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フォンダンショコラを食べながら

 満月の下、京都御苑や鴨川の河原という確かな場所に不思議な空間が生まれる。その名も「満月珈琲店」。星詠みマスターの心遣いや人生指南が、登場人物の心を動かしていく。

 「満月珈琲店」では客がメニューを選ぶのではなく、マスターがその人合ったものを出してくれる。珈琲店なのだが、珈琲を出してもらえるのは限られた人だという。客に出される洒落た名前のスイーツは、読み手の脳を誘惑する。「満月アイスのフォンダンショコラ」の甘い香りが、口いっぱいに広がった。

 星詠みの解説で映し出される出生図に私は目を奪われた。そして登場人物と同じ目線で説明を受けていた。「羅針盤が表す課題は何か」が問われる場面では、登場人物と自分自身が重なって、共に悩む展開になった。「第一室の星座は、山羊座からスタートしている」という登場人物との共通点に気づき、出生図と睨めっこした自分がここにいる。太陽星座と月星座のことしかわかっていなかったことに軽く反省した。惑星の働きについて、どんどん興味が湧いてきた。筆者の意図にまんまと引っかかってしまったようだ。「気づいた時が変わる時」だという。自らの出生図に興味を持つことは、「ここからどう成長していくか」自らの立ち位置を考えるきっかけになる。私の「課題」は何だろうか。いつの間にか作品を離れ、自分事になってしまった。

 さて、この出生図「運命のレコード」を読み解く星詠みマスターと店員たちは、満月の日だけ「満月珈琲店」を営業する。そこで起こる不思議な出来事から、縁ある人々の確かな繋がりを実感することになる。登場人物が話す「これは猫の恩返しなのか」の答えが、リアルに再現されている。すべては意図されたものなのだ。夢かまことか、不思議な猫のお話である。作品には、時折クラッシックの音楽が流れてくる。しっとりとした時間の中に、優しさが広がっている。登場人物と音楽との繋がりは何であろうか。作品を読み返すと、さまざまな仕掛けに気付かされる。

 もうすぐ「風の時代」だという。自分らしく生きていくことが、今まで以上に求められるのであろう。いま娘のスマートフォンから「夜にかける」が流れてきた。吹奏楽部の演奏が、私を優しく包んでくれる。今夜は満月ということにして、夢の中で「満月アイスのフォンダンショコラ」をいただいてこよう。

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