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セビージャ戦:幸運な勝ち点3

開始直後、いきなりヴィニシウスが見せ場を作りました。

右4枚で素早く追い込んで奪い、バスケスからロドリゴへ。セビージャのCBを釣り出しました。ベンゼマがニアに受けに行かずに右SBとCBの間で待っていたので、逆サイドから圧縮していたヴィニシウスがニアに突っ込んでシュート。クリスティアーノを見ているようでした。あそこで枠外に行くのがなんともヴィニだなという感じではありましたが。

このシーンのようにヴィニシウスは逆サイド展開の時にかなり絞るので、キーパー経由で振り直された時にSBへのプレスが間に合わないタイミングが何度か見受けられました。

セビージャのボール保持

6分のシーンです。セビージャはこの試合、ボール保持では2つの大きな狙いを持っていたように思いますが、そのうちの一つがこれです。

両SBを前進させ、2CBの脇へと中盤からIHが降りていきます。大外の位置にSBを張らせることによってマドリーのサイドバックをつり出させ、開いたCBとの距離をつくというものです。あるいは対応が遅れた場合は高速のクロスを上げて空中戦勝負という感じです。その際前線は必ず、CBの間に入り込む&挟んで前後に飛び込むという動きで迫力を持ってゴールに迫りました。戦術家のロペテギらしくデザインされた攻撃でした。

これに対するレアルマドリードの対応は忍耐でした。433から両ウイングを戻しての4141或いは451べースで、適宜中盤から1人出て行ってベンゼマを助ける442という形です。

ミドルゾーンでボールを保持されている際、両IH両WGのうち一人が、機を見て自分のマーカーを抑えながら相手の最後列に制限をかけに行って(カバーシャドウドウorコースカットプレスと呼びます)相手を追い返すというやり方を取りました。CL でシャフタールが行った守備方法です。この際あくまで3人目以降が無闇に出て行ったりはしませんし、両WGが出ていくこと自体がそもそも多くありませんでした。

大外にボールが入ってしまったとき、右サイドはロドリゴが大外を見る形でしたが、左サイドではヴィニシウスが見に行く形はあまり多くありませんでした。大外にメンディーが釣り出され、ナチョとの間が空きます。メンディーが来るまでの時間差を利用してクロスorニアゾーン(ナチョとの間)の攻略というセビージャの狙いに対して、マドリーは中央三枚(ナチョ、ヴァラン、カゼミロ)の個の力で対応。クロスが上がらなそうな場合ナチョは素早くメンディーの背中をカバーし、カゼミロやヴァランが連動してスライド&カバーを行います。外側を捨ててバスケスが絞って連動するパターンもありました。

レアルマドリードのプレッシング

ゴールキックに対してプレッシングを行った4分20秒のシーンです。

自陣深くでのボール保持では、2CBがGKと後列3枚を形成します。ミドルゾーンよりも1枚多く参加できるので数的優位を作りやすいですが、後ろに逃げ辛くなるためにリスクも上がります。このシーンでは右CBが出て来たヴィニシウスに捕まり、キーパーへのパスが転がっている間にベンゼマに寄せられてコースを消されました。このシーンでは紫の部分で受けようとする人が居なかったために、ベンゼマとモドリッチによってブヌの選択肢が消されてしまいました。

次の5分のシーンでは、キーパーを使ったビルドアップから前進、最終的にムニルのクロスにオカンポスが飛び込んでいきました。この試合、セビージャは密集地にボールを蹴りだして収めるという狙いもっているように見えました。

セビージャのリスク回避

この試合、行き詰まった時はナチョ、ヴァランの手前のスペースに蹴って競らせ、周りの選手に回収させるもしくはメンディーやバスケスの裏に蹴り込んでプレスをかけ、攻撃につなげるという意図があるように見えました。

20分のシーンです。モドリッチ、クロースが中央へのコースを切りながら出ていき、それに合わせてベンゼマがスライドすることによってキーパーブヌに蹴らせることに成功しました。セビージャはナチョ周辺のスペースに人を配置していますが、肝心な中盤がぽっかり空いています。はじき返されたところをカゼミロに拾われて素早くヴィニへ展開。クロースの際どいシュートが惜しくも外れました。セビージャの欠陥から生まれましたが、理想的なショートカウンターとなりました。

ミドル・アタッキングサードのボール保持

まず最初に言えば、バスケスの位置が低い問題は何も変わっていませんでした。ヴィニシウスとロドリゴが張る関係でベンゼマが孤立します。両翼にタイトにつこうと思えばつける筈のセビージャが横幅をスリムに保ってくれることも多いおかげで、後方からのフィードがキレイに両翼へ入ります。ナチョやクロースの低めの弾道でかつスピードの速いボールは何回見てもお見事でした。左サイドではヴィニシウスが仕掛けている間にメンディーが内側を走ってサポートできますが、バスケスとロドリゴは完全に縦関係でしたのでそれは無理でした。ショートカウンター時以外ではロドリゴは構えられている状態でドリブルを仕掛け、1人は躱すものの基本それ以上の脅威にはなれませんでした。

バックラインからバスケスがボールを受けた時にはロドリゴは抑えられていますので、仕方なくカットインを行います。バスケスはドリブラーのウイングということもあって、失敗して奪われることはありませんがリスクの高いプレーですのでよろしくありません。そして、バスケスがSBをやる試合は、足を出してきたところを交わした後に足を削られてファールなんていうシーンは親の顔より見たシーンです。かなりの再現性ですね。一々プレーがとまるので相手は守備の配置を治せます。そうしてクルトワに下げさせられて大きく蹴り、相手ボールというのがいつものお約束です。

このような状況は、機を見てモドリッチがバスケスへのプレスにリアクションすることでしばしば対応できた時もありました。リスク管理という目ではあまり褒められたものではないですが、バスケスのカットインに合わせてハーフスペースに侵入する、もしくはハーフレーンにパスが出そうな場合に先に走り込んでパスを受け、バスケスとワンツーというような打開の仕方がありました。シャフタール戦いずれにしてもロドリゴは死にポジとなっており、さらなる攻撃のために逆サイドへ展開することになります。右サイドをボールが脱出できた時、バスケスは必ず、モドリッチが本来居たい、居るべき位置でボールを持っていることが分かりますね。現にマドリーが上手くいてるときは、モドリッチがこの位置からメンディー、あるいは以前ならマルセロへと逆サイドに展開しています。

シャフタール戦との2つの相違点

右サイドの目詰まり問題は解消されていないですが、シャフタール戦よりはいくらか改善されているように見えました。その根本にはアンカーシステムの採用、すなわちカゼミロの起用にあるように見えました。

①クロースロール

CB2枚と中盤から降りてきた1人が後ろで3バックを形成して配給するという現代サッカーではべたべた過ぎるダウンスリーなる手法がある。最もオーソドックスなのはアンカーがCB間に降りていくアンカー落ちだが、これに致命的な弱点がある。シャフタール戦で地獄を生んだ要因の一つだが、降りていく中盤の選手にしっかりついていくだけで後列を遮断限定しながらプレスを行えてしまうということだ。

中央を空け過ぎたくないという意識かもしれないが、2ボランチシステムの時クロースはCB間に降りる傾向が強いが、アンカーシステムのセビージャ戦ではしっかりCBとSBの間に落ちていった。巷ではこれをIH落ち、もしくはクロースロールと言うらしい。これによって、ヴァランが逆サイドまで一気にフィードをかっ飛ばさなくて良くなったというのも改善点の一つだろう。尤も、クロースやナチョがロドリゴにそれをする必要があったのは変わらなかったが。

②モドリッチのタスク

ウーデゴールからカゼミロに変わったことによって、上手くいっていない右サイドの攻撃にモドリッチがよりコミットできるようになった。それによって前述のようにプレス回避が可能になって攻守分断からロドリゴのみが孤立へと状況は改善された。が、プレスを回避してからバスケスがまた低い位置に戻るので、中盤の守備力担保(カウンター対策)という面ではいい状況ではない。

バスケスの攻撃参加

まずはこの試合最良の攻撃、37分の決定機を見てみましょう。

はい。見てお分かりの通りバスケスが攻撃参加してます。クロースから大きなサイドチェンジが通り、モドリッチもしっかりスライドしてバスケスのサポートをできる位置へ。左のウイングが付いてきちゃって意味ないじゃーん、、と思うのは少し視野が狭めかも。5バックでもないチームはここでサイドがしっかり戻るのが定石ですので、モドリッチの位置取りがミソ。セビージャの左ウイングが居た筈の位置にしっかり陣取ってます。これによってサイドで数的優位の状況を作り出しており、尚且つ4バックに対して5枚という数的有利もあります。上手くヴィニがスルーし、ベンゼマがシュート。これはブヌを褒めるしかないでしょう。褒めまくりです。

そして54分の得点シーン。スローインから中央のクロースを経由してナチョへ。ナチョにボールが入りそうだとなってからのメンディーは、バスケスとは対照的です。

バスケスならとりあえず開いただけだったでしょうが、メンディーはアウトサイドに開きながら深さも稼ぎ、ナチョにスペースを献上。持ち運んでナチョが逃げたところにクロースが入り込みます。そうして作った横パスのコースを遮断されたクロースが今度は中盤に前進。相手が当ててきた2枚は混乱し、クロースが前を向いて受けられました。ベンゼマに預けて入れ替わり、CB間のゲートに突っ込みます。時を同じくしてロドリゴもLSBの内側を奪取。完全に2人のアスリート能力で左CBの両脇を攻略しました。BBC時代のような攻撃でしたね。ヴィニシウスはまたもやクリスティアーノになりました。ですが実際この得点はディフレクションやキーパーの判断ミス等、何よりも両WGのスピードがスーパーだったことによるものです。

本当はこのように、ロドリゴが中央で手前か奥かを駆け引きしていると攻撃の成功率はかなり上がるでしょう。仮にヴィニシウスがSBCB間に走り込んだ場合にロドリゴはCB間見突っ込み、空いたところに走り込んだベンゼマが空中戦で、、という未来があったりなかったり。いずれにしても、バスケスとロドリゴの関係性が何らかの理由である程度改善された場合、チーム全体としてチャンスを生み出せていることが分かります。この得点の場合は両ウイングの身体能力でした。

いろいろな要因でしばしばこの問題はカバーされましたが、分かりやすく目に見えてチームの足枷となったのが深い位置からの組み立てです。

ディフェンシブサードでのボール保持

先ほど言ったクルトワが蹴って回収される問題ともリンクしますが、開いたCBの手前でカゼミロがボールを引き出すシーンがこの試合かなりありましたよね。そしてそのボールは、カゼミロがワンタッチで簡単に前に送ります。

無理もないです。カゼミロにわざとボールが入る程度の余裕を持たせ、かつクロースにはタイトに来るというチームは多いですし、大抵その場合、カゼミーロには前を向こうとしたら奪いに来る感じです。ボール保持という面ではヴァランカゼミロのラインが最もプレスが成功する可能性が高いですから。その経験があって、カゼミロは自分のタッチ数が多くなるとまずいと分かっているのでしょう。

同じように、クルトワにボールが戻ってくるのは右サイドからが明らかに多いです。目詰まりを起こしてますので当然です。そしてその場合、左サイドから来る時よりより追い込まれた状態でボールが回ってきます。要するに余裕が無いんですね。そのような場合、キーパーはボールが来た方向に蹴りだすことになります。余裕が無い状態、極端に言えばダイレクトで逆サイドに展開するのは難易度もリスクも高く、正確性も低いんですね。クルトワは現代のキーパーの中でフィードが上手い方とは言い難いですし。そうすると蹴りだすのはロドリゴの裏をめがけてということになります。左サイドのように数的優位もないので、当然回収されます。この結果ははっきり数字に表れています。驚愕の支配率36パーセントです。特に後半押し込まれたのは、守備の時間が多すぎて運動量が落ちたせいでしょう。

総評

戦術的にしっかり整備され、リスク回避法も完備されたチームとの一戦。結果的にはレアルマドリードが相手にボールを渡すことで試合を殺し、耐え忍ぶことになりました。過密日程で選手も離脱が増えている状況において、やたらと走る必要が出るのはかなり憂慮すべき事態に思えます。それはシャフタール戦同様に右サイドが死んでいるのが大きな要因の一つです。

しかしながら後列と左サイドは更に改善され、アタッキングサードでは右サイドの不調を補っていました。中でもヴィニシウスは時にCR7となり、チームを勝利に導きました。右サイドの状況が改善すれば、全体としてかなりいい方向に向かうでしょう。右サイドも形が改善された時には良いシーンが出来ているので、光明は見えています。再現性を上げるだけです。

グランドバッハは組織と個人の両面でかなりレベルの高いチームですので、このままの状況だと惨敗の未来もあり得ます。ですが低い位置からボールを保持して適切な前進と攻撃を行えれば順当に勝てる相手であるはずです。ジダン監督の延命は右サイドに掛かってくるでしょう。

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