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ともうしまう
2022年10月8日 00:07
家のいちばん奥の座敷は、墨汁と新聞紙の匂いがした。丁寧に緩衝材に包まれ段ボールに入ったそれを見る父さんの顔は、じつに感慨深げなものだった。「よし、行っておいで」声に出してそう言い、慈しむように抱え玄関へと向かう。かなり大きいので、少しよろけた。手伝おうか、と僕は言ったが大丈夫だと言われた。父さんのこんな様子は見たことがなかった。僕は目を離すことができずに、黙ってついていった