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現地コーディネーター

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長編小説「現地コーディネーター」のまとめです。創作大賞2024に挑戦中。
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#ニューヨーク

現地コーディネーター:第7話

 四十二丁目の駅に着く。駅構内の人混みの量はブルックリンのそれと比にならない量だ。新宿駅などの人混みと比べても、数は劣るものの圧倒感が違う。ここでは多人種が競い合うように四方八方からそれぞれスピードで我が物顔に進んでいくのだ。右側通行などの暗黙の了解も無ければ、皆に共通した歩きのリズムやペースも全く無いし、雑踏の真ん中で堂々と立ち話に興じる者もいれば、そっと紛れこんで急に手を差し伸ばしてくる物乞いもいる。  白人、白人、黒人。中東系、ヒスパニック、白人、黒人、不明。 エドウ

現地コーディネーター:第6話

 白く透き通った絹のカーテンの隙間から眩しい朝日が無遠慮に降 り注ぎ、エドウィンは目を恐る恐る開けた。時差ぼけなのか見知らぬ 土地にいる興奮なのか、何度も不思議な夢をみて途中で目を覚ました。何の夢だったかは覚えていないが不快なものではなかったはずだ。  リビングのソファベッドから身を起こすと、姿見の前でシャーロットが着替えている様子が目を捉える。上下薄ピンクの下着を纏った小さな純白の胴体ーふくよかな胸と少したるんだ下腹がなんだか生々しい。  シャーロットがふとこちらを向く

現地コーディネーター:第5話

高速二七八号線のミーカー通り出口を降りると、ブラウンストーンのアパートが建ち並んだ細い通りに出る。ガイドブックで見たようなこれぞブルックリンといったグラフィティまみれの建物の合間に新しいガラス張りの高層コンドミニアムがそびえ立っている。  巨大な灰色の建物の外壁には競い合うかのように多様なスタイルのグラフィティが乱描されている。スイス製時計を写実的に描いた広告、サイケな色合いの抽象的なアート、スプレーで殴り書きしたFで始まる罵り言葉の落書きなどが、一瞬だけ顔を見せて

現地コーディネーター:第4話

フライトの到着予定時刻ほぼぴったりにケネディ空港に着いたカズマは少し誇らしい気分でターミナルに向かった。仕事は出だしが肝心だ。右手に冷め切ったコーヒーのコップ、左手に「エドウィン様」と手書きのサインボードを持って到着ゲートに立ちはだかる。  周りには各々の目的に忠実な出迎えの者達が待ち人の到着を心待ちにしている。サインボードを持ったリムジン運転手達はみなスーツ姿で、くたびれたジャケットと薄汚れたジーパン姿のカズマは少し気後れした。相手は所詮大学生だし、ジェフもエドウィンには