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レトロニム

携帯電話が普及してから、腕時計をしない人が増えたのは当然のことですが、でもやっぱり私はあの長針と短針のある所謂、アナログ時計の方が視認性が良いので、ちょっとした買い物以外はほとんど腕時計をしています。世間のみなさんはどうなのでしょうか?

先日、デジタル庁なる組織が赤プリの跡地に発足しましたが、ますます世の中はデジタル化していくこととなるのでしょう。デジタル化という意味が今一つ良くわかりませんが...

恐らく半世紀くらい前までは、時計といえばアナログ時計のことを指していたはずです。しかしながら1970年代にデジタル時計が普及し始めてから、旧来の時計をデジタル時計と区別するために、デジタルの対義語であるアナログを時計の前につけることになったものと推測されます。

このように、新しく派生し類似した言葉ができたことによって元来の言葉を改変したり付け加えたりすることを『レトロニム(retronym)』と言います。例えば冒頭の「携帯電話」に対する「固定電話」などがそれにあたります。「デジタルカメラ」に対する「銀塩カメラ(フイルムカメラ)」なんかもそうですね。私が子供の頃にはそれぞれ単に「電話」、「カメラ」でしたから。

私には、もう10年近く前から娘に注意されている言葉があります。何だと思われますか?・・・それは、「電卓」です。娘曰く、「電卓なんて呼んでいるのはパパだけだよ、周りのみんなは計算機って呼んでるし」と。

小学生だった娘にそう言われた時に私はハッとしました。「電卓」という言葉はいわば、『逆レトロニム』的言葉なのです。

「電卓」とは「電子式卓上計算機」の略称です。計算機は元来「機械式計算機」で、歯車の組み合わせを利用し、レバーとハンドルを操作することにより計算するものでした(日本ではタイガー計算機が有名)。その後真空管やトランジスタなどを使った「電子式計算機」が登場するものの、大きさは最初は大広間一室くらい。徐々に回路の集積化が進んで小型化、省電力化し卓上に置けるまでになったため「電子式卓上計算機」になったのです。時期はデジタル時計の登場と同じくらい。

「電子式計算機」が登場した時にレトロニム現象で計算機は「機械式計算機」になったのですが、現在はどうでしょう。機械式の計算機なんて博物館か骨董店に行かなければお目にかかれません。また卓上に載らない計算機があるでしょうか。

つまり、もともとは計算機だったものに、電子式と卓上という言葉をつけたのですが、今となってはどちらも必要ないのです。計算機といえば、電子式で卓上なのが当たり前だからです。

娘に注意され続けている私ですが相変わらず、電卓、電卓と呼び続けています。長年使ってきた言葉ってそう簡単には直せないんだよ、わかっておくれ、娘よ。

最後に、きちんとしたレトロニムがまだ生まれていないなと思っている言葉があります。これを上手く命名し定着させることができれば素晴らしいと思います。それは、江戸時代からある元来の「寿司屋」です。回転寿司のお店が普及して30年以上経ちますが、元来の寿司屋を何と呼んでいますか?私や周囲の人間は「普通の寿司屋」とか「回らない寿司屋」とか呼んでます。是非、〇〇寿司という呼びやすくかつ分かりやす名前をどなたかに考えてもらいたいものです。

【2021.9.8追記】そもそも計算機(電卓)をお持ちでない方も多いことと思います。スマホやタブレット、パソコンにその機能があるからです。かく言う我が家も先の娘が学校の授業で計算機を使用するためにわざわざ購入した記憶があります。もしかしたら、計算機という単体の機器はいつの日か消滅してしまうのかもしれませんね。

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