった。一枚の羽は、ひらり、ひらり、ひらり、ひらり、ひらりひらりと濡れた地面へとゆっくり落ちる。もう一枚の羽は扇子へと変身し、私に話しかけてくる。
 「あの老人がなぜあなたの前からいなくなったのか知りたい?」
何度も何度も訪ねる扇子に嫌気がさし、ずっと気になっていたことでもあったから、なぜだと聞いてみた。すると扇子はみるみるうちに姿を変え、太陽になり、私をどろどろと溶かしてしまったのだ。
 気がつくと公園にいる。
 腕を組んでいるこの老人はそういうわけで立ち去った。老人の座っていた場所に座りたくなり、片足を引きずりながら、また、あたりを注意深く観察しながら、腰掛けようとすると、黒く塗られたベンチの下から真っ赤に熟したリンゴが転がってきて履いてきた靴に当たる。リンゴの表面はピカピカに光っている。美味しそうだったので一口かじるとリンゴはどろどろに溶け始め、腐ってしまった。この様子をじっと見ているこの老人、見覚えがある。老人はこちらを見て何かを言いながらまた座り込む。腹が立った私が腐ったリンゴを老人に投げつけると、老人は黙って頷く。立ち去った理由を尋ねると老人は羽を広げて羽ばたいていった。一枚の羽は、ひらり、ひらり、ひらりひらり、ひらり、ひらりひらりひらり、ひらり、ひらり、ひらりと濡れた地面へとゆっくり落ちる。もう一枚の羽は貝殻へと変身し、私に話しかけてくる。
 「あの老人がなぜあなたの前からいなくなったのか知りたい?」
またか、と嫌気がさしつつも、どうしても答えが気になっていたから、なぜだと聞いてみた。すると菊はみるみるうちに姿を変え、パトカーになってサイレンを響かせながら私を轢き殺してしまったのだ。
 気がつくと公園にいる。
 腕を組んでいるこの老人がそういうわけで立ち去った。老人が座っていた場所に座りたくなり、片足を引きずりながら、また、あたりを注意深く観察しながら、腰掛けようとすると、黒く塗られたプラスチックのベンチの下から真っ赤に熟したリンゴが転がってきて履いてきた靴に当たる。リンゴの表面はピカピカに光っている。リンゴを踏み潰し、踏み潰したリンゴと、道連れバッタとがでこぼことした靴の裏で所狭しと場所を取り合っている。それに気分が悪くなり、ビニール袋に吐いた。この様子をじっと見ているこの老人、見覚えがある。老人が「ごかいだよ」と言いながらまた座り込む。私が意味を訪ねても黙ったままでいることに怒りを感じ、袋の中身を浴びせる。老人がこちらをじっと見ている。立ち去った理由を尋ねると、羽を広げて羽ばたいていった。一枚の羽は、ひらり、ひらり、ひらり、ひらり、ひらり、ひらり、と濡れた地面へとゆっくり落ちる。もう一枚の羽は灰皿へと変身し、私に話しかけてくる。
「あの老人がなぜあなたの前からいなくなったのか知りたい?」
嫌気がさし、なぜだと聞いてみた。すると灰皿はみるみるうちに姿を変え、日本国旗になり、私の上半身を食べてしまったのだ。
 公園にいる。
 腕を組んでいる老人が立ち去った。座っていた場所に、片足を引きずりながら、また、あたりを注意深く観察しながら、腰掛けようとすると、黒く塗られたプラスチックのベンチの下から真っ赤に熟したリンゴが転がってきて履いてきた靴に当たる。リンゴの表面はピカピカに光っている。リンゴを踏み潰し、踏み潰したリンゴと、道連れバッタとがでこぼことした靴の裏で所狭しと場所を取り合う。二つは混ざり合い、異臭を放つ。ハエがたかるが、たかったハエを全部食べてやった。お腹がいっぱいになったので、ピザを注文した。やがて
五十年が過ぎ、ピザがまだ届かないことに怒り狂って叫んだ。老人が「ごかいだよ」と言いながらまた座り込む。私が意味を訪ねても黙ったままでいることに怒りを感じ、今頃になって届いたピザに醤油をかけた。老人がこちらを見ながら微笑んでいる。つい満足してしまった。羽を広げて羽ばたいていく。一枚の羽は、ひらりひらり、ひらり、ひらりひらり、ひらりひらり、と濡れた地面へとゆっくり落ちる。もう一枚の羽は未確認飛行物体へと変身し、私に話しかけてくる。
「あの老人がなぜあなたの前からいなくなったのか知りたい?」
嫌気がさし、なぜだと聞いてみた。するとみるみるうちに姿を変え、肉になり、口の中に入り込んできて、爆発して死んでしまった。
 公園にいる。
 腕を組んでいる老人が立ち去った。座っていた場所に、片足を引きずりながら、また、あたりを注意深く観察しながら、腰掛けようとすると、黒く塗られたプラスチックのベンチの下から真っ赤に熟したリンゴが転がってきて履いてきた靴に当たる。リンゴの表面はピカピカに光っている。リンゴを踏み潰し、踏み潰したリンゴと、道連れバッタとがでこぼことした靴の裏で所狭しと場所を取り合う。二つは混ざり合い、異臭を放つ。ハエがたかるが、たかったハエを全部食べてやった。お腹がいっぱいになったので、ピザを注文する。やがて
五十年が過ぎ、やっと届いたピザに死んだ父の面影を感じる。老人が消えた。大体のことはもうわかっている。油断してはならない。「五回だよ。最後だよ。」と何度も繰り返す。ジャンプしながら繰り返す。かすかに道路標識が見えるが、青と白しか見えない。文字が見えない。だから、爪を剥がしてみる。すると鮮明に見えるようになった。鮮明に見えたのをいいことに、海で泳いだ。海の生のいろんな帽子たちが、
「あの老人がなぜあなたの前からいなくなったのか知りたい?」
と誘う。誘惑に負けじと、背泳ぎを始める。しまったと感じる間もなく、私は溺れた。

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