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『学校で起こった奇妙な出来事』 ⑥

⑥ 「学校が燃えた夜」


○  学習塾・表

    補習を終えて出てくるフォロー中。

    歩きはじめたところで数人の女子中学生に呼び止められる。
    (1年生の、〇〇中学ファンクラブのメンバー)

○  公園

    ジャングルジムの脇に立つ4人の女の子。

    囲まれるようにしてフォロー中が顔をうつむける。

    セーラ服の一人、新井裕子が詰問している様子。

○  近くのランニングコース

    顔を赤らめて走るランニング姿のトーテキ姫。

    豊かなバストを揺らしつつも健康的。

    遠くにふと女子生徒の集団を見つける。

    その間にいるのは間違いなくフォロー中だと知る。

○  公園

    駆け寄ってくるトーテキ姫。

 トーテキ姫 「何してるの?」

    いっせいに振り向く女子生徒たち。

 フォロー中 「トーテキ姫さん……」

    しばらく沈黙の間。

 トーテキ姫 「……いま夜練中で、このあと部の仲間もやってくるはず」

 フォロー中「(口ごもりつつ)塾の帰りで、答え合わせをしてました」

 トーテキ姫 「そう……。テキトーの反対は圧トーテキだかんね」
    と、砲丸投げのポーズ。

 フォロー中 「はい、ありがとうございます」

 トーテキ姫 「じゃあ、明日また」
    と、腕を振りながら走り去っていく。

○  長瀬叡子の家・表

    丘陵の一等地にたつ邸宅。

    ひっそりとした闇のなかに街路灯が浮かぶ。

    二階の出窓から明かりがもれる。

○  同・自室

    仔猫を抱え、ベッドに転がり込む普段着の叡子。

    金森と写る写真立てをとり、物思いにふける。

    ボートの縁でダイバーの格好をして肩を抱き合う姿だ。

    と、遠くからサイレンの音が聞こえたような気がする。

○  篠川久美の家・表

    旧市街の川べりにある造り酒屋。

    重々しい雰囲気の黒っぽい建物。

    二階の格子窓から明かりがもれる。

○  同・自室

    鳥かごのさえずりが聞こえるなか、古風な机に向かう篠川。

    数枚の写真をじっと見入る。

    中空から捉えた通学路での金森の姿だ。

    と、かすかにサイレンの音が聞こえ格子窓を見上げる。

○  高層団地

    丘の上にたつ高層団地。

    闇のなかの団地群を突風が吹きぬけていく。

○  同・河野の自室

    パソコンでメールをチェックする河野。

    丘陵の坂道を撮った不審な画像に見入る。
    (あの日、篠川のあとをつけていたもの)

 河野純一 「(独り言で)ぼくは何もしてないのに……」

    サッシがきしむような音がし、窓ガラスを開ける。

    風が部屋を抜け、サイレンの音が聞こえてくる。

○  興天寺

    旧市街にあるハカイシの家。

    古めかしい門構えにかかる村田家の表札。

    作務衣姿の住職(ハカイシの父)がくぐり戸を出てくる。

    拍子木を持ったまま夜空を見上げ、耳を澄ます。

○  井上雑貨店

    さびれた商店街にあるザッカヤの家。

    小さな店に陳列された玩具のなかにゾンビの覆面。

    店の主人(ザッカヤの父)が看板を降ろそうとし、異音を聞く。

    外に出て、人っ子ひとりいない通りを見まわす。

○  スナック冴子・表

    バイパス下の横丁にある飲み屋。

○  同・店内

    壁に施されたウェストコースト風の装飾。

    そこに絵葉書、アルバムジャケット、映画ポスターなど。

    マイクを握るママ(佐伯の母)の黄ばんだ写真も貼られている。

    唯一のテーブル席で酔いつぶれる中年の元米軍兵ラリー。

    カウンターに残る客(クッパの父)が和え物を食し、盃を重ねる。

 佐伯冴子 「今日はなんて暇なんだろうね。そろそろ店じまいでもしちゃ
       おうかしら」

 クッパの父「(ラリーを横目に)ママはえらいなあ。料理がうまいうえ、
       一人で切り盛りしてるんだから。うちの女房なんか、子ども
       の好物に合わせトウガラシのつまみしか用意しないんだ」
    と焼酎のグラスを持ち上げ、お代わりの仕種。

 佐伯冴子 「立派な会社に戸建ての家、しっかり者の奥さんとたくましい
       息子さんがいてぜいたくというものよ」

 クッパの父「息子は、お宅の哲男くんのことを超前向きな人間だとほめて
       ます」

 佐伯冴子 「"超"というのがクセモノね。姉のように生意気なのも困りま
       すが」

    風で玄関の戸が激しく揺れ、看板の倒れる音がする。

    引き戸を開け、外へ出てみる。

○  同・表

    看板を起こし、四方を見やる佐伯ママ。

    店内に向かって声をかける。

 佐伯冴子 「風が強くなって、雲行きも怪しくなってきたみたい。荒れな
       いうちに切り上げたほうがいいかも」
    と空を見上げ、消え入りそうなサイレンの音を聞く。

○  丘陵の坂道

    草むらから起き上がり、あたりを見まわす金森。

    なま暖かい風が吹きつけ、バイパスの光が目にしみる。

    彼方に頭を覗かせる高層団地。

 金森淳  「家まで飛んで帰れたらな」
    と、びっこを引いてつぶやく。

    渦巻くように聞こえるサイレンの音。

○  実験室

    北校舎1階の実験室から火の手が上がる。

    窓ガラスが割れて炎が揺らめき、緊急用の非常ベルが響きわたる。

○  中庭

    あわてふためき、右往左往する4人。

    ホースの元へ走る佐伯。

    消化器を探すハカイシ。

    池のまわりをうろつくクッパ。

    懐から水鉄砲を取り出すザッカヤ。

○  火災現場

    燃え上がる校舎の下で消火作業をはじめる4人。

    佐伯は先頭を切ってホースを構えるが、いっこうに水は出ない。

    振り返るとホースの元が地面に垂れ、スプリンクラーがまわる。

 佐伯哲男 「(うなだれて)!」

    ハカイシはゾンビの覆面をかぶったまま消化器を持ち出すが、使い
    方がわからず悪戦苦闘。

    いきなり消化液が飛び出し、白い泡を浴びて奇怪なゾンビと化す。

 ハカイシ 「(ほえるように)!」

    クッパはバケツを持って池で水をすくい上げるが、走る最中に水が
    こぼれる。

    掛け声とともに飛び出したのは校長がかわいがる錦鯉。

    じゅうじゅう焼ける音。

 クッパ  「(不思議そうに)!」

    ザッカヤは水鉄砲を手にし、めらめら燃え上がる炎に向かって狙い
    を定める。

    勢いよく注がれたひとすじの水だったが、炎に届かない。

 ザッカヤ 「(くやしそうに)!」

    窓枠が崩れ落ち、ぼわっと青白い炎が吹き出し、空中へ舞う。

    闇のなかに立つ火柱。

    その姿形に魅せられるように夜空を見つめる4人。

○  実験室

    もうもうと燃え上がり、七色の炎が輝く。

    まるで大がかりな実験装置のようだ。

○  幹線道路

    だれもいない道を駆ける金森。

    よろめきながら、無我夢中で、憑かれたように。

○  火災現場

    多くの消防士が立ちまわり、消火作業が続く。

    火の手は徐々に鎮火。

○  中庭

    噴水の石段に腰かける佐伯、クッパ、ハカイシ、ザッカヤ。

    全員ススまみれで、疲労こんばいの態。

    そこへ救急隊がやってきて4人を保護する。

○  救急車の中

    警察官が乗り込んできて、黙って座る4人を見定める。

    覆面づらのハカイシに目を留めたあと、何やら書類を出す。

 佐伯哲男 「……言っておきますけど、ぼくらこういうの苦手なんです。
       お役に立てたかもしれませんが、みなさんから表彰されるほ
       どでないと思います」

 警官   「なんだって」

 ザッカヤ 「ぼくはちゃんと消火しましたからね」

 クッパ  「お、俺たちだって一生懸命だった」

 ハカイシ 「ウーッ」

 警官   「いいから静かにしなさい。きみたちは、どうして学校にいた
       んだ?」

 佐伯哲男 「そ、それはですね」

 警官   「いったいあの実験室で何をしてたんだ?」

 佐伯哲男 「エッ!」

    ほかの3人も驚いたように声を上げる。

 佐伯哲男 「(確認するように)つまりそれは」

 ザッカヤ 「(おずおずと)ひょっとして」

 クッパ  「(まさかという顔で)ぼくたちが」

 ハカイシ 「(くぐもる声で)火をつけたと」

 佐伯哲男 「(憤然と)冗、冗談じゃない!」

 警官   「だから聞いてるんだ。ウソをついたら承知しないぞ」

 佐伯哲男 「まるで犯人扱いじゃないか」

 ザッカヤ 「ぼくたちはただ……」

 クッパ  「みんなで……」

    うんうん唸りながらマスクを外そうともがくハカイシ。

    業を煮やした佐伯がその頭をひっぱる。

 佐伯哲男 「ゾンビごっこしてただけさ。ほら、こいつ見てください」
    と、のたうつハカイシを示す。

    マスクがよじれ、隙間からよだれを垂らしている。



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