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地方創生・PR動画から見る 動画活用における重要なポイント

少し前(2021年5月18日)の記事になりますが、京都府京田辺市が「京田辺未来都市」をプロモーションするために制作した動画が、再生回数5千回台と伸び悩んでいることが京都新聞に取り上げられました。


派手な動きの「パルクール動画」不発で焦る市 大金投入も「バズらず」』という記事によると、動画製作費487万円を投じたが、目標とする10万回再生に遠く届かず、同市議から「なぜパルクールなのか。動画の内容にも疑問はあるが、肝心の動画の宣伝が甘い」と厳しい声が上がっていたようです。

2021年9月18日現在は、同動画をYouTubeで確認すると再生回数は11万回を超えており、目標を達成しているようです。市議が言うように、相場よりも高く感じる動画製作費や、なぜパルクールなのかは確かに気になりますが、より気がかりなのはこの動画の目的は何だったのかということです。また、再生数というKPIはこの施策において正しかったのでしょうか?

同市のWebサイトにも記載のとおり、この動画の目的は京田辺市のプロモーションです。

同動画の完成を伝えた『洛タイ新報』の記事には「12年間の基本構想とまちづくりプランといった第4次京田辺市総合計画にある将来像を分かりやすく伝え、郷土愛や定住志向を高める」と記載があります。「ターゲットは、これから定住してほしい若者」ともあり、目的とターゲットは動画制作時点で明確であることがわかります。

地域創生を問わず、動画マーケティングにおいて頻繁におこるミスは、この目的やターゲットが明確でないまま動画制作をスタートしてしまうことです。ありがちな失敗例としては、動画に期待する効果があまりにも広く、伝えたいメッセージを盛り込みすぎたため、長い尺の動画になり視聴されないうえメッセージも伝わらないことです。しかし、今回のケースではそのミスを犯している訳ではありません。

様々な記事から察するに、この動画の目的は以下の2点であることが予想されます。

・京田辺市民の定住思考を高める
・京田辺市外の若者に京田辺市の将来像を伝え、定住を促す

この目的を達成してもらうために、YouTube上で動画が再生されることは確かに重要なことですが、忘れてはいけないのは、動画はこの目的を達成するための一手段ということです。この目的を『プロモーション動画』という施策だけで達成できる訳ではありません。他の施策やコンテンツ、例えば京田辺市のWebサイトやSNS、イベント、パンフレットなど、様々なプロモーションによるタッチポイントがうまく連動し、上記目的の達成に繋げることができます。

平成28年3月発行の「京田辺市まち・ひと・しごと創生総合戦略」によると、同市の人工は2025年に約77,000人に達した後、緩やかに減少していくといいます。2040年には74,369人まで減少し、約2,500人の人口減となるようですので、同市の発展において人口維持と人口減少への歯止めは必ず解決しなければ課題といえます。動画はその目的を達成するための戦術といえるでしょう。

それでは逆に、京田辺市以外の場所で生活する人の立場で考えてみた場合、京田辺市に移住する人のステップは以下のようになります。

1.(認知)京田辺市のことを知る
2.(興味・関心)京田辺市に興味・関心をもつ
3.(比較・検討)京田辺市への移住を検討する・他地域との比較
4.(行動)京田辺市への移住を決定する

今回の動画は、上記の(認知)を狙った施策といえるでしょう。京田辺市への移住を目的とした場合、できるだけ多くの人に動画を見てもらい(認知)、京田辺市のことに関心をもってもらい(興味・関心)、最終的に同市に移住・定住(行動)をしてくれることを目的としています。言い換えると、動画視聴者の内、いくらかの人が移住をすればこの施策は成功したと言えます。そのためには、(認知)のフェーズから(興味・関心)へのフェーズへの誘導が重要と言えるでしょう。例えば動画の視聴者が、京田辺市の魅力や、移住のメリットをまとめたWebサイトなどに遷移することが望ましいといえます。

しかし、この動画が公開されているYouTube上にそのような導線はありません。動画の概要欄にもWebサイトのURLが記載されておらず、動画内にWebサイトへのリンクを表示できる『カード』や『終了画面』なども利用されていません。つまり、次のステップへの導線がないことになります。もしかして...と思い、京田辺市のWebサイトを調べてみましたが、そのようなサイト自体が京田辺市のオフィシャルサイトには存在していないようでした(注1)。

動画は視覚的で分かりやすく情報量が多いため、京田辺市の魅力を伝えるのには非常に良いコミュニケーション手段ですが、魔法のツールではありません。動画は他のコンテンツと同様に、様々な戦術や施策とうまく連動することで効果的な手段となります。もし、仮に上記のようなWebサイト(京田辺市の魅力や、移住のメリットをまとめたWebサイト)が京田辺市のWebサイト内に存在し、今回のプロモーション動画からWebサイトへの誘導を促していた場合、より重要なKPIは動画の再生数ではなく、Webサイトのアクセス数になっていたでしょう。仮に動画の再生回数が5千回であったとしても、Webサイトへの誘導が50回出来ていたら成功といえるし、逆に10万回再生されても5回しか誘導できていなければ大失敗といえます。

今回、京田辺市の施策は動画の目的やターゲットは明確でしたが、最終的なゴールへの誘導や、ゴールまでのコンテンツが手薄であったと言えるかもしれません。市議は「肝心の動画の宣伝が甘い」と批判していましたが、動画の再生数が増えたとしても、次のステップに繋がる施策やコンテンツがなければ片手落ちです。地域創生における動画活用では、動画を作ることが目的とならないように気をつけ、Call To Action(次のステップに繋げる導線)を配慮することが重要なポイントと言えるでしょう。

注1:2021年9月18日時点 

【告知】動画の効果的な活用方法や、効率的な制作方法を聞くことのできる『Video Helps Society』というイベントが2021年9月28日〜9月29日にオンライン上で開催されます。動画に携わる担当者の方は必見のイベントになっていますので、是非お申し込みください!


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