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複合災害とマルチハザードBCP(#1)

サイエンス・ポータルというサイトに、地震や気候変動などの災害が重なる「複合災害」への備えが必要との記事が出ていた。防災関連の63の学会、協会が参加する「防災学術連携体」が「2024年夏(秋)の気象災害・要因と対策」と題したオンラインの「速報会」を実施した内容の記事である。

こうした認識や見解がいま出てきたことは、複数の災害が重なるという極めて偶発的な事象の起こる確率が、いよいよ高まって現実的な脅威になってきたことを意味する。

因みに筆者は、コロナ禍の最中、ある危機管理の勉強会で、気候災害は時間軸上では「点」ではなく「線」上で起こると指摘した。気候災害はこれから毎年のように、ほぼ確実に日本のどこかで、あるいは複数の地域で同時多発的に起こるようになる。そしてこうした線上のある1点で、大地震やパンデミックなどの別の大規模災害の発生が重なる確率も高まり、壊滅的なダメージを被る可能性があると指摘した。「複合災害」のことを力んで指摘した割りには、zoom 視聴者の反応は皆無であったが。

ところで「複合災害」とは、一般的には異なる二つ以上の災害が同時に起こることを指す。が、もう少し時間を引き延ばしてみると、実際には次の事例のように、一つの災害の復旧が進まないうちに、新たな災害が起こるというケースも増えており、これらもまた複合災害のカテゴリに入るとみてよい。

  • ある中小企業は九州北部の集中豪雨で被災し、やっと復旧できたと思ったのも束の間、新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けてしまった。

  • 2024年1月に、マグニチュード7.6の大地震で被災した能登半島北部の市町村は、復旧がほとんど進まない中、9月の能登豪雨災害で再び壊滅的な被害を被ってしまった。

残念なことに、テレビやインターネットの気象情報では、繰り返し繰り返し、「今回の大規模災害は100年に一度、千年に一度の稀な災害です」と解説するが、こうした解説は「災害はめったに起こるものではない」「今回はたまたま起こった災害である」という誤った印象を視聴者に与えるだけである。

気候災害などは、めったに起こらないどころか、「今起こっていることはまだ序の口。これからさらにはげしい異常気象が増えていく」と、良識ある世界の気候学者たちは警告しているのだ。

ところで、こうした複合災害に、マルチハザードBCP(以下BCPと略す)はどこまで役に立つのだろうか? BCPは、事業活動を阻害する現実的なリスクがあるならば、それらを積極的に「緊急対応マニュアル」(これもBCPの一部)の中に組み込むものである。しかし、単に地震、水害、感染症 e.t.c と、それぞれのリスク対策と対応手順を文書に書き連ねるだけでは、複合災害に対処することはできない。BCPは、種々雑多なリスクを寄せ集めたマニアックなリスク・コレクションではないのである。

では、従来のBCPと一線を画す何か独自の部分でもあるのだろうか。あるとすればそれはマルチハザードBCPのどのエリアなのだろうか。次回はこれを解説しよう。

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