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メリークリスマスブルー

今年もクリスマスがやってきた。
やってきた、とか言うとなんだか変だけれど、クリスマスはやっぱりやってくるものだと思う。道に迷った子犬だとか、雨の日にノックをする訪問者だとか、明け方そっと起き出してプレゼントを届けるサンタみたいに、やってくるものだ。

町中を一夜にしてキラキラにして、あちこちでワクワクしてしまう音楽が鳴り出す。
サンタの姿を探してソワソワとする子供達、ショウウィンドウで陽気なクマのぬいぐるみ、

あなたの欲しいものはなんですか?

「クリスマスはお預け」(原題:The santa's sweet)という90~00年代にかけて放送されたテレビドラマがあって、働く女ベティはいつも何かの事件に巻き込まれる。銀行強盗に誘拐事件に大統領暗殺計画、ベティは回転のいい頭脳を働かせて事件を解決しようとする。そこで現れるのがジェイソンステイサムみたいに拳で敵を片っ端から倒していってしまうような男性パートナー。もちろんはじめは馬が合わなくて喧嘩をしながら協力をする、様々な困難を乗り越えて物語が終わりに近づくにつれて、つまり「いい感じ」になってしまう。というストーリー。お決まりだよね。そのベティ・グレィを務める主演は当時のハリウッドの花形キャビネット・クールで第3回目の恋人エリオットはエリオット・コレオだった。クリスマスシーズンになると毎週金曜日に放送された。ドラマの中の季節はいつでもベルの音と柊の似合う冬だった。

「みんなビジネスで、ほらこうやって、クリスマスだハロウィンだイースターだっていえば色んなモノを買わされる。この紙コップのトナカイだってそうだよ。クリスマスって言ったらオーナメントを飾り出さないといけない。私たちは純粋にクリスマスを楽しむことさえできないんだよ。」テイクアウトのコーヒーを片手に、ブロンドのショートがよく似合うベティ・グレィはクリスマスのイヴにはもれなくそう言った。カルフォルニアの青い空の下何千マイルも走ってオンボロになった白いキャンピングカーのベットの上で、マンハッタンの証券ビルの窓際のオフィスで、ロンドンの小洒落たカフェテリアで、トウキョウのイルミネーション街で。彼女にはいつでも男の子が側にいた。

「恋に人生を生きるのは勿体無いことだよ。不条理なものは尽きないし、負けてたまるかぶっ壊してやるって気持ちも大切だよね?もっと生きやすくなってやりたいもの。でもあらがってばかりの人生はもっと勿体無いよ。」

ベティは失恋したばかりのエリオットに言う。

「そう言う君だって人の事言ってる場合じゃないじゃないか。」とエリオットは大きな体をちじ込めて言い返す。でもエリオットはそれがベティの人に対する愛情からだって事にきちんと気がついている。恋愛的な愛情じゃなくって、って事。

 励ましたり甘えたり叱ったりするのが上手なベティは一見生きやすそうなのに、恋には不器用だったり、おっちょこちょいなところがある。大型ショッピングモールでチューバーッカの着ぐるみを着た人を見て「まぁ見て、なんて体毛の濃い人!」と言うシーンではおもわず笑ってしまう。

綺麗に塗れたネイルがよれてしまっても、高かったヒールのエナメルが剥がれてしまっても、仕事がうまくいかなかった夜飼い猫が死んでしまった時も、ベティはエリオットに会いには行かなかった。電話もしなかった。ただ浴槽にバスボムを放り込んで蛇口をひねって、お湯が溜まる間ソファで水の流れる音をそっと聞く。いい香りのする浴槽に身を沈めてベティはちょっと泣く。それからホットココアを飲んでアイディアノートに日記を書くのだ。

「今日はコットンが死んでしまった。クライアントと行き違いがあって上司に叱られた。ついてない。ココアを飲んだ。自分で幸せになれなきゃ、誰も幸せにできないでしょう。サンタさん今年のクリスマスは桜貝みたいな大きさの幸せを3つプレゼントしてください。」

2017/12/25
すべてのクリスマスナイトに Burger99

#zine #クリスマス #エッセイ #メリークリスマス

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