気候危機-失われた3度のチャンス
■米石油大手エクソンの隠ぺい
米石油大手エクソンモービルなど複数の企業は、長年、化石燃料を開発・販売して巨額の利益を得てきた。なかでも世界最大規模のエクソンモービルは、1970年代に、すでに気候変動による地球の温度上昇を正確に予測していたことが明らかとなった(米ハーヴァード大学のナオミ・オレスケス教授、米マイアミ大学のジェフリー・スプラン准教授らの調査チームによる)。
化石燃料は、地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)の排出につながる。エクソンモービルの内部文書には化石燃料の燃焼が地球を温暖化させることを調査した記録がある。その文書によれば「自社の化石燃料製品を燃やせば地球の気温が10年ごとに摂氏約0.2度上昇する」という。ところがエクソンモービルは、対外的には「自社の研究結果は間違いである」として、化石燃料の燃焼と地球温暖化との関連性を否定したのである。気候リスクをいち早く人類に知らしめるよりも、自社の利益のためにこの研究データを意図的に否定したわけである(下記のイギリスBBCの記事を参照)。
■無視されたNASAの科学者の警鐘
1988年、NASAのゴダード宇宙研究所所長ジェームス・ハンセンは、米議会の公聴会でこう警告した。「化石燃料から出る二酸化炭素が地球温暖化を加速させている。2000年代に入れば異常気象が多発し、極地の氷が融解し、海面上昇が起こって大変なことになる。米国はリーダーシップをとって世界の国々に化石燃料の使用を制限するよう訴えるべきだ」。しかしその後、米政府はハンセンの警告を無視したのみならず、この警告をフェイクだとして攻撃する世論(いわゆる気候否定論や陰謀論)も出始めた。
2000年代に入っても温暖化対策への機運という意味では不遇の時代が続いた。石油・エネルギー業界から膨大な資金提供を受けていたブッシュ政権は科学者のコミュニティに圧力をかけ、地球温暖化がもたらしている極端事象をマスメディアに公開しないよう働きかけていたし、CO2規制のための京都議定書批准を拒否した理由もこれである。トランプ政権が 石炭火力を含めた化石燃料発電を重視し、パリ協定から離脱したことは記憶に新しい。
(ジェームス・ハンセンのプレゼンテーション)
■各国やってる感だけの現在
2018年、スウェーデンの国会前で一人「気候のための学校ストライキ」を始めたグレタ・トゥーンベリは、気候危機を訴え、その責任の所在を糾弾する世界的な運動を巻き起こした。しかし世界各国の動きは鈍く、どの先進国も「やってる感」でお茶を濁しているのが現状である。COP26で彼女は、世界のリーダーたちを前に「もう戯言はたくさん!」と怒りを込めて批判した。もっともなことである。どの国も、寝ても覚めても経済成長の呪縛に憑りつかれている。地球温暖化は、「とにかく成長しなければ」という為政者やビジネスリーダーたちの盲目的な脅迫観念によって生み出された結果だと言っても過言ではない。彼らは人類の命を守ることよりも、蓄財を最大化することの方に無限の魅力を感じているのだろう。
このように50年も前から、化石燃料が地球を温暖化させることは明らかだったのであり、人類には温暖化の進行による気候危機を予見する、あるいはこれを食い止めるチャンスが幾度もあったわけだ。しかしその都度、国や大企業のエゴによって無視され、ほとんど何も対策が進まない状況が続いているのが現在の姿である。その結果、私たちは今、ジェームス・ハンセンをはじめとする世界の科学者たちが警告した通り、出口の見えない異常気象と激甚災害の時代に入ってしまった。おそらくこのペースでいけば、近い将来日本でも、夏場は軽く40℃を超える苛酷な熱さ(暑さではない)の中で生きていかなくてはならないのは目に見えている。
自業自得。天然資源を片っ端から搾取され、貴重な生態系をブチ壊しにされた怒り心頭の地球が、われわれ人類に向けて放ったメッセージとして、これほどぴったり当てはまる言葉はないように思える。
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