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現地コーディネーター

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長編小説「現地コーディネーター」のまとめです。創作大賞2024に挑戦中。
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#アメリカ旅行

現地コーディネーター:第26話

 ドアをノックする音が段々大きくなる。無視しようと夢の世界に逃げ込んでいたものの、鳴り止まないノックにカズマはようやく目を開けた。針で刺すような頭痛と乾ききってヒリヒリする喉。脳は水分補給の必要を訴えているが、身体がなかなか動いてくれない。  ふと思い出したようにベッドの隣を見る。リンはもういなかった。カズマは少しホッとし起き上がると、パンツ一枚でよろめきながらドアに向かった。 「グッド・モーニング!レッツ・ハブ・ブレックファスト!」  ドアを開けるとエドウィンが初めて

現地コーディネーター:第25話

 エドウィンとフリアナはマルディグラ最後のパレードの鼓笛隊をBGMにフレンチクオーターを歩いた。たった二日でこの街に愛着すら感じている。しかしこの華やかなパレードが終われば彼女と別れなければならない事を考えると、エドウィンは自然と彼女の指を強く握った。  カナル通りの電線には数日の間に飛び交ったビーズのネックレスがからまっており、彩りを増していた。通りの端の消火栓や交通標識 にも緑や紫や金色のビーズがぶら下がっている。  エドウィンはふと足を止めるとフリアナの顔を物惜しそ

現地コーディネーター:第21話

 フレンチクオーターはどこを歩いても人がごったがえしていて、どの飲食店も店外まで行列が続いている。並ぶつもりのない三人はテイクアウト専用の簡易屋台のバーでハリケーンというカクテルを三つ頼んだ。地元名物で一度は飲むべき酒だとフリアナが言うのだから飲まないわけにはいかない。 「サウージ!」  出会って間もないのにすっかり馴染んだフリアナの音頭で乾杯をした。オレンジとパッションフルーツのジュースのミックスがすっきりとして飲みやすいが、随分な量のラムが入っている。フリアナになかなか

現地コーディネーター:第10話

 高速道路に再合流すると相も変わらぬ平坦な景色が続いた。エドウィンは地平線にむかって垂直にぶつかる点状の車線を眺め、シューティングゲームの光線みたいだなどと思いながらまどろんだ。遠くのサイレンの音が子守唄のように聞こえる。ふと蘇る幼い頃の記憶。  あの圧倒的な孤独感はきっと「自分がどこにも属せない」事からだったのだろう。その孤独を抑えるために拵えた諦観。その線上にできた慢性的な倦怠感。  カズマの耳障りな大声で現在に引き戻される。辺りはすっかり真っ暗になっていた。「MOT