春眠
最近、昔好きだった人が夢に出てくる。
さようならを言いに来てくれたんだと思って切なくなって、春だなと思った。
私にとって春は別れの季節。
学校の帰り道、一緒に遠回りしたなぁとか、珍しくポニーテールをした私をぎこちなく褒めてくれたなぁとか擽ったくなる思い出ばかりが蘇ってくる。
手に入らなかったものの方が忘れられないのはどうしてだろうね、傍にあるものはすぐに当たり前になってしまうのに。
誕生日にぬいぐるみをプレゼントしてくれるような可愛らしい人だった。互いに惹かれあった理由なんて何一つ明確でないのに、それでも私達はこの一瞬がずっと続けばいいのにと半ば祈りのような気持ちで一緒にいた。先のことなんて考えることなくただ今を、互いのことだけを見つめていた。
最初で最後の春。わたしの住む街では桜が直ぐに散っていくら手を伸ばしても届くことはない。
彼のいる住み慣れた景色にはまだ桜がひらひらと舞っていて、同じ景色をみることはもうできない
あの頃のふたりを撫でた風はいつかまた廻り桜を攫っていく、短くて深い春の夢。
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