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あなたの日本語学習はどこから?僕の勤務していた日本企業中国拠点のケース

注)個別ケースの話で、統計的な事実ではありません。

中国人スタッフが日本語を学んだとき

广州市番禺区

日本企業、特に規模の大きな会社において、英語圏(北米、欧州、インド、東南アジア、豪州etc…)は駐在員自身が英語を駆使して海外拠点の営業・運営をしていくイメージがあるが、中国の場合、基本的には駐在員が中国語を駆使することはなく、主にローカルスタッフの翻译(翻訳)を頼りに仕事をしていくことになることがほとんどだと思う。要するに、中国勤務において中国語能力はマストではない。

本当はそうでないことを理解はしているが、そう書かせてほしい。

そのため、ローカルスタッフの採用要件には「日语工作交流无障碍(日本語での業務、コミュニケーションに障害がないこと)」「日语可业务交流优先(日本語での業務が可能であることが望ましい)」といった項目があり、専門職(技術職、法務職など)でない限りは日本語能力があることが重要である。

私が所属している組織は中国に拠点を持ち始めて20年程度なので、会社に所属しているローカルスタッフは最長で15年くらい、年齢で言えば45歳くらいが最年長世代にあたる。若い世代で言えば私のいた部署では最年少が20代後半であったが、他部署では20代前半の人もいる感じだった。皆さん日本語がお上手なもので、中には私の関西弁ネイティブスピードで話しても問題ない(要点をピックできる)レベルの人もいれば、まあ仕事には支障が出ない…いや出るかも。くらいまでの人もいる。在任中に、純粋な興味で彼ら彼女らはどうして日本語を学ぼうかと思ったのかを聞いたり、普段のやりとりや趣向から読み取ってみたりしたことを書こうと思う。

まずは仕事のため、だけど…

江苏省昆山市

これは当たり前といえばそうだが、彼らは少しでも良い給料を得るために外国語能力を鍛えている。勤続10年以上、40代に差し掛かる層(70~80后前半:"后"は後を意味し、80后は1980年代生まれを指す)は当時の日本企業に勤めることで得られる社会的信用とステータスを求めて日本語を学んだように感じる。この層の多くは日本への留学歴があり、しかしながらあまり日本文化への造詣がないという印象を受けた。日本語はあくまでも求職のためのツールであり、日本という国を気に入っている。といった感じではない。その割り切りがあるせいか、入社時の日本語能力で頭打ちしてそれ以上の勉強をしなくなる傾向があり、基本的なコミュニケーションには全く問題がないが、少し込み入った話になると途端に話が通じにくくなるというのが彼らの特徴にあった。また、この層は比較的愛国心も強く、この前の国慶節でも毛主席のゆかりの地に訪問したり、銅像の前で記念撮影していたりする人もいた。

スラムダンクに熱狂する30代後半、そして留学歴のない日本語強者

応援上映の感動が伝わる

80后後半~90后にぎりぎり届かない世代となると、日本の留学歴に加えて、日本のアニメ文化を吸収している層が出てくる。先日中国でも上映された「THE FIRST SLUM DUNK」は30代後半のローカルスタッフには特にぶっ刺さったようで、湘北のユニを着て見に行く、応援上映に複数回行くといったムーブが見られたのが結構衝撃だった。また、事務所のお姉さまを見ていると青春時代にいわゆる腐女子趣味に傾倒した方もおられたり(机の上に置いてある某日本アニメの作品からその人の年齢をバッチリ当ててしまうという粗相もした)、とあるジャニーズのグループが好きだからという理由でアメリカでなく日本への留学を決めたお姉さまがいたりする。

さらに世代を下って90后となると、彼らはそもそも日本への留学歴がない場合がほとんどである。彼らの日本語学習のモチベーションは日本アニメ、およびゲームコンテンツを吸収するためで、それを補助すべく大学や専門学校で日本語選択をしているし、中には日本旅行さえしたことがないという人もいる(日本に行きたいとは言うが、気軽に日本旅行できるほど金銭に余裕がないのも彼らの特徴でもある)。しかしながら上のスラダン世代を含め「日本のアニメに触れている層」の日本語力の高さは本当に目を見張るもので、中国人の独特の日本語のクセ(ちいさい"っ"の位置がわからない、濁音と半濁音の境界があいまい)以外には日本語ネイティブを相手にも特にコミュニケーションに窮することもないし、サブカルチャーへの造詣があるおかげで世代が同じであれば背景情報でさえ事前共有が不要なことさえあり、また、新しいコンテンツを吸収することでさらに日本語能力を上げてくる人もいる。私は彼らを"厉害(すげえ、やべえの意)"と思いながら快適におしゃべりすることができた。

日本語学習を継承する?

北京市

彼らは仕事のために一生懸命日本語を勉強し、日系企業である程度のポジションを得てきている。70后後半~80后後半の世代は家庭を持ち、中には子供を持つ人もいるが、彼らの子女教育に日本語教育があるかと質問してみたことがある。結果、仕事のためのツールとしての日本語を習得した40代の一般家庭はそもそも子女教育に外国語教育を重視しているようにはあまり見えなかった(普通に中国人としての教育を受けさせて、プルスウルトラをしている印象はない)。そして30代の世代、および不動産収入で何一つ不自由なく生活ができる金持ち上海人は、子女に小学生のころから英語教育をさせる傾向が強いように見えた。彼らは揃って、日本コンテンツは好きなのだが、昨今では日本語ができて日系企業に入ることに大した価値がないことを実感している。それは中国企業の待遇が彼らが日系企業に就職した5~10年前に比べて良くなってきていることもあるし、管理面が厳しくローカルスタッフに資料や数値根拠の作成などを頼むわりに給料が相対的に安くなってきた日系企業は、彼らにとって煩わしいことこの上ないようだ。実際、管理項目が増えるに従い辞める人が増える傾向もある。

中国はいま、教育格差などの問題から塾が禁止されているようなのだが、そのような状況下で親御さんは一般家庭もより良い公立学校の学区に入るべく、その学区の住所を取るだけの部屋(学区房というそうだ)を借りたり、金持ち上海人はそもそも年間学費だけで数百万円するようなインターナショナルスクールに行かせて、将来的にイギリスやカナダへの留学ルートをすでに整えていたりする。こどもをSpecial Oneにするためには英語教育が必須であると思うのは、彼らに共通している思想であると感じた。

日本コンテンツ好きの外国人を大事にしたいよね

「松子、大好き」とのこと 
上海にあるオタクビル

前項を踏まえると、今後日本企業の中国拠点での中国人の採用は年々難しくなるように思える。少なくとも、今後は仕事のために日本語を学ぼうとする人の絶対数は減っていく。それらを解消するには、先ずは給料を良くする、中国拠点の日本人が中国語を習得することではあるものの、これからも日本が良質なコンテンツを海外に提供していけるかにかかっていると思う。今回の中国赴任で、日本コンテンツ好きの中国人の日本語習得能力の高さをまざまざと見せつけられたからよりそう思えるようになったし、この層が仕事の際に日本企業を選択肢に入れてくれると嬉しいものだなと思う。

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