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毎年「今年が最後」の覚悟を重ねてきたSteal いちファンボーイが歴史に名を刻むプレイヤーに

「プロはすぐに辞めてしまう選手も多いですし、僕もそうかもしれないと思っていました」

韓国から来日して5年間。安定したパフォーマンスと抜群の勝負強さを持つStealは、昨年末日本チーム史上初となる世界大会ベスト16進出の偉業にも大きく貢献した。だが、本人の自己評価は至って謙虚だ。

「5年も日本でプレイするどころか、まず5年もプロでいられるとは思ってもみなかったですね」

落ち着き払って日本語でそう語る青年は、自分を特別な存在だとは思ってはいない。世界大会「The 2022 Mid-Season Invitational (MSI 2022)」に出場する日本代表チームDetonatioN FocusMe(以下、DFM)の大黒柱として活躍する選手であるにも関わらず、だ。

普通のファンボーイが、歴史に名を刻む選手に

「記憶は曖昧ですけど、5歳くらいから家にあったゲーム機でマリオとかやっていたかな」

ゲームに初めて触れた年齢は少し早い方かもしれないが、ゲームに親しむ環境は韓国ではごく一般的なものだった。小学生の頃から放課後はPCバン(韓国のインターネットカフェのような店舗)に通い、友人と対戦ゲームに興じた。Stealの関心が国内で圧倒的な人気を誇る『LoL』に向けられるのも、自然な流れだった。

「韓国はテレビで『LoL』の大会を見てプレイを始める人が多くて、僕みたいな人は結構いると思います。この辺は文化の違いかな。(韓国の有名選手である)Fakerに憧れる、普通のファンボーイでした」

韓国では「よくいる」Fakerファンボーイは、10代後半から少しずつ特別な方向へと人生の舵を切り始める。プロを目指して競技シーンへ出場するようになったのだ。

「ランクはまだダイヤモンドだったんですけど、割と成績が良くて手応えがあったんです。他にやりたいこともなかったし、挑戦してみようかなって」

アマチュア選手として学生リーグや下部リーグでの出場を始めたSteal。チームの一員として競技に臨むことを純粋に楽しんだ。ステップアップを重ね、目標であったプロチームへの加入も果たした。とはいえ、プロとして結果を残せなければ1~2年でキャリアを終える選手が多いことも理解していた。自分がもっと活躍できる舞台を求めて、Stealは国外リーグへの挑戦を決断する。

「悩んだんですけど、韓国以外でも挑戦はできるし、海外でやるのも楽しそうだなと思ったのが理由ですね。DFMの前にはEUのチームに参加しました。DFMは当時からCeros選手などが有名で、面白そうだと思ったんですね」

このDFM加入が彼のキャリアを決定的に特別なものへと変えた。参戦直後から大いに存在感を発揮したStealはジャングラーとして確固たる地位を築き上げる。DFMの一員として積み重ねた出場試合数は500を超えた。2021年にはRiot Gamesが定める「Interregional Movement Policy(IMP)レジデント」に認定され、日本の居住者として国内選手枠での出場に切り替わった。

「他にやりたいこともなかった」でプロに挑戦した韓国の「よくいる」ファンボーイは、日本LoLシーンの歴史に名を刻むプレイヤーになった。

苦手な「先輩」の立場

Stealを語る上で、彼の言語力の高さは欠かせない要素だ。来日して間もない頃から日本語を勉強し、現在ではもはやインタビューに通訳を必要としない。口癖のように「まぁそうですね、実際」と相槌を打ちながら慎重に言葉を選ぶ「間」の使い方は、ほとんどネイティブのそれだ。

△Twitterでは漢字やカタカナも難なく使いこなす

「日本に来る前はあまり(日本に対して)イメージとか知識とかを持っていなくて、アニメを見たことがあるくらいでした。でも日本以外の国でも、やるとなったらそこの言語は頑張って覚える方だと思いますね」

ゲームプレイの面でも発揮される勤勉さと高い適応力をもってして、日本での生活も「僕がちょっと鈍感なのかもしれないけど、そんなに日本と韓国とで違うかなって思った」と、すんなり馴染んだ。

長くなった日本の生活でも大きく何かに影響を受けることはなく「5年経って少し大人にはなりましたけど、僕自身はあんまり変わらないですね」と笑う。内面が変化している自覚はないが、立場はすっかり変わった。

「僕が最初に入ってきたときも、(当時DFMに在籍した韓国人選手の)viviD選手が色々と教えてくれたんです。僕もこの年になって、次々に若い韓国人の選手がくるじゃないですか。教えなきゃって責任感は、少しありますね」

正直に言えば、初対面の人と話したり大勢で盛り上がったりするのは苦手だ。それでも異国の地に挑戦する選手たちの同郷の先輩として、Stealは奮闘している。特にHarpとYaharong、初来日の2人の韓国人選手が加わった今季、日韓両言語を駆使するStealは計り知れないほど大きな存在感を発揮する。

「オフラインでの試合中は皆に自分の言葉がどれくらい伝わっているか感じ取れたので、どれくらい韓国語を交えるかを自然に考えられたんです。でもオンラインでの試合はそれが難しくて、日本語と韓国語のバランスを調整するよう意識しています」

仲間の様子を確認しながら言語のバランスを取り、ジャングラーとして試合の流れを見極めて戦術を組み立てる。この芸当を他に何人のプレイヤーがやってのけようか。今やDFMにとってStealは欠かせない存在であり、またStealにとってもDFMは特別な居場所になっている。

才人か、変わり者か、リアリストか

異国の地でプロゲーマーとして成功を収め、チームを地域史上初の世界ベスト16へと押し上げた。これだけでもStealの多才さを物語るには十分すぎるほどだが、今では日本のカルチャーを楽しむ吸収力の高さも並外れたものがある。

「昔から観たり読んだりするのが好きで、映画やドラマ、アニメを沢山見ています。マジで色々見たので、ひとつ好きなものを選ぶのは難しいですね。特に読書は小学生の時からずっと趣味で、今は東野圭吾とか伊坂幸太郎、歌野晶午とか、あと海外の小説も読みますね」

ただ、彼のパーソナリティを紹介する言葉は「才人」だと少し物足りない。日常からゲームプレイにまで全くと言って良いほど深いこだわりを持たず、影響を受けた人物や作品も特に思い浮かばない。ジャングラーのロールを選んだのは「全部のレーンをやってみて、一番勝率の高いロールを選んだら、たまたまジャングルだったから」で、好きなチャンピオンは「その時強いチャンピオン」だ。

環境や構成によって柔軟にピックでき、安定したパフォーマンスを披露するSteal

どれだけゲームで負けてもチームメイトが心配するほど怒りの感情を表に出さない。Steal本人も「ちょっと変かもしれない」と自他共に認める変わり者ではある。しかしそれは、目の前にある現実に誰よりも実直に向き合っているからだ。

「将来の目標はたまに聞かれるんですけど、本当に何も考えてないです。考えても良いんですけど、結局今考えても変わらないなって」

今は選手として常に高みを目指し続けたい。それも昨年成し遂げた偉業よりもまだ進み続けられると感じているからだ。Stealは1年ごとに「毎年、今年が最後だと思って頑張ろう」と決意を新たにする。

「上を目指すチームは休むことも少ない。1年を通して走らないといけないし、辛いことも多くて1年がすごく長く感じます。でも1年が終わると、また1年頑張ろうと思う。それの繰り返しですね」

そうした積み重ねでキャリアを紡いできたSteal。本人曰く「今現在を精一杯頑張ろうって感じのタイプ」の彼が上を目指せると感じている限り、DFMの歩みが止まることはない。

(取材・文 ハル飯田)


DetonatioN FocusMeが日本代表として出場する国際大会「The 2022 Mid-Season Invitational  2022(MSI 2022)」は2022年5月10日から韓国・釜山で開催。大会の模様はTwitchにて配信されます。

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