見出し画像

ルソーの緑


アンリ・ルソー〈餓えたライオン〉

エキゾチックなジャングルの絵で名高い巨匠アンリ・ルソー。ナポレオン3世時代にメキシコ遠征に従軍し、その時の思い出をもとに、この〈餓えたライオン〉をはじめとする作品群を描いた、と彼自身は称していたが、実際には彼はパリから出たことがほとんどない。
ジャングルの風景も、パリにある植物園に通い、想像を膨らませて描いたものである。

生い茂る木の葉を、印象派あたりなら、細かい筆致で緑や黄を並べて表現するだろう。
が、ルソーは一枚ずつ形をはっきりさせて描く点に特徴がある。
そして、「緑」と一口に言っても、この作品の中には何種類もの「緑色」がある。
黒みがかった緑。
やや明るめの緑。
隣り合う緑でも、色の濃さが異なるものもある。
それらが執拗なまでに重ねられ、画面からはむっとするような熱気が立ち上るかにも思える。
以前『風景をめぐる~』の執筆の際に、調べたところでは、ルソーは「ジャングル」を描くにあたって、20~30種類の緑を使い分けていた。
しかも、一つの色で集中的に描いた後、パレットを綺麗に洗って、また新しい色を作る、というやり方を取っていた。
想像するだけでも、集中力と根気のいる作業である。
しかも、頭の中に作り上げた「夢」の世界に、こうして目に見える形を与え、「作品」に昇華できる、というのも、考えてみれば驚くべき力、とも言うべきか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?