見出し画像

大人でも楽しめる今こそ読みたい少女小説*「吉屋信子」おすすめ作品

 少女小説と聞くと、女の子向けの読み物なんでしょう?と思う方もいるかもしれません。あるいは「若草物語」や「あしながおじさん」を思い浮かべた方もいるでしょう。確かに少女小説はティーン向けに書かれた作品ですが、少女たちの友情、優しさや健気さからは大人の私たちも学ぶところがあります。今回は日本において少女小説という一大ジャンルを築いた吉屋信子の作品をご紹介します。

吉屋信子について

 少女小説というジャンルの生みの親とも言える吉屋信子は、大正から昭和にかけて活躍した作家です。女学生時代から少女向け雑誌に小説や短歌などの作品を投稿し、その才能を発揮していました。そして成人後に上京して作家としての道を歩み始めます。吉屋の活躍は少女小説にとどまらず、懸賞小説で見事当選をした「地の果てまで」で文壇デビューを果たす実力派です。

なぜ大人になった今、少女小説がおすすめ?

 子供の頃、友達と喧嘩したり、嫌な出来事があったりすると、頭の中が問題でいっぱいになってしまった経験はありませんか。吉屋の少女小説に出てくる主人公たちも、日々家族や友達との関係に一人悩んだり、時には正面からぶつかったりしています。そんな彼女たちの姿を眺めていると、「あぁ、子供の頃ってそうだよね」「私が子供の時もこれが嫌だったな」と自分の心を冷静に見つめ直すきっかけになります。
 吉屋の描く作品は、大正や戦後の昭和など古い時代のものです。しかし、現代に生きる私たちが読んでも少女たちの感性の豊かさやみずみずしさは全く古さを感じさせません。むしろ彼女たちの素朴さ、健気さに心が癒されます。

親から愛されなかった子の成長物語「からたちの花」

 美人の姉妹の中で、パッとしない容姿のために家族からの愛情を十分に受けることができないまま大きくなっていく主人公、麻子。自分に自信を持てず、常に他人の顔色を窺っているような子供です。しかし、友人の藍子と音楽を教える優しい藍子の母親、麻子の唯一の味方である叔母など、周りの人たちに支えられ、時には激しく衝突しながらも、麻子はやがて自分のことを受け入れ大切にする気持ち「自愛の心」を知ります。
 他人からの愛情に飢え、承認欲求を拗らせている麻子の性格は大人しくなったり、逆に積極的になりすぎたりと激しく変化します。そのため時には過ちを犯してしまうことも。しかし、そういった経験や心の変化が自身の成長につながるのだと知る麻子の姿にハッとさせられます。

少女たちの絆と家族愛の物語「青いノート・少年」

 「青いノート」は戦死した兄の遺したノートに、主人公が日記を綴っていくお話です。父が公職追放され、経済的に苦しくなり一家は小さな屋敷へ引っ越します。一方で引き揚げ邦人の同級生は家族を亡くし、お寺の本堂に父と二人で身を寄せ合うという有様。戦後という激動の時代、辛い境遇の中でもお互いを思いやる少女たちの優しい姿に胸が温まります。
 「少年」は再婚して一人東京へ行ってしまう母親と、田舎の祖父母の家に残った娘のお話。かつて幼い自分を残して出て行ってしまった父親が、異母兄弟の少年を叔母の家へ残します。哀れな少年を世話することで、愛することを知り、娘は精神的な成長を遂げます。
 いずれも戦後の大変な時期を懸命に生きる少女たちの思いやり、優しさ、健気さが描かれています。

大人になった今こそ少女小説を読んでみよう

 仕事や家事、育児に日々追われていると、失われてしまいがちな心の潤い。吉屋信子の少女小説は人を思いやる優しい気持ちの温かさを思い出させます。読んでいると少女たちの純粋さに心がほっこり癒されます。
 元々中学生くらいの年齢の子供向けに書かれているので、読書が苦手な方でも読みやすく、手に取りやすいと思います。また、いつもと違ったテイストの本を読みたい方、優しいお話が読みたい方にもおすすめです。少女小説は疲れた心にそっと寄り添ってくれます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?