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3Dプリンタは魔法なんかじゃない。 #2

 こんにちは、こんばんは、AZUです。

 週一回といいながら前回から時間が空いてしまいましたが、ND3Mのメンバーが自分の思考を整理して吐き出していく企画「スパゲトーニの茹で時間」、前回のつづきです。
 ほかのメンバーが書いているnoteもマガジンにまとまっているので、そちらもぜひ。メンバーの個性があふれています。


第2回は、「本物の」建築が、3Dプリンタをつかってどう変わっていくのか、すでに実践されている例をじぶんなりにまとめてみました。
私自身あまり理解できているわけではないので、理解の足らない点があるかもしれません。

DUS Architects "3D Print Canal House"

まず、私達のよく知る3Dプリンタを巨大化して、建築をつくってみようという取り組みから。

DUS Architects は、オランダ、アムステルダムにある、2004年に設立された建築デザイン会社です。主に樹脂の3Dプリントで、建築を構成する試みをしているそう。

こちらのビデオをみると、3D Print Canal House の概要がわかります。
運河の伝統的な町並みの Canal House を3Dプリンティングで再現しようという試みです。

樹脂はバイオプラスチックのペレットを用いて、かなり太いノズルから押し出して積層しています。制御ボードも、私の持っているプリンタについているようなものです。素材も作り方も、まさにそのままFDMプリンタを大きくしたような構成です

違いといえば、樹脂のフィラメントではなく、ペレットを用いていることかなと。
フィラメントの場合、リールの長さも太さも規格されてしまい、巨大なものだったり、連続してプリントする場合などで交換の不都合が生じてしまいます。しかしペレットの場合、ノズルが太くなればその分多く送り込めば良いだけで、補充の際もそのまま上から投入するだけなので随分効率的です。
また、砕いた樹脂をそのまま使えるので、一度成形したものを再びプリントすることも容易になります。

建築そのものではないですが、DUS Architects の実践を、日本でもみることができます。

長坂常/ スキーマ建築計画が手掛けたLOFTの旗艦店、LOFT銀座に、DUS Architectsの3Dプリント什器が採用されています。
3Dプリントならではの積層感がうまく生かされた作品なのではないでしょうか。

建築そのものを樹脂で作ることはまだ難しくても、ファサードやインテリアに、3Dプリンタの造形が実現されつつあることにワクワクします。それとともに、3Dプリントならではの造形が建築の単位で可能になるときに、どんな魅力的な空間が実現できるのか考えさせられます。


コンクリートを3Dプリントする

おそらく、建築をつくるというところでは、現在一番実現されている方法ではないでしょうか。

とはいっても、いろんな方法があるようです。

WASP のデルタ型3Dプリンタ 
イタリアで、デルタ型3Dプリンタの開発をしている企業、WASPが、家をプリントするプロジェクトを行っています。こちらも、大きいけれども形は3Dプリンタですね。

https://www.3dwasp.com/en/stampiamo-insieme-la-prima-casa-di-terra/

こちらは、コンクリートに枯れ草を混ぜ込んで補強しているみたいです。

その後、デルタ型ではなく、もっと大きいものを柔軟に作成するため、クレーン型の3Dプリンタを制作しています。

こちらは、モジュールを拡張して平面方向に広げていこうという方針のようです。

正直、デザインとしてはあまり面白くないなと感じてしまいます。
日本には組積造の建築はあまりないので、馴染めないというのもあるかもしれませんが、先程のDUS Architects のものと比べると、3Dプリンタならではの造形を追求するというよりは、工法の一つとして、コストカットを図るというアプローチが多いようです。

この、クレーンの先にヘッドを取り付けて、コンクリートをプリントするという方式はかなり実用化がすすんでいます。
例えば、アメリカの建設会社、ICONが発表した、4000ドルで家が立てられれる3Dプリンタなんかも、このタイプです。

こちらはかなり家らしい見た目をしていますね。住宅やエネルギーの供給が十分でない地域に、低コストで提供するというプロジェクト。

中国なんかでも、3Dプリンタでビルを作った、というニュースがちょくちょく発表されています。
機械が自動で組み立て、低コストで早く建築を作れるということはそれだけ魅力的なのでしょう。


ただ、先程も書きましたが、日本ではなかなか受け入れられないのではないかと思っています。組積造が身近でないだけでなく、このままだと鉄筋が入らないので、地震などに対しての耐久性など、乗り越えるハードルはかなり高いのではないでしょうか。

では、日本ではどのような研究がされているのか、2つの事例を見てみます。

大林組のスリムクリート

これはたぶん見たことのある人も多いのではないかと思うのですが、鉄筋と型枠なしにコンクリートシェルをプリントした事例です。

この場合は、積層したものを横に倒して接続することで形をつくっています。ロボットアームの先に取り付けたノズルから、モルタルを積層して外枠を作り、それができたあとで、その間にスリムクリートと呼ばれる流動性の高い繊維補強コンクリートを流し込み一体化させるという工法です。

鉄筋に代わり、繊維補強コンクリートを用いて構成する方法は3Dプリント向きで、技術が確立されてコストの問題が解消されれば、小規模な構造物ではひろまっていくのではないかと考えています。

竹中工務店の樹脂型枠

一方で、竹中工務店は、コンクリートの型枠を樹脂3Dプリンタでつくる取り組みをしています。

SFCの田中浩也教授と共同で、ArchiFABという3Dプリンタを制作しています。

型枠を細かな凹凸、曲面で作成できる樹脂型枠を作成し、打設後もそのまま残存させる、化粧型枠として用いるという計画です。

最初のDUS Architects の事例と同じ様に、3Dプリンタを意匠的に用いるという流れと似ていますが、この事例は、低コストで機能性と意匠性を併せ持つ工法となりうるのではないかと思います。

まず、複雑な型枠を、機械で製作できるという点です。3Dプリンタのメリットは、ただの平面でも、複雑な形状でも、樹脂の使用量でしかコストは変わらず、複雑な形状を低コストに実現できます。

また、型枠をそのまま表面の仕上げとして用いることもできます。樹脂の耐久性などがどのようなレベルなのか、私はまだ勉強不足ですが、高耐久なものを用いることができればかなり現実的なのではないでしょうか。さらに、一体成型した型枠をそのまま残置することで、柱の拘束効果なども得られるのではないかと思っています。


金属を3Dプリントする

ここまで樹脂の3Dプリント、コンクリートの3Dプリントを見てきましたが、最後に金属の3Dプリントで構造を作る事例を見てみます。

代表的なのは、こちらもオランダ、アムステルダム、MX3Dのプロジェクトではないでしょうか。

ステンレス鋼のフィラメントをロボットアームの先端で溶かし、溶接して、橋をつくるプロジェクトです。コンクリートなどと違い硬化が速いので、垂直な面も積層していくことが可能になっています。
AUTODESKと共同開発したソフトウェアとロボットアームを用いて、これまでの鉄骨加工ではできなかった造形を実現しています。

橋のスケールではコストの問題など、まだ一般的にはならないかもしれませんが、MX3Dと竹中工務店が共同で行っている、建築構造用スチールコネクタは、今後の可能性を感じさせてくれます。

木材を接合するジョイントを、MX3Dのロボットアームで3Dプリントするプロジェクトです。
トポロジー最適化で設計され、内部は中空になっています。プリント後、コンクリートを充填し、コンクリート充填鋼管構造(CFT)としています。

鉄骨造の建物も3Dプリントで作られるようになると、さらに自由な造形がかのうになりそうです。

まとめ

今回は、3Dプリントが実際の建築の現場でどの様に用いられようとしているのか、実践の例を少しだけまとめてみました。低コスト・省力化の流れ、造形の追求の流れなど、さまざまな可能性が広がっていきそうだと感じました。

3Dプリントに限らず、デジタル・ファブリケーションをが広く普及すると、これまでにない造形が可能になるのは勿論、低コストで速く、形を作ることができるようになるはずです。
3Dプリンタやレーザーカッターなどを使えば、安定して造形・加工ができるようになれば、どんなに複雑だったとしても、材料の量とかかる時間でしかコストは変わりません。コストの問題であきらめていたり、加工法が無くてあきらめていたり、といった造形が誰でもつくれるようになる可能性があるところがデジタル・ファブリケーションの魅力なのではないでしょうか。

すでに、家庭用の3Dプリンタの価格はかなり下がり、気軽に自分のアイデアを形にすることができるようになっています。それだけでなく、VUILDのEmarfなど、距離と手間のハードルを越えて実現できる手段が登場していて、ものづくりに対するハードルがかなり下がってきていると感じています。

前回も最後に書きましたが、環境がないことを理由に作ることをあきらめなくてもいい、ということにワクワクする毎日です。


なんだかぱっとしない終わり方になってしまいましたが、今回はここらへんで。次回は、建築から離れて、3Dプリンタで実用品を作ったときのことについて書こうかなと思います。

ありがとうございました。


#3Dプリンタ   #デジタルファブリケーション   #建築学生
#ND3M   #スパゲトーニの茹で時間


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