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バスケのデータ分析オンライン講座第6回 ~チームフィットについて~

こんにちは。

アメリカのバスケのデータ分析オンライン講座について、前回は第5回の講義のまとめを行いました。

今回は第6回の内容の振り返りや感想を記載していこうと思います。
内容としては、チームのフィットに関する研究の紹介になります。
※研究の論文リンクはこちら

フィットの捉え方について

  • 今回は選手同士のスキルセットのフィットについての研究

    • 選手同士の信頼が構築されているか、性格面での相性はどうかという、チームケミストリー的な観点もあるが、今回はスキルセットのフィットに焦点を当てる

  • フィットに関する重要な概念は主に下記2点

    • 複数のスキルや選手が協同する

    • 全体が部分の総和と一致しない(Whole ≠ Sum of Parts)

      • ここでの”部分”はスキルのことを指している

  • 上記の概念を踏まえた上で、この後のフィットの分析や考察を行う

フィットの概念に関して、そんなの当たり前ではと思われるかもしれません。
ただ、これを明示しておくことで、この後の分析や考察で考慮するべき点が洗い出しやすくなる(例えば、シミュレーション時に複数のスキルを定義しないといけない等)ので、逐一言語化することは重要だと考えています。

今回の研究で対象にする競技について

  • 今回はフレスコボールという競技を対象に、フィットについて考察する

  • フレスコボールは、2人がペアになってラリーを続ける採点競技

    • Wikipedia

    • 構成要素がバスケットボールに比べて少ないため、フィットの理解が容易になる

  • 2人のスキルセットのパターンを定義して、それを元にこの後の議論を進めていく

フレスコボールでのシミュレーションの各種前提

  • 3つのゾーンと5つの状態を設定

    • Player1のスイートスポット
      (打ち返しやすくて、コントロールもしやすい)

    • Player1のストレッチ
      (範囲内ではあるが、打ち返すのが難しい)

    • Player2のスイートスポット

    • Player2のストレッチ

    • ボールが落ちる

  • 上記の設定に対し、下記の条件を設定

    • 自分のスイートスポットから相手のスイートスポットに打ち返す確率は、自分のストレッチから相手のスイートスポットに打ち返す確率より高い ($${p_{11} ≧ p_{21}}$$)

    • 自分のスイートスポットから、相手がスイートスポット or ストレッチに打ち返せる確率は、自分のストレッチからの場合より高い($${p_{11} + p_{21} ≧ p_{21} + p_{22}}$$)

  • 上記の条件を踏まえて期待されるラリー本数を算出し、それを結果とする。

    • 算出時にはTransition Matrixを用いる

参考図
  • これらに加えて、選手に関してもAthleticismとCinsistency(一貫性)の2種類の能力を設定

    • Athleteな選手は、そうでない選手よりもストレッチエリアからの返球可能性が高い

    • Consistentな選手は、そうでない選手よりもスイートスポットからの返球可能性が高い

    • これら2種類の能力の保持有無で、選手を下記4タイプに分類

      • AC(Athlete, Consistent)

      • AI(Atlete, Inconsistent)

      • NC(Non Athlete, Consistent)

      • NI(Non Athlete, Inconcistent)

この後に、どのエリアから打ったらどのエリアにどの程度の確率で返せるかを設定して、そこからシミュレーションを行うので、ここで条件を設定しています。

フレスコボールでのシミュレーションPart1

選手の組み合わせによって、期待される本数がどのように変わるかに関して、例を3つ上げる

例1_両チームにとって良いトレード

  • パラメータ設定は下記

    • 見方として、ACでは、自身のスイートスポットから相手のスイートスポットスポットに返す確率($${p_{11}}$$)が70%で、相手のストレッチに返す確率($${p_{12}}$$)は25%で、相手が返せないところに返す確率($${p_{13}}$$)が5%。自身のストレッチから返す確率はそれぞれ30%, 40%, 30%となる

    • この後の例では、ここのパラメータが変わるが、見方は同じ

  • これを見ると、(AC-AI)チームと(NC-NI)チームがAIとNCをトレードすると、両方とも結果が良くなる

    • 全社のチームは結果が6.3本→6.6本になり、後者のチームも4.3本→4.4本になる

  • これは、選手の価値が文脈によって変わるように見えることを意味する

俗に言う「Win - Winトレード」は、これの具体的な例と言えるでしょう。
ただ、場合によっては「Lose - Loseトレード」も起こりうるのが悲しいところです。

例2_Marginal Valueの違い

  • パラメータ設定は下記

  • NI-NIチーム(3.5点)の一人をACに変えると5.8点になる

  • さらに残りのNIもACに変えると14.8点になる

  • NIをACに変えることでのMarginal Valueが、2.3点(5.8 - 3.5)から9.0点(14.8 - 5.8)に変わっている

  • 同じ選手を加えても、一緒にいる選手によって加わった選手の提供する価値が大きく見えたり小さく見えたりする

例3_Laguage Challenges

  • パラメータ設定

  • NC-NCチーム(7.9点)がNC-AC(7.8点)よりも高スコアを取っている

    • NCの選手よりACの選手のほうが優れているはずなのに、組み合わせの妙でNC-NCチームのほうが高スコアになる

個々の選手の評価

  • チームの成績を$${選手の価値の合計+Fit}$$と捉えてみる

    • 通常はランダム性によって隠されるが、今回のシミュレーションでは期待値を求めることができる

  • チームの平均的な本数を添付画像の回帰式で捉える

    • 本数をチーム内の選手の能力の合計 + 残差で捉える

    • εは回帰式の残差であるが、今回のフレスコボールでは、すでに選手の能力が定義されているので、εの値はチームのフィットと捉えることができる

  • 上記の検討を踏まえて、2つのリーグでの8シーズン分のシミュレーションを行った

    • 選手ごとにスイートスポットとストレッチから、相手のそれに打ち返せる確率を設定

    • トレードも行うようにし、成績が良いほどそのままチームにとどまり、悪いほどトレードを行うように設定
      ※設定がだいぶ複雑なので、詳細は論文を参照してください

  • 得られた結果と考察は下記

    • 選手の価値が本来よりも高く評価される傾向にある

      • 平均的な選手の価値が、0.15から0.52点分高く評価される傾向

      • フィット度合いが高いチームでは、所属する選手の価値がとても高くなるように見える
        (カリー・トンプソン・グリーンのGSWは、選手自体の価値とフィットを分離して考えるのが難しいみたいな話と解釈しています)

    • 他の選手よりも文脈に左右されやすい選手がいて、そういった選手の特徴として所持スキルが極端ということが見受けられる
      (ピュアシューターが、すでにシューターが揃っているチームに加入しても価値は少ないが、シューターの少ないチームに加入すれば大きな価値になるみたいな話と解釈しています)

    • 成績が1位のチームは、フィット度合いが大きいという傾向があった。

      • もし、実際のデータでフィットを分析して定量化するなら、成績が一番良いチームで研究してみることをおすすめする

その他

  • 講師曰く、この研究のような方向性でこれをさらに発展させた研究はないらしく、そのためこの研究は今でも価値があると仰っていました
    ※少なくとも公に公開はされていないらしいです

  • 講義後にバスケへの応用を考えていましたが、まだまだ超えるべき課題や考慮する点がありそうだなと感じました(例えば下記)

    • スキルの定義が難しい

      • 今回は2種類のスキルしかなかったが、実際はもっと多様なスキルがある

    • 定義できても、スキルレベルの評価も難しい

      • 3Pに関して、選手Aのレベルはこれくらいで、Bはこれくらいと定量化するのが難しそう

    • 対象になる選手数も多い

    • 対戦相手する相手によってもフィットの効果が変わってきそう

      • 平均的にはフィットの効果が+10としても、相手のラインナップによってそれが+5に下がったりするなど

第6回の講義内容のまとめは以上になります。
異なるスポーツを題材にチームフィットについて考える回でしたが、学びになることも多かったと思います
第6回の講義内容はこちらです

この講義に関する記事は下記マガジンでもまとめているのでぜひご覧ください

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