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アウトラン【レースゲーム新時代の夜明け】

1986年にアーケードゲームとして発売されたセガの体感ゲームです。

この作品もビデオゲームの歴史上に偉大なる節を作り上げた名作として語り継がれています。

車を操縦するものはそれまでレースゲームと云う名で一括りにされていましたが、アウトランはドライブゲームと云う名称で細分化され1ジャンルを築き上げました。

車ゲームは或る種スポーツ物と同様にルールが固定されていて、ハードの特性以外に差別化を図る事が難しいジャンルだと思われていた感があります。今でこそ当然のようにあるタイムアタックもその当時は明確な遊び方として定着されておらず、障害物としてのCPUカーを抜いて順位を上げて行く事だけが本道とされていました。

プレイヤーにタイム短縮を宿題として呈示したのもアウトランの持つ功績の大きなところです。

アウトランと云って先ず思い浮かぶのが真紅のフェラーリ・テスタロッサを自機とした点です。これより以前のゲームはF1カーをモチーフとしたものが殆どでした。そのような競技用を意識した曖昧なデザインの中に、実車を思わせるフェラーリの自機が動く筐体とともに突然現れたのですから非常に衝撃的たり得たのです。

当時はフェラーリともテスタロッサとも明言はされていませんでしたが、それ以外の車には見えませんので結果としては同様だったとしか云えませんね。

これ以外にレースゲームとして新しかったのは、ゲームスタート時にBGMを3種類の中から選択出来る事でした。いずれも曲調の違う中から気分に合わせて選択すると云う行為は、これだけでゲームの単調化を防ぐ効果を持っていました。

面クリア時にコースが分岐する仕様もプレイヤーを飽きさせない工夫として機能しています。初心者は自分がクリア出来そうなコースをプレイ毎に探せますし、また不得手な面を避ける事も出来ます。上級者は全面クリア後の新しい目標として選択の余地を与えられるのです。

それぞれの面が視覚的に違う印象を構築している点も見逃せない部分です。

それまでのレースゲームでは他の車が即ち敵でしたが、アウトランでは邪魔になりはすれど敵と云う概念では存在していません。ワーゲンやコルベットが一般道を走っているだけなのです。トラックが幅寄せして来るのはお約束とも云えるでしょうしね。

内容はテスタロッサの助手席に乗る彼女との高速ドライブと説明するのが妥当なところでしょう。オープンカーと云う事も相俟って開放感があり、ハードの力とテスタロッサの動きに連動する筐体が疾走感を提供してくれます。

ストイックなレースゲームをスポーティッシュに変化させたのがアウトランの持つ最大の功績だと思います。

現実では味わえない快感をゲーム的に大袈裟な仕様で表現したアウトランですが、細部のリアルさを飽くまで追求しています。タコメーターとギアの連動、車の挙動などは当時かなり本物を意識させてくれましたし、ブレーキを踏むと画面内のテスタロッサのブレーキランプも点灯します。このようなゲームはそれまでに皆無だったのです。

いまでは信じられないような事ですが、以前のゲームでは他の車に接触すると即爆発クラッシュすると云うのがゲームとしての当たり前でした。プロデューサーである鈴木裕さんはそのような非現実を嫌ってか、体感ゲームの第1弾である「ハングオン」から他車に接触しても速度に応じて弾かれると云う仕様を開発してアウトランでも採用しています。

現在の目でアウトランを遊んで見ての感想。ポリゴンのレースゲームが本物に近い立体を提供している昨今からすれば、前時代的なラスタースクロールを使用してコースを描画しているアウトランからは理不尽な感じを受けてしまいます。

しかし、ハンドルを大きく切って急カーブを曲がり続けるダイナミックなゲーム性は、リアル志向だけを正義とする今のゲームへの提案と警鐘を鳴らしているようにも思えました。ゲーム本来の面白さとはどこにあるべきなのかを考えさせてくれるアウトランは隔世を経て今尚名作と呼べるのではないでしょうか。

2004.10.23

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