見出し画像

LoL愛を、すべての人へ アニメ『Arcane』 制作者が語る「ゲームを知らずとも浸れる」ファンタジー

「原作への愛がないと、『映像化』を成功させることは難しいと思います」

Netflixオリジナルアニメシリーズ『Arcane(アーケイン)』の制作総責任者を務めるクリスチャン・リンク(写真・左)は、苦笑いしながらそう語る。原作の熱烈なファンを軸に映画化され、成功を収めたシリーズの例として、彼は『ロード・オブ・ザ・リング』やマーベルの作品群(『アベンジャーズ』他)などを挙げた。

もう1人の制作総責任者であるアレックス・イー(右)は「Arcaneを形にできたのは、Netflixが私たちの直感を信じてくれたおかげ」と言う。

画像4

リンクとイーはArcaneの原作となったゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』を愛してこそいるが、アニメシリーズ制作の経験は全くなかった。そもそも、2人は映像スタジオの人間ではない。Arcaneのメインキャラクターであるヴァイとジンクスの誕生にも関わった、LoLの開発元「ライアットゲームズ」の古参スタッフなのだ。

キャラ同士が会話するまでに積み上げた13年

LoLの映像化の企画が動き始めたのは6年ほど前だ。

普段、プレイヤーたちが目にするのは、ゲーム内に映し出されるチャンピオン(キャラクター)たちの姿だけ。コミックやテキストなどを通してチャンピオンの背景を描いてはいるものの、2人は「より深く彼らの物語を紡ぎたい」という願望を常々抱いていた。

もし映像化できるなら、チャンピオンたちがどのような場所に住み、どう生活しているのかも伝えられる。今までのミュージックビデオやシネマティックトレーラーでは実現しなかった、チャンピオン同士の「会話」も実現できる。

ただ、「ゲームの世界が持つポテンシャルに対して疑問を抱く人が多かったですね」とイー。リンクは「ゲームに対する情熱を共有できていないと、ビジョンを伝えられない。そういう経験を多く重ねてきました」と振り返る。

画像1

2人はこの企画を世に出す最高のタイミングを模索し続ける。

その間、映像業界にも変化が訪れた。ゲームと共に育った世代が徐々に映像業界に流れ込むようになった。LoLは今年で13周年を迎えたゲームだ。言わずもがな、ゲーム業界自体の歴史はさらに長い。ゲーム業界の成熟と共に、他業界にも「情熱を共有できる人」が増えてきたのだ。

そして2人はようやく、Netflixという心強いパートナーを得ることになる。

信頼できるスタジオと「ゼロ」から制作

Arcaneのアニメーション制作を担当したのは、パリに拠点を置くスタジオ「Fortiche」だ。ミュージックビデオのような短いアニメーションを得意とし、ライアットゲームズとも付き合いが長い。直近ではK/DA(LoLの世界を基にした仮想のアイドルグループ)の「POP/STARS」、古くはジンクスがフィーチャーされた「Get Jinxed」を手掛けている。

アニメーション制作を始めた当時は10人ほどだったForticheのチーム。だが40分のエピソードを9本分制作するとなると到底手が足りない。「アニメーションを作りながら、同時にチームも作っていく感覚でした」とリンク。人員増強を続け、ピーク時には約300人規模の大所帯となった。

人手を増やしたことでネックとなったのは、アニメーション制作時に使用していたソフトウェアだ。これまでの制作に使っていたソフトウェアは大人数のコラボレーションには向かず、ソフトウェアを変更する必要があった。目指すべきゴールは分かっているのに、今まで積み上げたアセットは生かせず「ゼロ」からの制作を余儀なくされたという。

「それでも、Forticheが作るアニメーションを映画やアニメシリーズとして形にしたかったんです」(リンク)

チームの増員。ソフトウェアの変更。リスクは伴うが、絵画の世界の中でカメラを回しているようなFortiche独特のビジュアルが、ライアットゲームズの2人をArcane制作に駆り立てた。

画像2

ゲームを知らなくても、愛を感じられる作品に

ファンタジー調でありながら、格差社会や発達した科学が直面する問題など、現代にも通ずる普遍的な課題も抱えるLoLの世界。

いくつもの物語が交差する世界だが、「ルーンテラ(LoLが舞台となる世界)を知らなくても楽しめるようにする」と2人は決めていた。それでいてリンクは「ずっとアクションシーンが続くような作品にはしたくありませんでした」と語る。

ヴァイやジンクスたちの物語が進む上でシリアスな展開も訪れるが、イーは「アニメ、ドラマ、映画などを好きな人たちなら、気に入ってくれるはずです」と言う。イー自身も、少し暗く、それでいて奥行きのある作品に影響を受けた身だ。彼は子どもの頃に見た『AKIRA』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のような日本アニメ映画の衝撃を忘れられないという。

「アメリカのカートゥーンは子ども向けの作品が多く、ハマっても年を重ねるにつれて卒業してしまいがちです。Arcaneはいつまでも楽しめるよう、子どもでも大人でも楽しめる作品を目指しました」

また、ゲームの知識も年齢も関係なしに楽しめる作品を世に出すのは、プレイヤ-たちの「誇り」のためでもあるという。Arcaneを成功させれば、「LoLプレイヤーたちは、こんな素敵な世界にハマっていたんだ」とより多くの人に理解してもらえる。LoLに対する愛を、共有できるようになるのだ。

「だからこそ、キャラの軸となるもの、心に秘めているものはゲームと同じになるよう、細心の注意を払いました」(イー)

制作者たちがLoL愛を込めたArcane。クライマックスとなる第3幕(7~9話)が、Netflixにて公開されている。

(文 佐島蒼太)


この記事が参加している募集