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【バスケのデータ分析論文紹介】Trends in NBA and Euroleague basketball: Analysis and comparison of statistical data from 2000 to 2017

こんにちは

本記事では下記論文の紹介をします。

NBAとユーロリーグのスタッツを比較している論文です。

のっけから脱線ですが、この論文、公開された時期がめちゃくちゃ神がかってると思うんです

2019年8月31日~9月15日にかけて行われたFIBA WORLDCUPでアメリカがまさかの敗退を喫し、ヨーロッパ勢やアルゼンチン、オーストラリアが躍進したのを覚えている方も多いでしょう。
そして、それらのチームには、リュルやカンパッソなど、ユーロリーグでプレイしている選手も多く、バスケ界隈では「ヨーロッパ凄くね。。。!?」という空気があったような気がしています。

そしてこの論文が公開されたのは2019年の10月7日!
中々のタイムリー具合ですね。

「ヨーロッパのバスケもすごいらしいのは分かったけど、NBAとは何が違うのかイマイチ分からない。。。」という人が多いと思うんですけど、そういう人たちに対して、ヨーロッパのバスケの中でもトップレベルのユーロリーグとNBAを比較するというのは。ためになる情報がありそうです。
(ユーロリーグについてのwikipediaページもあったので、下記に掲載します)


ということで実際の紹介に移ります。
※文中の画像は注釈がない限り、論文内の画像を引用しています。

概要

2010~2017のNBAとEuroleagueのバスケの比較を行う。
分析はボックススコア系のスタッツや指標を利用しており、リーグ間の比較に加えて、レギュラーシーズンとプレーオフの比較、ホームとアウェーの比較も行っている。

分析対象

NBAとユーロリーグの2000-01~2016-17シーズンの全試合。
NBAはレギュラーシーズンで41050試合、プレーオフで2764試合。
ユーロリーグはレギュラーシーズンで5032試合、プレーオフで2484試合

分析内容

基本的なボックススコアの結果について、NBAとユーロリーグの数値の差異を見比べ、また、それらをシーズンごとに出すことで、両リーグのボックススコアの推移も比較しています。
(下記のような形です)

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BOX SCORE系スタッツは総数に加え、ペースの違いを補正した総数も算出して分析しています。

また、プレーヤーのローテーション度合いについてもinformation-theoretic (Shannon) entropyという手法を用いて分析したり、ベイズ統計を利用したりしています。
※これらの分析手法について造詣が深くないので、もっと知りたい方は論文を参照していただくと良いかもしれません。

結果

【ペース】

NBAはユーロリーグと比較して1試合あたりのポゼッション数が1.3倍ほどになっていて、試合時間の違いを加味してもNBAの方がペースが早いと言える。

【プレーヤーローテーション】

ローテーション度合いを表す指標の数値は増加傾向にあり、両リーグともよりローテーションする傾向にある

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(左側がプレーヤーローテーションの指標。右側がペース)
※個人的な見方として、NBAではプレーオフに入るとローテーション度合いが減りますが、ユーロリーグではレギュラーシーズンとプレーオフでローテーション度合いがあまり変わらない印象です。

【シュート】

FT%はNBAの方が高く、その差は2.3%
FTAは両リーグで減少傾向にあり、ユーロリーグではより顕著。
└FTが下手な選手が減っており、その影響でFTの得点効率が上がるため、相手にFTを与えないようにする傾向が増えているとの推測
2Pはユーロリーグが成功率高く(+3.7%)、アテンプトは少ない(100ポゼッションあたりで-11.8)。ただし、NBAでも2Pアテンプトの割合が減って成功率は上がっている傾向だが、ユーロリーグに目立った変化はない。
・3Pはユーロリーグでも増加傾向だがNBAでより顕著

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【アシスト・ブロック・スティール・ターンオーバー】

NBAと比較してユーロリーグでは100ポゼッションあたりのアシストが-3.3回、ブロックが-1.5回、スティールが+2.7回、ターンオーバーが+3.3回となっている。また、ブロックとスティールはNBAの数値に近づいている
※アシスト数は、NBAの方がアシストの基準が緩いことに留意

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【パーソナルファウル】

・NBAと比較して、ユーロリーグでは100ポゼッションあたりのファウルが+6.6回となっている。ただし、両リーグでファウル数は減少傾向にある。
・ユーロリーグでは1回のファウルあたりのFT回数が減少傾向にあり、FTを与えない程度のファウルに留めるようにしていると推測される。

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【リバウンド】

・総リバウンド数の全体平均はNBAとユーロリーグで大きな違いはないが、NBAでは総リバウンド数は安定しているのに対し、ユーロリーグではリバウンド数が増加傾向にある。
・DRB%とORB%に関して、ユーロリーグに大きな変化はないが、NBAではDRB%が増加し、ORB%が減少する傾向にある。

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その他、レギュラーシーズンとプレーオフの比較や、ホームとアウェーの比較もありますが、ここでは省略します。ご興味のある方は論文をご参照ください。

考察

・ユーロリーグは、各種プレイの量と質がともにNBAと似てきている。プレイヤーローテションに大きな違いはなく、試合のペースで調節した数値(アシスト、スティール、リバウンド、2PAと3PAのパターンの差異)も大きな違いはなかった。

・ブロックとDRB%は例外で、どちらもNBAの方が数値が高かった。
└この傾向を生んでいる理由の仮説としては、NBAのディフェンダーのフィジカルがブロック数を増やし、さらにオフェンスリバウンドに飛び込まない戦術でORB%が少なくなるから。追加研究は必要
・ファウル数はユーロリーグが多い。審判のジャッジが厳しいか、アグレッシブなプレイが多いからという理由が考えられる。後者の理由は、NBAのプレーオフでファウルが増えることとも合致する。
・大きな違いはペース。
└ユーロリーグは1ポゼッションにかける時間が長く、かつ戦術的なオフェンスをしているのに対し、NBAは1ポゼッションにかける時間が短い。ディフェンスや戦術にあまり注視していないため、結果としてターンオーバーやトランジションが多くなる傾向にあり、さらに一般的な観戦者にとっては魅力的な試合になっている。
しかし、NBAでもプレーオフになるとユーロリーグと同じ傾向になる。これから推測されることは、NBAのチームはレギュラーシーズンでは高いレベルでプレイしていないということ(ストレングスを温存するためか、勝利が至上命題とは限らないからか)。ユーロリーグではレギュラーシーズンとプレーオフで一貫した傾向になっているが、これは試合数が少なく、個々の試合の重要性が高いからだと考えられる

感想

ワールドカップでアメリカが敗退して、ヨーロッパや南米の国が残ったという時期も相まってテーマ設定が面白いなと感じています。

ただ、考察部分は、主観的で未検証の意見を事実みたいに書いているので、そこが読んでいて引っかかりました。BOXSCOREの比較ということだったのでやむなしな部分はありますが、映像分析なりで比較できるといいかもしれないですね。
日本人選手が海外リーグに挑戦するという際にユーロリーグはどんなバスケなのかを知る最初のステップとして使えそうな論文かなと思います。

文献紹介記事のまとめリストです。
本論文以外にも読んだものをまとめているので、ぜひご覧ください。


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