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【笛吹市青楓美術館】ぶどう畑の中の最古の美術館(9) 市が統合計画を白紙撤回

はじめに

 ぶどう畑の中の最古の美術館こと笛吹市青楓せいふう美術館については、2025年度までに笛吹市内の春日居郷土館・小川正子記念館への統廃合が計画されていました。その件について、美術館の存続を願う立場から以前note記事にして紹介しました。
 その後、署名運動の広がりを受け、市は統合計画をいったん白紙に戻すことを表明しました。本稿では、白紙撤回までの経過と今後の懸念点をまとめます。

桃の花にも包まれる青楓美術館 2024年4月

統合計画は白紙となる

 美術館存続のための署名運動の広がりを受けて、昨年(2023年)の12月議会にて市側は計画の再検討を表明しました。
 2024年3月29日には、6522筆の署名が市長に提出され計画の白紙撤回が報道されました。
 統合計画の公表から白紙撤回されるまでの経過を時系列で以下にまとめました。

山梨日日新聞 2024年3月30日付

統合計画の公表(2022年9月)

 2022年(令和4年)9月2日の報道により、青楓美術館を笛吹市春日居町の春日居郷土館・小川正子記念館へ統合する計画案が公表されました。
 山梨日日新聞(2022.9.2)によれば、市は建物の老朽化、バリアフリー、大型バスの進入のためには周辺道路が狭い、等の理由から2025年度までに春日居郷土館・小川正子記念館を改修し青楓美術館の作品を移すという内容でした。

山梨日日新聞 2022年9月2日付
統合先とされた「春日居郷土館・小川正子記念館」

 下記リンクは文化財課が作成し公開されている資料です。報道にはありませんが利便性の高い中心部(石和温泉)へ観光資源の集約という理由も挙げられていました。

個別施設計画(文化施設編)
https://www.city.fuefuki.yamanashi.jp/documents/6486/k5.pdf

存続会の発足と署名活動(2023年6月)

 2023年(令和5年)6月、地域住民が中心となり「青楓美術館の現地存続を求める会」が発足し本格的に署名運動を展開します。
 現地存続を求める理由として、青楓美術館が山梨県現存最古の美術館であることや、私費で故郷に設立した故小池唯則の思い、統合先がハザードマップの浸水地域であることなど挙げています。

山梨日日新聞 2023年6月22日付

 署名は地域住民、文化協会のほか、二科会山梨支部などの美術団体、美術ファンなどで展開されました。また、オンライン署名サイトを利用した署名も並行して行われました。
 また、美術館の駐車場に面した私有地に現地存続の看板と署名スポットが設けられました。

署名スポット、現在も署名運動は継続中
来館時に署名した人も

 署名運動のほうは活発に進められましたが、一方で山梨日日新聞の青楓美術館に関する報道は突然扱われなくなりました。

朝日新聞が報道(2023年9月)

 署名開始から2ヵ月が過ぎ、朝日新聞が山梨版紙面で取り上げました。この時点で署名が2000筆集まっていることも報じています。

朝日新聞(山梨版) 2023年9月7日付

 統合反対の声について市長のコメントが載りました。
 市長は「他施設との合併が決まっているとは一言も言っていない。ごり押しでやっているわけではない」と言っています。
 一方で「あり方についてはかなり意識してきた。(立地の課題を踏まえ)少しでも一般の方に広く見ていただいた方がいいのではないか」とも言っており、石和(春日居)温泉方面への観光資源の集約に強いこだわりが感じられます。

笛吹市議会(2023年12月)

 笛吹市の12月議会で一般質問が行われました。ここで潮目が変わります。
 最大会派の議員が「笛吹市博物館(春日居郷土館)と笛吹市青楓美術館の統合について」として質問に立ち、現地存続を求める理由を挙げて市に見解を求めました。
 これまで美術館については文化財課が答弁しています。しかし、今回は違いました。総合企画課が答弁に立ったのです。質問への回答はなく文化施設の在り方を再検討すると公表したのです。
 ただし、議会でのこの重要発言は、白紙撤回の表明にも関わらず、マスコミは一切報じていません。

笛吹市議会議事録(令和5年12月8日)
daiyonnkaiteireikaigijiroku.pdf (city.fuefuki.yamanashi.jp)
38ページから43ページに本件のやりとりがあります。
 動画は下記でご覧になれます。

 総合企画課と議員のやりとりの最後、市長が発言求めています。切り取りとならないよう、議事録より市長の発言をそのまま転載します。

大変貴重なご意見、ご議論をいただきまして、大変どうもありがとうございます。 私、市政7年目、迎えさせていただいて、とにかく市民の幸せ、また安心ということが、どこの市でも当たり前のことですけれども、必要なことでございますし、市民の反対することをですね、強引に持っていくなんていうつもりは毛頭ございません。 ただ、われわれとしても当然のごとく計画をつくって、皆さま方にお見せしたわけですからね。われわれが勝手に作ったわけじゃないですよ。議会の一応ご了解をいただいた中で、個別計画をつくって、それを一つひとつ進めていきましょうということなわけです。ただ、当然のごとく計画は計画ですから、実際、具体的に皆さん方といろいろ具体的な議論を詰めていく中で、当然、市内の皆さんからいろんなご意見もある、また議会からもいろんなご意見をしっかり踏まえた中で結論を出していこうというふうな民主的なやり方で、非常に進めさせていただ いておりますので、今回のご意見もですね、しっかり、十分、教育委員会から運営委員会の皆さまのご意見というのは、私、全て聞いておりますので、十分、その中の意見も反映させながら、総合的に、最終的に判断をしていく、そういう方向付けに、もう一度、原点に立ち戻りましょうということでございますので、なんかあまり、物を下げてしまったとか、そういうことではなくて、あくまでも原点に立ち戻って、今、青楓さんだけが非常に議論にのぼっておりますので、笛吹市には先ほど言ったように八代にもいろんな郷土館がありますので、これを全て、 もう一度、テーブルの上に並べて、そして何が本当にいいのかということを検討委員会をもって、これから検討させていただいて決定していきたいということでございますので、ぜひともご理解を賜ればと思います。どうもありがとうございました。

笛吹市12月8日市議会、議事録

 筆者の見方ですが、市長の発言は、強引に進めているように思われているがそうではない、議会の了解を得て進めていた、青楓さんだけの議論ではなく文化施設全体で見直しましょう。というあたりに苛立ちがにじみ出ているように感じます。
 強引に進めていないという言葉が市長から出るのですから、そのように受け止められてきたのです。リハーサル展示のつもりか春日居郷土館で津田青楓の企画展を2年連続で開催したり、統合先に近い春日居小の児童に青楓の鑑賞作文を書かせたり、教育現場も動かして統合ための足場づくりを進めてきたのです。
 しかし、市長は就任から7年過ぎていますが一度も青楓美術館へ足を運んでいないですし、春日居郷土館の青楓展へも足を運んでいないのです。津田青楓の芸術性よりも観光資源としての潜在能力に関心があるとしか思えないのです。

署名提出、要望書の提出(2024年3月)

 2024年3月29日、市長と「現地存続を求める会」が市役所で面会し、これまで集まった署名と現地存続の要望書を提出しました。2023年6月より集めた署名は6522筆となっていました。
 これまで報道を控えていたマスコミでしたがこればかりは取材が入りました。しかし、取材は冒頭のみで面会の内容は非公開とされました。署名の提出と面会で取材を締め出すのは異例のことで、このあたりからも市長の苛立ちがみてとれます。

 山梨日日新聞系のYBSテレビの夕方のワイドニュースでも番組欄には「存続署名提出」の見出しがありましたが、YBSテレビでは報じられておりませんでした。最初に報じたのはNHKの夕方のニュースでした。NHKが報じたことで翌朝の山梨日日新聞の紙面でも報じられました。
 山梨日日新聞の紙面は形式的なもので、市長のコメントは「さまざまな意見を聞き、良い形で運営できるようにしていきたい。」とだけでした。それでも地方紙に報じられたことで白紙撤回は、県民に知られることとなりました。

山梨日日新聞 2024年3月30日付

 こちらが、先に報じたNHKの地域ニュースです。リンクが切れる前に転記しておきます。

笛吹市一宮町にある青楓美術館の現地での存続を求める市民グループが、要望書と署名簿を市に提出しました。

要望書と署名簿を提出したのは、「青楓美術館の現地存続を求める会」です。
29日は、メンバー5人が笛吹市役所を訪れ、要望書と市内外から集めた6500人余りの署名簿を山下政樹市長に手渡しました。
笛吹市では市内の文化芸術施設など個別施設の計画で、青楓美術館については春日居郷土館に機能を統合するとされていましたが、市は去年12月の市議会で市内の大小さまざまな文化施設を総合的に判断して統廃合するかを決定したいとしていました。
要望書によりますと、青楓美術館は県内最古の美術館で地域文化のシンボルであることや、統合先とされる春日居郷土館はハザードマップの浸水危険区域にあることなどから青楓美術館を現地で存続してほしいとしています。
青楓美術館の現地存続を求める会の小林俊一会長は「市は地域の資源を掘り起こすと言っています。その拠点となるのが青楓美術館だと思います」と話していました。
笛吹市の山下市長は「市内の文化施設をどういうふうに将来にわたって発展させていくのかを総合的にもう一度考えましょうという話をした。これからよく研究していい形で運営する方策を取っていきたいと思います」と話していました。

NHK 山梨 NEWS WEB 2024年3月29日

この先の懸念

 2025年までの統合計画は白紙になったことで、青楓美術館は当面存続できることになりました。しかし、再検討であり仕切り直しということですから安心はできません。なにより検討委員会の有識者は市が選任するのですから、検討した結果によっては再び存続問題に直面しないとも限りません。

署名は現在も継続中

おわりに

 統合問題が白紙となった今の状況までを報告いたしました。今後は、市が年度内に立ち上げる検討委員会の推移を見守ることになります。
 署名や拡散、青楓美術館の観覧など、応援いただいた皆様に感謝申し上げます。

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